著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
Microcos paniculata L.(以下、ML)は、中国・嶺南地方で薬草茶として広く飲まれてきた食用植物です。2010年には中国の国家衛生健康委員会により、食品・飲料の原料として使用が認められています。乾燥させた葉には、フラボノイドやフェノール酸などの成分が多く含まれることが知られています。
中国には、薬用植物は産地によって成分や品質が変わるという「道地」の考え方があります。しかし、MLの風味や機能に関わる品質が地域でどう異なるのか、その背景は十分に調べられていませんでした。特に、葉の表面にすむ微生物(葉面微生物)が地域差とどう関わるのかは分かっていませんでした。
そこで研究チームは、産地の違うMLでは、葉の表面の細菌の集まり方と香り成分の構成がそれぞれ異なるという仮説を立てました。そのうえで、品質の違いや産地の見分けに使える手がかり(マーカー)の候補を探しました。
何をどう調べたか
研究チームは、広東省、広西チワン族自治区、雲南省の3地域から、同じ秋の収穫期に集めたMLの葉を比べました。試料は計6つのロットです。茎を取り除いた葉を粉末にし、さまざまな角度から分析しました。
まず、葉に含まれるポリフェノール類(総フェノール量)とフラボノイド類(総フラボノイド量)を測りました。さらに、試験管内の化学反応で抗酸化力を3種類の方法で評価しました。お茶にしたときの色も測定しています。
香りについては三つの方法を使いました。一つ目は、複数のセンサーで匂い全体のパターンをとらえる「電子鼻」です。二つ目は、訓練を受けた6人の評価者が中国の国家規格に沿って行う官能評価です。三つ目は、試料から立ちのぼる揮発性成分をガスクロマトグラフィーと高分解能の質量分析で分ける分析です。
葉の表面の細菌は、細菌に共通する遺伝子(16S rRNA遺伝子)の配列を読み取る方法で調べました。どのような細菌がどの程度いるかを地域ごとに比べています。最後に、気温や湿度などの産地の環境、細菌、成分、品質の指標の関係を統計的に解析しました。細菌の遺伝子情報から推定した「働き」の予測について、著者らは実際の活動を直接測ったものではなく、仮説づくりのための情報として扱っています。
主な結果
成分と抗酸化力では、広東省産が際立っていました。総フェノール量は1グラムあたり51.25マイクログラム(没食子酸換算)で、広西産の2.3倍、雲南産の2.8倍でした。総フラボノイド量も広東産が他の2地域より有意に高い値でした。試験管内の抗酸化力の測定値も広東産が高めでした。ただし、ある方法では雲南産だけを上回り、他の2つの方法では両地域を上回るという結果でした。なお、これは化学的な測定値であり、飲んだときの健康への効果を示すものではありません。
味と香りの評価では、雲南産が最も高い総合点(84.17点)を得ました。香りと味の点数も他の2地域より有意に高い結果でした。電子鼻で測った匂いのパターンも、3地域ではっきり分かれました。お茶の色では、広東産と広西産の差が最も大きく、色の差を表す値(ΔE)は4.18でした。これは、原著が用いた基準で最も上の「差が大きい」とされる区分に当たる値です。
揮発性成分は合計133種類が推定されました。著者らは標準物質による確認は行っておらず、成分名はあくまで推定としています。広東産ではp-シメンやL-リモネンといった柑橘や草のような香りに関わる成分が多く、雲南産ではエチルベンゼンやジメチルスルフィドが比較的多く見られました。広西産には、目立って多い成分は見られませんでした。
葉の表面の細菌も、産地ごとに異なるまとまりを示しました。雲南産では細菌の多様性が最も高く、広東産では低めでした。広東産では乳酸菌(ラクトバチルス属)などが、広西産ではクレブシエラ属などが、雲南産ではバクテロイデス科やラクノスピラ科などが多く見られました。また、産地の湿度や気温、標高、日照といった環境条件と細菌の構成のあいだに関連が見られました。
細菌と成分・品質の関係については、広東産では特定の細菌、テルペン類の香り成分、抗酸化の指標が同じ傾向を示しました。雲南産では別の細菌と香り成分、そして官能評価の点数が結びつく傾向が見られました。
ただし著者らは、これらは「一緒に変動する」という関連であり、細菌が香り成分を作ることを示したものではないと強調しています。香り成分が植物自身から来たのか、葉の表面の微生物の働きによるのかは、今回のデータからは判断できないとしています。また、検出された細菌の中には一部に病原性を持つ種を含む属もありました。しかし今回の方法では種や株までは見分けられないため、病原性のある菌がいたことを意味するものではないと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、同じMLでも産地によって成分、抗酸化力、香りと味、葉の表面の細菌の顔ぶれが異なることを、複数の分析を組み合わせて示しました。そのうえで、p-シメン、L-リモネン、α-フェランドレン、ジメチルスルフィド、エチルベンゼンなどが、産地の判別や品質評価の手がかりの候補になりうると報告しています。
一方で、特定の細菌が風味や成分の形成にどう関わっているのかという因果関係は、まだ分かっていません。著者らも、さらなる検証が必要だとしています。今回の成果は、産地による品質の違いを理解するための土台を示したものといえます。
原著論文の著者・所属:He Y(School of Pharmacy, China Medical University, No. 77 Puhe Road, Shenyang 110122, China.)、Xu P(School of Pharmacy, China Medical University, No. 77 Puhe Road, Shenyang 110122, China.)、Zhou J(School of Pharmacy, China Medical University, No. 77 Puhe Road, Shenyang 110122, China.)、Zheng J(School of Pharmacy, China Medical University, No. 77 Puhe Road, Shenyang 110122, China.)、Yuchi R(School of Pharmacy, China Medical University, No. 77 Puhe Road, Shenyang 110122, China.)、Wang X(School of Pharmacy, China Medical University, No. 77 Puhe Road, Shenyang 110122, China.)、Wei B(School of Pharmacy, China Medical University, No. 77 Puhe Road, Shenyang 110122, China.)、Cang S(Department of Sanitary Inspection, School of Public Health, Shenyang Medical College, No. 146 North Huanghe Street, Shenyang 110034, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):He Y, Xu P, Zhou J, et al. Integrated Volatile Metabolomics and Bacterial Community Profiling Identify Potential Quality Markers for Geographical Discrimination of <i>Microcos paniculata</i> L. Herbal Tea. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-21. DOI: 10.3390/foods15203744. 原著ライセンス:CC BY.