著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Metabolites

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的:品種の違いは茶の成分と働きを変えるのか

チャンチン(香椿、学名Toona sinensis)は、アジアに広く分布する落葉樹です。若い芽や葉は1000年以上前から野菜として食べられてきました。ただし新芽は傷みやすく、春にしか採れません。そこで、葉を茶に加工して一年中利用する方法が注目されています。研究チームは以前、紅茶の製法をチャンチンの葉に応用した「チャンチン葉茶」を開発しました。この茶は、一般的な茶(チャノキ)とは植物の種類も特徴成分も異なります。カテキンやカフェインではなく、フラボノール配糖体などのフラボノイド類(植物に含まれるポリフェノールの一群)を特徴とし、カフェインはほとんど含まないとされています。

チャンチンには芽の色が異なる品種があります。主な商業品種は、緑色の芽の「グリーントゥーン」、濃い赤色の「レッドトゥーン」、濃い紫から黒っぽい色の「ブラックトゥーン」です。これまでの品種比較は、生の新芽の栄養成分を扱ったものがほとんどでした。茶に加工した後の成分や体内での作用が品種によってどう違うかは、調べられていませんでした。著者らは、赤や紫の組織にはフラボノイド類が多いことが多い点に注目しました。そして、レッドトゥーンとブラックトゥーンの茶はグリーントゥーンの茶より脂質を下げる作用が強いだろう、という仮説を立てて検証しました。

何を調べたか:成分の網羅的分析とマウスでの試験

3品種は、同じ苗畑の隣り合う区画で、土壌・水やり・施肥などを同じ条件にそろえて育てられました。5月に摘んだ葉を、萎凋(しおれさせる)、揉捻、発酵、乾燥という同じ紅茶式の工程で茶に加工しました。できた茶は、品種ごとにGT(グリーン)、RT(レッド)、BT(ブラック)と呼ばれています。

成分の比較には、メタボロミクスという手法を使いました。これは、茶に含まれる多数の化合物を質量分析でまとめて検出し、どの成分がどれだけ違うかを網羅的に比べる方法です。さらに、ケルセチンとケンフェロールという代表的なフラボノイドを標準物質と照らし合わせて定量しました。茶の浸出液についても、総フラボノイド、総ポリフェノール、遊離アミノ酸、可溶性タンパク質の量を測りました。

作用の比較には、高脂肪食で肥満や脂質異常を起こさせたオスのマウスを用いました。3種類の茶の浸出液を飲み水として12週間与え、比較対象を設けました。低脂肪食のグループ、高脂肪食だけのグループ、肥満治療薬オルリスタットを与えるグループです。そのうえで、体重、肝臓や脂肪組織の重さ、血液中の脂質、肝臓と脂肪組織の顕微鏡像を調べました。

主な結果:レッドとブラックで成分が多く、マウスでの改善も大きかった

成分分析では、3品種の茶ははっきり異なる成分の傾向を示しました。品種間で差があった成分として、56種類が推定されました。内訳はフラボノイドとその配糖体26種、アミノ酸関連10種、フェノール酸類7種、タンニン4種などです。フラボノイドは全体にBTで最も多く、次いでRTで、GTが最も少ないという結果でした。ケルセチンとケンフェロールの定量でも、RTとBTで有意に多いことが確かめられました。成分の特徴にも違いがありました。BTでは硫酸基の付いたフラボノイドが、RTではアシル基の付いたフラボノイド配糖体や、ガロイル基を含むテオガリンなどが多いと推定されました。

浸出液では、RTとBTの総フラボノイド量(1mLあたり1.07mg、1.10mg)がGT(0.80mg)より多くなりました。総ポリフェノール量もRTとBTがGTより多く、BTが最も多い結果でした。遊離アミノ酸と可溶性タンパク質も、BTで最も多くなりました。

マウスの試験では、RTかBTを与えたグループで改善がみられました。高脂肪食による体重、肝臓の重さ、皮下と内臓周りの脂肪の重さの増加が有意に抑えられました。血中の総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪もすべて改善しました。これらの傾向はオルリスタットのグループと似ていました。一方、GTで有意に下がったのは、肝臓の重さ、皮下脂肪の重さ、中性脂肪にとどまりました。顕微鏡観察では、高脂肪食で生じた脂肪肝の状態が、3種類の茶のいずれでも改善しました。脂肪細胞が大きくなる変化も3種類とも抑えられ、その効果はRTとBTでGTより強く現れました。なお、餌や水の摂取量には茶を与えたグループと高脂肪食だけのグループの間で差がなかったため、著者らは、これらの効果が主に食べる量の減少によるものではないとしています。

成分量と脂質の指標との相関も分析されました。その結果、ケルセチン類などのフラボノイドや総ポリフェノールは、脂肪の蓄積や血中脂質と逆方向に変動する傾向を示しました。特に、総ポリフェノールや総フラボノイドといった合計量は、個々の成分よりも強い関連を示しました。ただし著者らは、この分析が品種ごとの平均値に基づく探索的なもので、因果関係を示すものではないと述べています。

研究の意味:同じ製法でも品種によって茶の性質が変わる

この研究は、チャンチン葉茶の比較に品種という視点を初めて取り入れたものです。同じ条件で育て、同じ製法で加工しても、品種によって茶の成分構成が大きく異なりました。あわせて、マウスでの脂質代謝への作用にも違いがみられました。レッドトゥーンとブラックトゥーンの茶は、フラボノイドやポリフェノールが多く、高脂肪食マウスでの改善も大きいという結果でした。

一方で、著者らは限界も明記しています。示された関係は相関にとどまり、どの成分が効果をもたらしたかはまだ特定されていません。成分の多くも推定段階です。茶は同じ乾燥重量で浸出したため、RTやBTを与えたマウスは有効成分の候補をより多く摂取していたことになり、この点も結果の一因となりえます。また、マウスで得られた結果が人に当てはまるかは確かめられていません。それでもこの研究は、茶に加工するチャンチンの品種を選ぶうえで、成分と作用の両面から比較するための予備的な手がかりを示しています。

原著論文の著者・所属:Wu G(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)、Tang Y(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)、Xu S(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)、Du Z(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)、Xu R(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)、Du B(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)、Lu G(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)、Wu X(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)、Sui J(Engineering Technology Research Center of Anti-Aging Chinese Herbal Medicine of Anhui Province, School of Biology and Food Engineering, Fuyang Normal University, Fuyang 236037, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wu G, Tang Y, Xu S, et al. Cultivar-Dependent Metabolite Signatures and Effects on Lipid Metabolism of Teas Processed from Three Varieties of <i>Toona sinensis</i>. Metabolites 2026-10-09. DOI: 10.3390/metabo16100760. 原著ライセンス:CC BY.