著者の所属・活動拠点の国は、イランです。
掲載誌:LWT
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
材料を押し出しながら層状に積み重ねて食品を形づくる3Dフードプリンターは、菓子づくりなどへの応用が期待されています。しかし研究チームによると、菓子のフィリングに使われるココアクリームは、本来ゴムのような弾力と粘り気のある性質をもち、押し出した後に形を保ちにくいため、この方法で造形するのは難しいとされています。
この研究では、亜麻仁(アマの種子)から得られるたんぱく質と、種子の粘り成分である「ムシレージ」を組み合わせた材料を使い、印刷しやすく形の崩れにくいココアクリームをつくれるかを調べています。
亜麻仁の成分で乳化物をつくる
研究チームが用いたのは「複合コアセルベート」と呼ばれるものです。これは、電気的に反対の性質をもつたんぱく質と多糖類などが引き合って集まり、液体中で分かれてできる複合体のことです。論文では、亜麻仁たんぱく質と亜麻仁ムシレージからつくったこの複合体を天然の乳化剤として使い、水の中に油が細かい粒として分散した「水中油型乳化物」を安定させました。この乳化物は、クリームをやわらかくする油脂成分の役割を担います。
複合体の形成条件を調べたところ、pH3、たんぱく質とムシレージの重量比が5対1のときに最もよく形成され、収率は92.04%でした。このとき、粒子表面の電気的な偏りを示す指標(ゼータ電位)はほぼゼロとなり、液の濁り(濁度)が最大になったと報告されています。
次に、加工でんぷん、ココアパウダー、水からなる単純化したココアクリームの基材に、この複合体で安定化した乳化物を重量比で2.5〜10%の濃度で加え、印刷用の材料(インク)としての性質を比較しました。
主な結果
流れやすさや変形のしやすさを調べる「レオロジー」の分析では、複合体を加えたインクは、流れ始めるのに必要な力の目安である降伏応力が有意に高くなり、最大で63.4パスカルに達しました。また、力を加えてかき混ぜたり押し出したりすると粘りが下がる「ずり流動化」という性質がはっきり表れたと報告されています。押し出すときは流れやすく、置いた後は形を保ちやすい性質です。
乳化物の安定性については、油分が分離して浮き上がる程度を示す指標(クリーミング指数)を測定し、温度の上げ下げを繰り返す条件を含むすべての保存条件で、7.5%の配合が高い安定性を示しました。
実際の3D印刷試験では、7.5%配合のインクは設計どおりの形をどれだけ再現できたかを示す形状忠実度が93.6%となり、層がはっきり分かれつつ層どうしもよく接着していました。一方、複合体を加えない対照は61.7%にとどまり、対照や低い濃度の配合では大きな変形が見られました。電子顕微鏡による観察では、でんぷんがつくる網目状のゲルの中に、油の粒とココアの粒子が均一に分散していることが確認されたとしています。
研究が示すこと
著者らは、亜麻仁に由来するこの複合体が、印刷のしやすさ、乳化物の安定性、食感の質を同時に高める多機能な構造づくりの材料になりうると結論づけています。扱いにくいココアクリームでも、植物由来の天然成分を工夫して組み合わせることで、3Dフードプリンターで形を保って造形できる可能性を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Mohammad Ekrami(Transfer Phenomena Laboratory (TPL), Department of Food Science, Technology and Engineering, Faculty of Agricultural Engineering and Technology, University of Tehran, Karaj, Iran)、Negar Roshani-Dehlaghi(Transfer Phenomena Laboratory (TPL), Department of Food Science, Technology and Engineering, Faculty of Agricultural Engineering and Technology, University of Tehran, Karaj, Iran)、Zahra Emam-Djomeh(Transfer Phenomena Laboratory (TPL), Department of Food Science, Technology and Engineering, Faculty of Agricultural Engineering and Technology, University of Tehran, Karaj, Iran)、Ahmad Kalbasi-Ashtari(Transfer Phenomena Laboratory (TPL), Department of Food Science, Technology and Engineering, Faculty of Agricultural Engineering and Technology, University of Tehran, Karaj, Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mohammad Ekrami, Negar Roshani-Dehlaghi, Zahra Emam-Djomeh, et al. Stabilizing Cocoa Cream Fills for 3D Food Printing Using Flaxseed Protein–Mucilage Complex Coacervates. LWT 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.lwt.2026.120160. 原著ライセンス:CC BY.