著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、アメリカです。
掲載誌:Agronomy for Sustainable Development
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
研究チームは、作物を順番に替えて栽培する輪作にカバークロップを組み込み、窒素肥料の管理も見直すことで、将来の気候下でも生産性を高めながら環境への負荷を減らせるかを調べました。カバークロップとは、主な収穫作物の栽培の合間などに育て、農地を覆う作物です。
土壌に有機炭素を蓄えることは気候変動対策として期待されますが、その効果は、温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)の排出との兼ね合いで変わります。著者らはドイツ全土を対象に、収量、窒素の利用や流出、土壌有機炭素、温室効果ガス収支を一体として評価し、従来の栽培体系と比較することを目指しました。
何を、どのように調べたか
研究チームは、作物の生育と土壌中の炭素・窒素・水の動きを日単位で計算する農業生態系モデル「DSSAT」を使いました。モデルの調整には、ドイツ南西部の6地点で得られた10作期分の観測データを用い、別の地域の品種試験データでも収量の再現性を確かめました。
比較したのは、従来の栽培体系、カバークロップを入れない改良型の4年輪作、マメ科と非マメ科のカバークロップを異なる組み合わせで入れた改良型の4年輪作です。マメ科を使う条件では、後作に供給される窒素を考慮して施肥量を減らす管理も組み合わせました。このため、従来体系との比較は栽培管理全体の変更を、カバークロップなしの改良輪作との比較は同じ輪作構造にカバークロップを加える効果を捉えるものです。
計算期間は2006~2099年で、中程度の排出経路であるRCP4.5と、高排出経路であるRCP8.5について、それぞれ3種類の気候モデルを使いました。ドイツの4つの農業生態地域で、異なる作物の生産量を共通の尺度に換算した「穀物単位(GU)」、窒素利用効率、窒素の流出、土壌有機炭素などを比較し、全国の空間分布を地図化しました。温室効果ガス収支は、直接・間接のN2O排出と、土壌有機炭素の増減を二酸化炭素換算で合わせて評価しました。
主な報告結果
改良型の輪作は、カバークロップの有無にかかわらず、従来体系より高い穀物単位の生産量を示しました。従来体系に対する増加率は、北部の16%から南部の33%でした。さらに、カバークロップを入れられる3回の機会のうち2回または3回にマメ科を使った条件では、カバークロップなしの改良輪作に比べ、生産量が平均23%高いと報告されています。
一方、カバークロップを入れれば常に増収するわけではありませんでした。高排出のRCP8.5の2070年代では、非マメ科だけを2回入れた条件の生産量は、カバークロップなしの改良輪作より、地域によって約4~8%低くなりました。著者らは、水分が不足する地域や乾燥年には、カバークロップと主作物の水の奪い合いによって増収効果が弱まったり、失われたりすると説明しています。
温室効果ガスについては、カバークロップと窒素管理の改善を組み合わせた改良輪作で、土壌への炭素蓄積が増え、N2O排出が減る結果となりました。カバークロップを2回または3回入れた改良輪作のN2O排出量は、全国平均で従来体系より18%、カバークロップなしの改良輪作より13%少なくなりました。論文は、これらの効果を合わせた正味の農地レベルの温室効果ガス収支が、従来体系に比べて約40%低下したと報告しています。
この報告が示すこと
著者らが示したのは、カバークロップ単独ではなく、輪作の設計と、マメ科が後作へ供給する窒素を踏まえた施肥管理を組み合わせる意義です。その利点は長い時間をかけて現れ、土壌、気候、水分条件によって変わるとしています。また、土壌への炭素蓄積にはやがて頭打ちになる性質があり、温暖化による有機物の分解が蓄積効果を一部相殺する可能性も指摘しています。
今回の結果はシミュレーションであり、一部の作物は性質の似た別の作物で代用され、播種日やカバークロップの栽培終了日は全国で統一されています。全国規模での長期的なN2O排出、窒素流出、水収支の検証にも制約があるため、著者らは、絶対値や小さな条件間の差よりも、栽培体系間の相対的な違いや地域的な傾向として読むべきだとしています。温室効果ガスの評価には肥料・種子の製造や輸送、農作業の燃料使用などは含まれず、農業生産の全工程の排出削減率を示すものではありません。
原著論文の著者・所属:Ahmed Attia(Institute for Strategies and Technology Assessment, Julius Kühn Institute (JKI) - Federal Research Centre for Cultivated Plants, 14532, Kleinmachnow, Germany; Texas A&M AgriLife Research and Extension Center, Overton, TX, 75684, USA)、Donghui Ma(Institute for Crop and Soil Science, Julius Kühn Institute (JKI) - Federal Research Centre for Cultivated Plants, 38116, Braunschweig, Germany)、Michelle Viswanathan(Institute for Crop and Soil Science, Julius Kühn Institute (JKI) - Federal Research Centre for Cultivated Plants, 38116, Braunschweig, Germany)、Asmae Meziane(Institute for Crop and Soil Science, Julius Kühn Institute (JKI) - Federal Research Centre for Cultivated Plants, 38116, Braunschweig, Germany)、Ashifur Rahman Shawon(Institute for Crop and Soil Science, Julius Kühn Institute (JKI) - Federal Research Centre for Cultivated Plants, 38116, Braunschweig, Germany)、Carsten Marohn(Institute for Strategies and Technology Assessment, Julius Kühn Institute (JKI) - Federal Research Centre for Cultivated Plants, 14532, Kleinmachnow, Germany)、Til Feike(Department of Crop Sciences, University of Göttingen, 37075, Göttingen, Germany; Institute for Crop and Soil Science, Julius Kühn Institute (JKI) - Federal Research Centre for Cultivated Plants, 38116, Braunschweig, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ahmed Attia, Donghui Ma, Michelle Viswanathan, et al. Sustainable crop production under future climates: national mapping of cover-crop rotations and soil organic carbon–N2O trade-offs. Agronomy for Sustainable Development(出版社:Springer Science+Business Media) 2026-11-06. DOI: 10.1007/s13593-026-01150-6. 原著ライセンス:CC BY.