著者の所属・活動拠点の国は、ネパールです。
掲載誌:Bisma Bimbingan Swadaya Masyarakat
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ネパールでは5歳未満の子どものおよそ4人に1人が「発育阻害(スタンティング)」の状態にあるとされます。発育阻害とは、慢性的な栄養不足などで年齢に対して身長が低い状態のことです。著者らによると、この割合は過去20年で下がってきたものの改善のペースは鈍っており、極西部のスドゥールパシュチム州の農村部では特にリスクが高いといいます。この地域では幼い子どもの食事が米中心で、食べさせ方の知識も家庭によってばらつきがあり、成長の遅れに気づくのも遅れがちです。
村々では「女性地域保健ボランティア」が毎月「母親グループ」の集まりを開いています。ただ、そこでの栄養の話は講義形式が中心で、実際に料理をしてみせることはほとんどありませんでした。研究チームはこの既存の仕組みを生かし、ボランティアと協力して地域で栄養教育を行うことにしました。子どもの世話をする養育者の食事の与え方を改善し、カンチャンプル郡の農村自治体2か所で5歳未満児の発育阻害リスクを下げることが目的です。
どのような取り組みを行ったか
取り組みは2025年8月から2026年1月までの6か月間、ベルダンディとラルジャディの2自治体の12区で行われました。手法には「地域参加型研究」を採用しています。住民を支援の受け手ではなく対等なパートナーとみなし、課題の特定、対策の設計、結果の評価を一緒に進める方法です。最初にボランティアと養育者が、地域の子どもの食事で問題だと感じることに順位をつけました。最も重視されたのは「離乳期の食事が薄く水っぽいこと」で、「農繁期に食事回数が減ること」「成長が止まったことに気づくのが遅いこと」が続きました。教育内容はこの順位をもとに組み立てられ、ボランティア4人と養育者4人からなる運営グループが毎月の計画と結果を確認しました。
18人のボランティアが5日間の研修を受け、進行役を務めました。生後6〜59か月の子どもを育てる養育者112人(ほぼ全員が母親)が、2週間ごとに計8回のセッションに参加しました。セッションでは、地元でなじみのある料理を使った調理実演が中心でした。米と豆のやわらかいおかゆ「ジャウロ」に卵や青菜を加えたり、炒った穀物と豆の粉で作るおかゆ「リト」に牛乳やギー(バターオイル)を加えたりして栄養を高めます。子どもに試食してもらい、養育者は帰る前に家庭で実践する目標を一つ決めました。
あわせて、保健所で毎月の成長モニタリングを行いました。ボランティアが養育者の目の前で子どもの成長曲線を記入し、その意味を説明します。曲線が横ばいや下向きになった子どもには2週間以内に家庭訪問を行い、病気や重いやせが疑われる場合は保健所へつなぎました。評価には、開始時と終了時の質問票、セッションの観察記録、子どもの身長・体重の測定が使われています。
主な結果
養育者の栄養知識の平均点(100点満点)は48.3点から76.9点に上がりました。生後6〜23か月の子どもでは、一定数以上の食品群を食べている「最低限の食事の多様性」を満たす割合が31.5%から53.4%に、必要な食事回数を満たす割合が57.5%から75.3%に増えました。前の週に卵を食べた子どもの割合も21.9%から49.3%に増えています。家庭で栄養を高めたジャウロを週3回以上作る養育者は19.6%から55.4%に、牛乳・ギー・油を加えたリトを作る養育者は28.6%から61.6%になりました。
一方で、肉や魚などの摂取はあまり増えませんでした(18.6%から24.6%)。著者らは、値段が高いことが壁になっているとみています。また、田植えや収穫が最も忙しい時期には、知識があっても時間の不足が制約になったと養育者は話しています。母親だけに伝えた助言が家庭で覆されることがあったため、多くのグループでは祖母もセッションに参加するよう改めました。ボランティアはこれを特に役立った工夫の一つに挙げています。
子どもの成長指標については、著者ら自身が「長期的な変化の証拠ではなく、短期的な兆し」として読むべきだと述べています。118人の子どもの年齢相応の身長を示す指標の平均は、マイナス1.82からマイナス1.66(標準偏差単位)へとわずかに改善しました。発育阻害の割合は38.1%から34.7%に下がっています。改善が目立ったのは、セッションが主な対象とした生後6〜23か月の子どもでした。期間中に成長曲線の停滞が見られた子どもは41人で、そのうち36人が予定どおり2週間以内に家庭訪問を受け、9人が保健所に紹介されました。
養育者からは、知っているボランティアにわかりやすく説明された成長曲線によって、初めて成長を「自分で見守り、働きかけられるもの」として感じたという声が聞かれました。夫や義母と食料の購入について話し合う際に、成長曲線を根拠として使ったという養育者もいました。研究チームはこうした使われ方を想定していなかったといいます。終了後も母親グループの集まりは続いており、自治体は調理実演の形式を引き継ぎ、保健所の栄養予算から食材費を出すことに合意しました。
この研究が示すこと
著者らは、調理実演を取り入れた実践的な教育と定期的な成長モニタリングを組み合わせたことで、養育者が助言を家庭で実行しやすくなったと結論づけています。この取り組みでは食料の配布を行っておらず、輸入食品や新しい人材も使っていません。既存のボランティアの仕組みと地元の食材を活用したものです。
ただし、比較対象となるグループがないため、今回の変化を季節の影響や地域で並行していた他の栄養事業の影響と明確に切り分けることはできない、と著者らは述べています。食事に関するデータは養育者の自己申告に基づいています。身長の小さな改善には、測定誤差や季節による変動が含まれている可能性もあります。追跡期間も短く、成長の改善が次の食料不足の時期まで続くかどうかはわかっていません。著者らはまた、肉類の価格、農繁期の忙しさ、水や衛生の環境など、教育だけでは解決できない制約があることも指摘しています。
それでも、住民と一緒に課題を決め、身近な食材で実際に作ってみせ、子どもの成長を目に見える形で共有するという進め方によって、短期間で食事の内容が変わったことが報告されています。地域に根ざした栄養支援のあり方を考えるうえで、具体的な手がかりとなる研究です。
原著論文の著者・所属:Sharma, Sita Kumari(Faculty of Health Sciences, Far Western University, Mahendranagar , Nepal)、Thapa, Ram Bahadur(Faculty of Health Sciences, Far Western University, Mahendranagar , Nepal)、Gurung, Anita(Faculty of Health Sciences, Far Western University, Mahendranagar , Nepal)、Joshi, Prakash Chandra(Faculty of Humanities and Social Sciences, Far Western University, Mahendranagar , Nepal)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sharma, Sita Kumari, Thapa, Ram Bahadur, Gurung, Anita, et al. Reducing Childhood Stunting Risk Through Community-Based Nutrition Education and Caregiver Empowerment in Rural Nepal. Bisma Bimbingan Swadaya Masyarakat 2026-10-23. DOI: 10.59689/b487qp26. 原著ライセンス:CC BY.