日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:British Journal Of Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食事の質は、肥満や代謝の病気、心血管疾患などのリスクに関わります。年齢とともに変わることも知られています。欧米の調査では、中年期から高齢期にかけて食事の質が高まる一方、子ども、思春期、若い成人では不十分な食事が目立つと報告されてきました。しかし、どの年齢で特に低くなるのか、どの食品や栄養素がその差を生むのか、性別や生活習慣、社会経済的な条件でどう違うのかは、欧米以外の地域では十分に分かっていませんでした。
東京大学などの研究チームは、日本人を対象に、幼児から高齢者までの食事の質が年齢と性別によってどう異なるかを調べました。あわせて、その差に関わる食事の要素と、世帯収入、学歴、喫煙、朝食の欠食といった要因との関連も検討しました。著者らは、日本は高齢化が急速に進み、社会経済的な格差の拡大や若い世代の朝食欠食の増加も見られるため、欧米とは異なる傾向が現れる可能性があると述べています。
どのように調べたか
分析には、厚生労働省の支援で行われた全国規模の食事調査のデータが使われました。2016年11月から2020年8月にかけて、全国47都道府県のうち32都道府県で、健康な1〜79歳の人が参加しました。最終的な分析対象は4455人で、内訳は1〜17歳の子ども1652人と18〜79歳の成人2803人です。
参加者は、四季それぞれで連続しない2日間、合計8日間について、口にした食べ物と飲み物をすべてデジタルスケールで量って記録しました。この方法を秤量食事記録といいます。1日だけの聞き取りや短期間の記録では、日ごとや季節ごとの食事のばらつきをとらえにくいという課題がありました。今回は1年を通じた普段の食事に近い姿をとらえることを目指しています。
食事の質は二つの指標で評価されました。一つ目は「健康的な食事指数2020(HEI-2020)」です。果物、野菜、全粒穀物、乳製品、魚介類、精製穀物、ナトリウム、添加糖類、飽和脂肪酸など13の項目で食事を採点し、満点は100点です。米国の食事指針をもとに作られた指標ですが、著者らによると、これほど広い年齢層に共通して使える日本独自の検証済み指標はまだありません。二つ目の「栄養豊富食品指数9.3(NRF9.3)」は栄養素に着目した指標です。たんぱく質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなど望ましい9種類の栄養素の充足度から、添加糖類、飽和脂肪酸、ナトリウムという控えたい3種類の過剰分を差し引いて算出します。基準値には主に日本人の食事摂取基準が使われました。どちらの指標も、点数が高いほど食事の質がよいことを示します。
主な結果
二つの指標はいずれも、年齢と性別によってはっきりした違いを示しました。HEI-2020は幼児期には比較的高いものの、思春期にかけて低くなります。推定された最低点は、女性で16.1歳、男性で23.4歳でした。NRF9.3は男女とも成人期の初め、およそ24歳で最も低くなりました。どちらの指標でも、最も高い点数を示したのは高齢者でした。
研究チームは、個人間の総合点の差にどの項目が大きく関わっているかも、年齢と性別のグループごとに分析しました。HEI-2020では、子どもでは乳製品の寄与が目立ちました。不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸のバランスやナトリウムは、幅広い年齢で大きく寄与していました。飽和脂肪酸は学童期から思春期に、精製穀物は高齢層で寄与が大きくなりました。NRF9.3では、ナトリウムと添加糖類という控えたい成分の寄与が特に大きいことが分かりました。
社会経済的な差は子どもの時期から見られました。子どもでは、世帯収入が高いことや親の学歴が高いことが、食事の質の高さと関連していました。成人では、男女とも収入や学歴の低さ、喫煙、朝食の欠食が食事の質の低さと関連していました。男性ではさらに、フルタイムで働いていることがHEI-2020の低さと関連していました。ただし、関連の現れ方は性別や指標によって異なります。たとえば成人女性では、収入や学歴との関連はNRF9.3でのみ認められました。
この研究が示すこと
著者らは、日本人の食事の質は思春期から若い成人期にかけて最も低く、人生の段階ごとに関わる社会経済的要因や生活習慣が異なると結論づけています。女性のHEI-2020が16歳前後で最も低くなる点について、著者らは高校進学に伴う学校給食の終了や減量目的の食事制限が影響している可能性を挙げています。24歳前後の低下については、一人暮らしや就職に伴う時間の制約などが反映されている可能性があるとしています。
今回の研究は、ある一時点で異なる年齢の人々を比べた横断研究です。同じ人の食事が年齢とともにどう変わるかを追跡したものではありません。また、示されたのは関連であり、因果関係ではありません。それでも、全国の幅広い年齢層を季節をまたぐ詳しい食事記録で比べた結果から、食事の質が低くなりやすい年代とその背景が見えてきました。著者らは、こうした時期を、年齢に応じた栄養支援を考えるうえで重要な時期として位置づけています。
著者:Hitomi Okubo(The University of Tokyo)、Nana Shinozaki(The University of Tokyo)、Ryoko Tajima(The University of Tokyo)、Shizuko Masayasu(Ikurien-naka)、Satoshi Sasaki(The University of Tokyo)、Kentaro Murakami(The University of Tokyo)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hitomi Okubo, Nana Shinozaki, Ryoko Tajima, et al. Age-and sex-specific variation in diet quality across the lifespan and its lifestyle and socio-demographic determinants in Japan. British Journal Of Nutrition 2026-10-16. DOI: 10.1017/s0007114526108642. 原著ライセンス:CC BY.