著者の所属・活動拠点の国は、レバノン、フランスです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
研究チームは、レバノンの若年成人を対象に、脂肪酸の一種であるリノール酸を口の中で感じ取る感度と、日常の食習慣との関係を調べました。背景には、東地中海地域で、伝統的な植物性食品中心の食事から、飽和脂肪や精製炭水化物、超加工食品の多い食事への移行が進んでいることがあります。
著者らは、脂肪の味への感度が低い人ほど、高脂肪でエネルギー密度の高い食品を頻繁に食べるのではないかと考えました。また、食品を「好き」と答えることと、実際にその食品をよく食べることが、どの程度対応するかも検討しました。
何を、どのように調べたか
研究は2024年6月から2025年12月に、ベイルートとマウント・レバノンに住む18~40歳の成人117人を対象に行われました。参加者は研究者の職業上のつながりを通じて募集されました。ある時点での味覚と食習慣を調べる横断研究で、食事を変えて影響を確かめる実験ではありません。
脂肪の味への感度は、濃度を段階的に上げたリノール酸溶液を口に含み、飲み込まずに吐き出す三者択一の試験で測りました。感じ取れる最低濃度が低いほど、感度が高いと扱います。測定値が得られた108人を、検出濃度が9マイクロモル毎リットル以下の高感度群83人と、それを超える低感度群25人に分けました。この区分の境界値は、同じ参加者のBMIによる体格区分を基準に選ばれました。
食事については質問票で食品の好みと普段の摂取状況を尋ね、あらかじめ決めた21組について両者の対応を調べました。さらに、97の個別食品の摂取状況を感度の高低で比較しました。食事全体の特徴については、必要なデータがそろった86人を対象に、一緒に食べられやすい食品をまとめる主成分分析という方法で、19の食品カテゴリーから食事パターンを抽出しました。これとは別に、最初の比較で群間差の兆候があった16食品を選び、探索的な追加分析も行いました。
主な報告結果
著者らは、脂肪の味への感度と個別食品の摂取との間に、明確な関連を認めませんでした。97食品の比較では、補正前には一部に群間差がありましたが、多数の比較によって偶然の差を拾いやすくなることを考慮した統計的補正後は、いずれも有意ではありませんでした。
19の食品カテゴリーからは、「ファストフード・飽和脂肪」「卵・野菜・果物」「精製穀物・豆類」「甘い食品・乳製品」「ナッツ・油」の5つの食事パターンが得られました。いずれも高感度群と低感度群で有意な差はなく、年齢と性別を考慮した分析でも、感度との有意な関連は認められませんでした。
一方、16食品に絞った探索的な追加分析では、加熱した葉物野菜、アブラナ科の野菜、オリーブ、オリーブ油の摂取が多く、ファストフードの摂取が少ない「野菜・オリーブ」パターンの得点が、高感度群で高いと報告されました。この関連は年齢と性別を考慮しても認められましたが、さらにBMIを考慮すると、関連の方向は同じでも、多重比較の補正後には有意ではなくなりました。
食品の好みと摂取状況については、21組のうち8組で、好きな程度が高いほどよく食べるという関連が補正後も認められました。例えば、レバノンの菓子クナーファへの好みとレバノン菓子の摂取、目玉焼きへの好みと卵の摂取、クロワッサンへの好みとクロワッサン・ドーナツの摂取が対応していました。ただし、この対応はすべての食品に共通するものではありませんでした。
この報告が示すこと
この報告は、脂肪の味を感じ取る感度だけで、日常の食べ方を一律に説明できるわけではないことを示しています。著者らは、探索的に見いだした「野菜・オリーブ」パターンとの関連を、確定的な結論ではなく、仮説を立てるための知見として位置づけています。
研究には、横断研究のため原因と結果や時間的な前後関係を判断できないという限界があります。募集地域と募集方法が限られ、食事は自己申告でした。また、食事パターンの分析対象は86人で、低感度群は17人にとどまりました。味覚試験は1回のみで、感度の区分も同じ集団のBMIを用いて決めているため、著者らはこの境界値を臨床上や一般集団の基準として扱うべきではないとしています。感覚の違いと食習慣の関係を考える際には、こうした測定と分析の条件を踏まえる必要があります。
原著論文の著者・所属:Céline Yaghi(Faculty of Medicine, Saint Joseph University of Beirut)、Dina Zeidan(Department of Nutrition, Faculty of Pharmacy, Saint Joseph University of Beirut)、Nassim Fares(Faculty of Medicine, Saint Joseph University of Beirut)、César Yaghi(Faculty of Medicine, Saint Joseph University of Beirut)、Joanna Chalhoub(Faculty of Medicine, Saint Joseph University of Beirut)、Naim Akhtar Khan(Laboratoire de Lipides, Nutrition, Cancer, Université Bourgogne Europe, Dijon, France)、Nathalie Yaghi(Department of Nutrition, Faculty of Pharmacy, Saint Joseph University of Beirut)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Céline Yaghi, Dina Zeidan, Nassim Fares, et al. Orosensory fat taste sensitivity and dietary patterns in young Lebanese adults: a cross-sectional study. Frontiers in Nutrition 2026-11-05. DOI: 10.3389/fnut.2026.1953490. 原著ライセンス:CC BY.