著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。

掲載誌:Proceedings of The Nutrition Society

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

総説の目的

世界の人口は高齢化が進んでおり、60歳以上の人の割合は2015年の12%から2050年には22%へと、ほぼ倍増すると見込まれています。高齢化に伴い、心臓病や2型糖尿病などの心血管・代謝系の病気(論文では心血管代謝疾患とまとめて呼ばれます)や、加齢によって筋肉の量・力・機能が落ちる「サルコペニア」が増えます。著者らは、筋肉が血糖を取り込む主要な場所であるため、筋肉の減少が代謝の悪化につながり、一方で代謝の病気に伴う慢性的な炎症が筋肉の減少を進めうるという、互いに悪化させ合う関係を指摘しています。

筋肉を保つうえで、食事からのたんぱく質は自分で調整できる重要な要素です。欧米諸国では、たんぱく質摂取の65%以上が肉や乳製品などの動物性食品に由来しています。しかし環境への負荷への懸念や、植物性中心の食事が心血管・代謝の健康に関連づけられていることから、たんぱく源を動物性から植物性中心へ移す動きが広がっており、これは「たんぱく質転換(プロテイン・トランジション)」と呼ばれています。

この論文は、新たな実験を行った研究ではなく、既存の研究成果をまとめた総説です。研究チームは、たんぱく質の必要量、たんぱく源、たんぱく質の質、そして消費者側の視点に関するこれまでの知見を整理し、植物性たんぱく質中心の食事が高齢者の健康な老いをどこまで支えられるかを検討しています。

高齢者に必要なたんぱく質の量

現在の国際的な推奨量は、成人で体重1kgあたり1日0.83gです。ただし著者らによると、この値は主に若く健康な成人を対象とした研究から導かれたもので、欠乏を防ぐための最低限の量を示すものです。その後の研究を踏まえ、欧州臨床栄養代謝学会は健康な高齢者に1日1.0〜1.2g/kg、病気を抱える人や低栄養のおそれがある人には1.2〜1.5g/kgを推奨するなど、高齢者にはより多い摂取を勧める専門家の見解が増えています。

それにもかかわらず、多くの高齢者はこの水準に届いていません。論文で紹介されたオランダの地域在住高齢者814人を対象とした分析では、28%が推奨量0.83g/kgを下回り、筋肉の健康に望ましいとされることの多い1.2g/kgを超えていたのは21%にとどまりました。

心血管・代謝の健康と筋肉への影響

たんぱく源と心血管・代謝の健康については、動物性たんぱく質の多い摂取が2型糖尿病などのリスクの高さと関連するという報告が紹介されています。たとえば16の追跡研究をまとめた分析では、動物性たんぱく質が20g増えるごとに2型糖尿病のリスクが約7%高くなる関連が示されました。一方、植物性たんぱく質は中立的または保護的な関連を示すことが多く、動物性を植物性に置き換えることもリスクの低さと関連していました。ただし著者らは、これらの多くは人々の食生活を観察した研究であり、因果関係を確かめる無作為化比較試験は、高齢者を対象としたものが特に不足していると強調しています。また、たんぱく質の「質」が心血管・代謝の健康に与える影響を調べた研究は、年齢を問わず見つからなかったと述べています。

筋肉については、加齢とともにたんぱく質を食べたときに筋肉を作る反応(筋たんぱく質合成)が鈍くなる「同化抵抗性」と呼ばれる現象が知られています。紹介された研究では、筋たんぱく質合成を最大限に高めるのに、若年者では1食あたり良質なたんぱく質約20〜25gで足りるのに対し、高齢者では約30〜40gが必要とされています。

動物性たんぱく質は、体内で作れない「必須アミノ酸」をバランスよく含み、消化吸収もされやすいため、食後短時間の筋たんぱく質合成をより強く高める傾向があります。高齢者を対象にした試験でも、植物性のみの食事より動物性を含む食事の方が食後の合成反応が高かったという報告があります。一方で、複数の植物性たんぱく質を組み合わせて必須アミノ酸の構成を補い、十分な量を摂れば、その差は小さくなりうることも示されています。高齢者を対象とした10日間の食事管理研究では、植物性のみの食事と動物性を含む食事で筋たんぱく質合成に差がみられず、高齢者を対象とした13の試験をまとめた分析でも、植物性たんぱく質による介入は筋肉量の改善において対照と概ね同等でした。

これらを踏まえ、著者らは、たんぱく質の質は食後短時間の反応を左右するものの、筋肉の維持を主に決めるのは1日の総摂取量であり、質は摂取量が少ないときや食事内容が限られるときに特に重要になると整理しています。ただし、根拠の多くは短期間の研究や健康な人を対象とした研究に基づいており、高齢者での長期的な影響はまだ十分に分かっていません。

この総説が示すこと

著者らは、たんぱく質転換は栄養の問題であると同時に、行動や感覚の問題でもあると指摘しています。高齢者では食欲や食べられる量の低下、味の好み、長年の食習慣が、植物性たんぱく質の摂取を妨げる可能性があります。必要量を満たすためにより多くの量を食べる必要がある場合には、なおさらです。

この総説は、高齢者にとってのたんぱく質転換の成否は、量・質・受け入れやすさの三つを一体として考えられるかにかかっていることを示しています。十分な量を確保し、植物性のたんぱく源を上手に組み合わせた食事であれば筋肉の健康を支えうる一方で、高齢者を対象とした長期的な根拠は限られている、というのが論文の描く現状です。

原著論文の著者・所属:Rikke Sand Andersen(Deakin Institute for Physical Activity and Nutrition, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Anique Julien(Deakin Institute for Physical Activity and Nutrition, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Laura E Marchese(Deakin Institute for Physical Activity and Nutrition, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Liana Pace(Deakin Institute for Physical Activity and Nutrition, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Hesti Retno Budi Arini(Deakin Institute for Physical Activity and Nutrition, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Bill Tiger Lam(Deakin Institute for Physical Activity and Nutrition, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Tracey Van Grunsven(Deakin Centre for Advanced Food Sciences, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Emma Lundin(Deakin Centre for Advanced Food Sciences, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Djin Gie Liem(Deakin Centre for Advanced Food Sciences, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)、Michael Tieland(Deakin Institute for Physical Activity and Nutrition, School of Exercise and Nutrition Sciences, Australia.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rikke Sand Andersen, Anique Julien, Laura E Marchese, et al. The protein transition in older adults. Proceedings of The Nutrition Society 2026-08-04. DOI: 10.1017/s0029665126105382. 原著ライセンス:CC BY.