この研究は、メキシコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Obesities

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

メキシコ北部に暮らす先住民セリ(コムカアック)の人々は、かつて漁や狩猟、採集を中心とする移動生活を送っていました。定住後は伝統的な食事が変わり、加工食品や超加工食品が多く取り入れられるようになり、身体活動も減ってきたと報告されています。研究チームによると、セリの子どもには幼いころから体重過多が多く見られます。

子どもの肥満対策として、食事や運動など複数の生活習慣に同時に働きかけ、家族や地域も巻き込む「多面的介入」が有望とされています。また、先住民の地域では、その文化に合わせて内容を調整した取り組みのほうが受け入れられやすいと考えられています。しかし、先住民の子どもを対象にこうした介入を作り、実施し、評価した研究はまだ限られています。

そこで著者らは、セリの子ども向けに文化的な調整を加えた6か月間の多面的介入プログラム「PIMUNIC」を開発しました。この論文は、その開発の経緯を紹介するとともに、開始から6か月後と12か月後に、肥満に関わる生活行動と肥満の指標がどう変化したかを調べたものです。

プログラムの内容と調べ方

PIMUNICは、低所得の少数民族の子どもを対象に健康的な生活習慣を促した先行の教育プログラムを土台にしています。このプログラムは、個人と周囲の環境との相互作用が行動を形づくるとする「社会的認知理論」に基づくものです。著者らはその初期版をメキシコの別の先住民であるヤキの子どもたちで実施した経験も踏まえ、さらにセリ向けの調整を加えました。研究者の一部はセリの二つの集落に長期間住み込み、地域の暮らしや伝統を理解したうえで内容を整えています。魚介類などセリの伝統的な食べ物を勧めること、水を飲む習慣、家庭菜園づくり、メキシコの食事ガイドや食品パッケージの警告表示の読み方などが盛り込まれました。

プログラムは学校で週1回、1回45〜50分の授業を全24回行う形式で、栄養、身体活動、地域とのつながりの三本柱で構成されました。ただし、運動そのものの時間は設けず、日々体を動かすことや座りがちな時間を減らすことの大切さを授業で伝える内容でした。年齢差が大きいため学年ごとに分けて実施し、保護者の参加も呼びかけました。欠席した子には家庭訪問で内容を補いました。

対象は二つの集落に住む5〜11歳の子どもです。地域に住む学齢期の子ども125人のうち122人が参加し、参加率は97.6%でした。開始前、終了直後の6か月時点、開始から12か月時点の3回、身長・体重・腹囲・体脂肪などの測定に加え、食事内容、身体活動、睡眠時間、栄養と健康に関する知識を調べました。食事はセリの子ども向けに作られた質問票を用い、身体活動は質問票の得点(最大26点)で評価しています。

この研究は対照群を設けず、同じ子どもたちの介入前後を比べる設計です。そのため、示されているのはプログラム前後での変化であり、他の要因の影響を切り分けた効果ではない点に注意が必要です。

主な結果

開始前の時点で、子どもの約1割に腹部肥満が見られました。身体活動の平均得点は26点満点中およそ9点と低めで、1日の摂取エネルギーのうち超加工食品に由来する分が平均約840キロカロリーと大きな割合を占めていました。

プログラムを終えた6か月時点では、身体活動の得点が平均2.61点上がり、睡眠時間は1晩あたり約0.87時間長くなり、知識テストの得点(10点満点)は1.72点上がっていました。食事では、超加工食品からのエネルギーが1日あたり約151キロカロリー減りました。また、清涼飲料やジュースを飲んでいた子どもでは、清涼飲料が1日約128グラム、ジュースなどの加工飲料が約74グラム減り、水の摂取量は約291グラム増えていました。

12か月時点でも、身体活動の得点(開始前より3.71点増)、知識テストの得点(2.03点増)、超加工食品からのエネルギー(約112キロカロリー減)、ジュースなどの加工飲料(約92グラム減)の変化は保たれていました。一方、睡眠時間、水の摂取量、清涼飲料の変化は12か月時点では統計的に意味のある差として残りませんでした。

肥満の指標については、年齢と性別を考慮した体格指数(BMIのZスコア)や体脂肪率、腹囲と身長の比に好ましい変化は見られませんでした。体重や腹囲そのものは増えていましたが、著者らはこれを子どもの成長に伴う当然の変化としています。開始時に過体重または肥満だった子どもに限った分析でも、身体活動と知識の得点の改善は12か月時点まで続いていました。

この研究が示すこと

研究チームは、文化に合わせて作られたPIMUNICがセリの子どもたちの間で高い参加率のもとで実施でき、プログラムの前後で身体活動や食事、知識といった肥満に関わる行動に変化が見られ、その一部は1年後まで続いていたと報告しています。一方で、体格や体脂肪といった肥満の指標そのものには好ましい変化は確認されませんでした。

先住民の子どもを対象にした文化適応型の取り組みについては知見が少ない中、この研究は、地域に根ざして作ったプログラムを実際に届け、その前後で生活行動がどう動いたかを具体的に示した報告といえます。

著者:Yazmín Hugues Ayala(Obesity and Diabetes Research Unit, Nutrition Coordination, Research Center in Food and Development (CIAD), Gustavo Enrique Astiazarán Rosas No. 46, Col. La Victoria, Hermosillo 83304, Sonora, Mexico)、María A. Leal-Serna(Obesity and Diabetes Research Unit, Nutrition Coordination, Research Center in Food and Development (CIAD), Gustavo Enrique Astiazarán Rosas No. 46, Col. La Victoria, Hermosillo 83304, Sonora, Mexico)、Yamili Rojo-Medina(Obesity and Diabetes Research Unit, Nutrition Coordination, Research Center in Food and Development (CIAD), Gustavo Enrique Astiazarán Rosas No. 46, Col. La Victoria, Hermosillo 83304, Sonora, Mexico)、José M. Moreno-Abril(Obesity and Diabetes Research Unit, Nutrition Coordination, Research Center in Food and Development (CIAD), Gustavo Enrique Astiazarán Rosas No. 46, Col. La Victoria, Hermosillo 83304, Sonora, Mexico)、Ana Cristina Gallegos-Aguilar(Obesity and Diabetes Research Unit, Nutrition Coordination, Research Center in Food and Development (CIAD), Gustavo Enrique Astiazarán Rosas No. 46, Col. La Victoria, Hermosillo 83304, Sonora, Mexico)、Heliodoro Alemán-Mateo(Body Composition Laboratory and Functionality, Geriatric Nutrition, Nutrition Coordination, Research Center in Food and Development (CIAD), Gustavo Enrique Astiazarán Rosas No. 46, Col. La Victoria, Hermosillo 83304, Sonora, Mexico)、Silvia Yolanda Moya-Camarena(Molecular Nutrition Laboratory, Nutrition Coordination, Research Center in Food and Development (CIAD), Gustavo Enrique Astiazarán Rosas No. 46, Col. La Victoria, Hermosillo 83304, Sonora, Mexico)、Araceli Serna-Gutiérrez(Sociocultural Department, Sonora Institute of Technology, Cd. Obregon 85137, Sonora, Mexico)、Julián Esparza‐Romero(Obesity and Diabetes Research Unit, Nutrition Coordination, Research Center in Food and Development (CIAD), Gustavo Enrique Astiazarán Rosas No. 46, Col. La Victoria, Hermosillo 83304, Sonora, Mexico)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yazmín Hugues Ayala, María A. Leal-Serna, Yamili Rojo-Medina, et al. Changes in Obesity-Related Behaviors Following a Multicomponent Intervention (PIMUNIC) Among Seri Indigenous Children. Obesities 2026-09-20. DOI: 10.3390/obesities6050068. 原著ライセンス:CC BY.