日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Renal Replacement Therapy

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

改訂の目的:運動療法中心から包括的なケアへ

日本腎臓リハビリテーション学会の作成委員会は、慢性腎臓病(CKD)の患者に向けた「腎臓リハビリテーション診療ガイドライン」を改訂し、その要点をまとめた論文を公表しました。CKDとは腎臓の働きが慢性的に低下した状態のことで、論文は日本の最新統計として成人のおよそ5人に1人、2000万人近くがCKDに該当すると紹介しています。

著者らによれば、CKDの患者では糖尿病や高血圧などによる動脈硬化のリスクに加えて、たんぱく質の分解が進みやすいこと、食事制限、腎性貧血、骨・ミネラル代謝の異常、ミトコンドリアの機能低下といった腎臓病に特有の要因が重なり、身体の働きが落ちやすくなります。これらが互いに影響し合ってフレイル(心身の虚弱)やサルコペニア(筋肉量と筋力の低下)を加速させ、日常生活動作の低下や要介護状態につながりやすい集団になっていると位置づけています。

著者らは、脳卒中や心疾患、呼吸器疾患の領域ではリハビリテーションが標準的な医療として定着している一方、腎臓の領域では長年「安静」と「制限」が中心と考えられてきた経緯を振り返っています。2018年に公表された初版は運動療法に関する推奨を初めて示したものでしたが、その結果として腎臓リハビリテーションが運動療法だけを指すものと狭くとらえられた可能性があると述べています。今回の改訂の狙いは、腎臓リハビリテーションが運動療法だけでなく、適切な薬物治療、栄養・生活指導、心理的ケア、社会的支援を含む多職種による包括的なプログラムであることを明確にし、健康寿命の延伸につなげることだとしています。

どのように作られたか

作成委員会には、腎臓・透析・腎移植・リハビリテーション・栄養の各専門医のほか、ガイドライン作成の専門家、看護師、理学療法士、そして患者の代表が加わりました。対象は、透析をしていないCKD(保存期CKD)、血液透析や腹膜透析を受けている人、腎移植を受けた人を含む、CKDの患者全体です。病態ごとに適した臨床上の疑問(クリニカルクエスチョン)を立てる必要があるため、保存期CKD、透析療法、腎移植、理学療法、栄養療法、多職種ケアのグループに分かれて疑問を作成したと報告しています。

各グループが選んだ担当者がPubMedと医中誌Webを検索し、日本医療機能評価機構の「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020」に沿って証拠を評価しました。評価は複数の担当者による一次評価、グループ責任者による二次評価、委員会での議論による最終判断という多段階の仕組みをとり、推奨の強さは患者代表と多職種の代表による合意形成の会議で決めたとしています。証拠の確実性と推奨の強さの判定にはGRADEという国際的な手法を、研究の偏りの評価にはRoB 2という道具を用いています。最終案は章ごとの査読、関連学会の確認、一般からの意見公募を経て仕上げられました。

報告された主な結果

保存期CKDの運動療法については、今回は無作為化比較試験(参加者をくじ引きのように割り振って介入の効果を比べる研究)に限って19件を集めて検討しました。その結果、運動に耐える力(運動耐容能)、歩く能力、健康に関連した生活の質(QOL)といった機能面の指標では一貫して良い効果が示された一方、死亡や腎機能の低下、入院といった、いわゆる硬い指標について明確な利益を示すには証拠が不十分だったと報告しています。著者らは、これは介入や追跡の期間が短い研究が多いことを反映したもので、運動療法を否定する証拠ではないと述べています。また、筋肉が増えると血液中のクレアチニンが上がり、推算された腎機能の指標が見かけ上下がるのではないかという理屈上の懸念に対し、少なくとも短期間では運動療法が腎機能を悪化させるという明確な証拠はなく、むしろ改善を示唆する研究もあったとしています。以上を踏まえ、保存期CKDには運動療法を行うことを「提案する」(弱い推奨)としました。

透析を受けている人では、血液透析について95件の無作為化比較試験が集められ、初版の時点に比べて証拠の量が大きく増えました。死亡や心血管の事故を確実に減らすという証拠はなお不足している一方、筋力と運動耐容能の改善は今回もっとも一貫した結果が得られた領域だと報告されています。透析の時間内に行う運動は、監督のもとで実施でき、取り組みや継続の割合が高まりやすい点で特に有用と考えられるとしています。安全性については、透析中の血圧低下を有害事象として検討したものの、重い血圧低下や心血管の有害事象の増加は認められなかったと述べています。腹膜透析についても新たに8件の試験を対象とした検討が行われ、運動耐容能とQOLの改善と関連することが示唆されました。ガイドラインは、血液透析には運動療法を「推奨する」、腹膜透析には「提案する」としており、いずれも成人が対象で小児には当てはまらない可能性があると注記しています。

腎移植を受けた人については、運動療法を提案するとともに、栄養療法をたんぱく質制限と塩分制限に分けて評価しました。塩分の摂りすぎは高血圧や体液の貯留、心血管リスクと明らかに関連しており、塩分制限は血圧と体液量の管理を通じて移植した腎臓と心血管系の負担を減らしうる点で臨床的な意味が大きいとしています。一方、たんぱく質制限が移植腎の働きや長期の見通しを改善するという証拠は限られており、免疫抑制療法や代謝の変化によってサルコペニアや筋力低下が起こりやすい集団であることから、過度な制限がこれらを悪化させる懸念があるとも述べています。そのためたんぱく質制限については、たんぱく尿がある人に対して提案するにとどめ、一律の推奨を支える証拠は不十分だとしています。

今回の改訂では理学療法の領域が新たに加えられました。皮膚の表面から電気で筋肉を収縮させる神経筋電気刺激(NMES)については、血液透析の患者を対象とした12件の研究がまとめられ、筋力や下肢の動作能力、運動耐容能の改善に寄与することが示されたと報告しています。保存期CKDや腎移植の患者を対象とした適格な研究は見つかりませんでした。また活動量計を用いた指導・管理については8件が集められ、そのうち5件が歩数を結果として報告し、歩数を増やす可能性が示唆されたとしています。著者らは、これらを運動療法の代わりではなく、継続や行動の変化を支える補完的な方法として位置づけ、通常の運動療法が難しい人にも腎臓リハビリテーションの対象を広げるものだと説明しています。

多職種ケアについては、看護師を含む医療者による包括的な支援を検討し、保存期CKDで20件、維持血液透析で25件の無作為化比較試験がまとめられました。介入の中身は運動プログラム、栄養指導、CKDに関する知識の提供と教育、行動変容の手法、自己管理の支援、認知行動療法などさまざまです。いずれの検討でも、身体機能、健康関連QOL、自己管理の能力など複数の結果が有意に改善し、維持血液透析では透析に関連する合併症の指標としての血圧の改善も認められたと報告されています。ただし関わる職種や介入の内容が研究間で大きく異なるため、看護師と特定の職種の組み合わせの効果までは判断が難しかったとしています。

栄養療法については、運動療法と組み合わせる観点から検討が行われました。保存期CKDのG3〜5の患者を対象とした5件では、通常のケアと比べて栄養療法と運動療法の併用が腎機能に悪影響を与えることなく運動耐容能を有意に改善し、透析患者を対象とした8件では、栄養療法だけの場合と比べて併用で身体機能が有意に改善したと報告されています。ガイドラインは、保存期CKDでも透析期でも食事・栄養療法と運動療法を組み合わせることを提案しています。

この報告が示すもの

著者らは、死亡や腎機能の悪化といった硬い指標については証拠がなお限られていることを率直に認めつつ、運動に耐える力や歩く力、生活の質といった患者本人にとって重要な結果では、保存期から透析期、移植後まで一貫して意味のある改善が示されたと整理しています。そのうえで腎臓リハビリテーションを、CKDの診療に付け足す補助的な手段ではなく、患者の生活機能を支える土台となる介入として位置づけるべきだと述べています。

論文はまた、運動療法や生活指導の効果が介入の内容だけでなく、患者の理解や納得、自律性、自己効力感といった心理的・行動的な要素にも強く左右されることを指摘しています。疲労感や身体の制限、心理的な負担、社会参加といった、従来の検査値ではとらえきれない患者自身の実感(患者報告アウトカム)の重要性が腎臓の領域でも高まっているとし、腎臓リハビリテーションは本来そうした実感の改善を目指す介入だと述べています。ひとり暮らしや高齢の夫婦だけの世帯、就労や経済の問題といった社会的な事情が実施と継続を大きく左右するため、医療機関の中で完結するものではなく、地域の資源や社会福祉の制度との連携が欠かせないとも記しています。

今回のガイドラインは、初版で扱われた運動に関する証拠を更新するとともに、腹膜透析、理学療法、看護師を含む多職種ケア、栄養という領域で新たに証拠を整理し、それぞれに推奨を示したものです。著者らはこれを、現在わかっていることを整理するだけでなく、今後の研究と臨床の方向を指し示す羅針盤として位置づけ、腎臓リハビリテーションがCKDの患者のより良い生活を支えるケアとして育っていくことを期待すると結んでいます。

著者:Junichi Hoshino(Department of Nephrology, Tokyo Women’s Medical University, 8-1, Kawada-Cho, Shinjuku, Tokyo, 162-8666, Japan)、Tadashi Sofue(Department of Cardiorenal and Cerebrovascular Medicine, Faculty of Medicine, Kagawa University, Kagawa, Japan)、Toshiaki Usui(Department of Nephrology, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan)、Susumu Toda(Department of Nephrology, Kameoka Hospital, Kyoto, Japan)、Hiroo Kawarazaki(Department of Internal Medicine, Teikyo University Hospital Mizonokuchi, Kanagawa, Japan)、Kiyotaka Uchiyama(Department of Nephrology, International University of Health and Welfare, Chiba, Japan)、Tsutomu Sakurada(Division of Nephrology and Hypertension, Department of Internal Medicine, St. Marianna University School of Medicine, Kanagawa, Japan)、Hideyo Oguchi(Department of Nephrology, Faculty of Medicine, Toho University, Tokyo, Japan)、Masahiko Yazawa(Department of Internal Medicine, Yokohama General Hospital, Kanagawa, Japan)、Ryota Matsuzawa(Department of Physical Therapy, School of Rehabilitation, Hyogo Medical University, Hyogo, Japan)、Masakazu Saitoh(Department of Physical Therapy, Faculty of Health Science, Juntendo University, Tokyo, Japan)、Takahiro Ohashi(Department of Nursing, Kansai Medical University, Osaka, Japan)、Shiho Kosaka(Department of Nursing, Toho University, Tokyo, Japan)、Etsuko Doi(Department of Nutrition, Toranomon Hospital, Tokyo, Japan)、Michihiro Hosojima(Aizubange Center for Nephrology and Clinical Nutrition, Fukushima Medical University, Fukushima, Japan)、Naohiko Fujii(Department of Nephrology, Hyogo Prefectural Nishinomiya General Medical Center, Nishinomiya, Japan)、Ichiei Narita(Niigata University of Health and Welfare, Niigata, Japan)、Kunihiro Yamagata(Division of Preventive and Sports Nephrology, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan)、Yugo Shibagaki(Division of Nephrology and Hypertension, Department of Internal Medicine, St. Marianna University School of Medicine, Kanagawa, Japan)、Shinichi Tokura、Takeshi Shukunobe、Akiko Uchida、Hidetaka Wakabayashi、Masahide Kondo、Systematic Review Members、Naotaka Ikeda、Shun Ishibashi、Naoto Usui、Daisuke Uchida、Chiharu Uno、Masatomo Ogata、Satoru Ochiai、Yuhei Otobe、Hideyuki Kabasawa、Ayaka Kamata、Haruna Kugai、Toshiki Kutsuna、Yuki Kunitsu、Shigeki Kojima、Sho Kojima、Kenichi Kono、Ryu Kobayashi、Nobuyuki Shirai、Yuta Suzuki、Noriyuki Kounoue、Yohei Tsuchida、Maho Terashita、Kotaro Hitoshi、Kenta Torigoe、Shûhei Nakajima、Shinta Nishioka、Masatoshi Nishimoto、Akihisa Hattori、Takuya Harada、Akihito Hishikawa、Yu Honda、Shota Matsufuji、Hiromasa Miyake、Hiroki Yabe、Shohei Yamada、Shun Tonomura、Collaborators、Hiroki Nishiwaki、Kokichi Morimoto、Yuki Ohara、Yasushi Tsujimoto、Norio Watanabe、Izumi Endo、Yu Nagaoka、Yuka Konishi、Naoko Mizushima、Yasuhiko Shiroyama、Yoshihiro Ishihara、Soichi Kono

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Junichi Hoshino, Tadashi Sofue, Toshiaki Usui, et al. Executive summary of the clinical practice guideline for renal rehabilitation 2026: systematic reviews and recommendations of exercise therapies, nutritional therapies, and multidisciplinary care in patients with chronic kidney diseases. Renal Replacement Therapy 2026-09-01. DOI: 10.1186/s41100-026-00759-3. 原著ライセンス:CC BY.