著者の所属・活動拠点の国は、香港、中国、オーストラリアです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

筋肉の減少と肥満が重なる高齢者への食事支援

「サルコペニア肥満」とは、筋肉量の低下と体脂肪の過剰が同時に起きている状態を指します。著者らによると、世界の高齢者のおよそ11%が該当し、サルコペニアや肥満が単独の場合より、転倒、身体機能の障害、心臓や代謝の病気、死亡などのリスクが高いとされています。

対策としては、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせ、さらにエネルギー(カロリー)を控えつつたんぱく質を多めにとる食事が推奨されています。カロリーを減らすだけでは筋肉まで落ちてしまう恐れがあるため、たんぱく質を十分に確保することが重要だと論文は説明しています。ただし、こうした食事を対面の指導だけで長く続けるのは難しく、通院の負担や医療資源の制約が課題になります。

そこで研究チームは、サルコペニア肥満の高齢者向けに食事の自己管理を支援するスマートフォンアプリ「EatWelLog®」を開発しました。食事の記録、栄養素の自動集計とフィードバック、利用を促すリマインダー、研究チームや家族・仲間とのメッセージ機能、動画やクイズ形式の学習コンテンツなどを備えています。本研究は、このアプリを生活習慣プログラムに組み合わせることが実際に運用できるか(実施可能性)、利用者に受け入れられるか(受容性)、そしてどの程度の効果が見込めそうかを予備的に調べることを目的としています。

2つのグループで8週間のプログラムを比較

研究はパイロット(予備的な)ランダム化比較試験として行われました。ランダム化比較試験とは、参加者をくじ引きのような方法で無作為にグループ分けし、結果を比べる研究方法です。地域で暮らす65歳以上で、サルコペニア肥満のリスクがあると判定された高齢者41人が参加登録し、従来型の指導を受けるグループと、それに加えてアプリを使うグループに割り振られました。

どちらのグループも8週間のプログラムを受けました。内容は、管理栄養士による個別相談3回、グループでの栄養教室5回、そして週1回60分の運動教室8回です。食事については、推定必要量よりエネルギーを約12%減らし、体重1kgあたり1日1.5gのたんぱく質をとることが目標とされました。運動教室では、ゴムバンドを使った筋力トレーニングと速歩きを行いました。アプリのグループは、この期間中に加えてその後の6か月間もアプリの利用を勧められました。

評価は、開始時、8週間のプログラム終了直後、終了から3か月後と6か月後の4回行われました。主な評価項目は握力(筋力)、筋肉量、身体機能の検査スコア、BMI、腹囲、体脂肪率です。測定担当者には、参加者がどちらのグループかを知らせない形がとられました。

運用は可能だったが、アプリの上乗せ効果ははっきりせず

実施可能性について、論文は募集に応じた割合が48.8%、教室への出席率が83.3%で、実施は可能だったと報告しています。期間中に有害事象の報告はありませんでした。一方、アプリのグループでは開始時点で参加しなかった人が5人、プログラム開始後に脱落した人が4人いました。アプリへの受容性は中程度から高いと評価されました。

主な評価項目では、2つのグループの間に統計的な差は見られず、時間の経過に伴う変化の仕方にもグループによる違いは検出されませんでした。ただし、握力は両グループとも開始時からプログラム終了直後にかけて向上し、身体機能の検査スコアはアプリのグループでその後の追跡時点を通じて改善が見られたと報告されています。

アプリの使われ方を見ると、食事を記録した日の割合は、指導を受けていた8週間では40%でしたが、その後の自主的な利用期間では8%に下がりました。動画視聴やゲームの利用も、指導期間が終わると大きく減少しました。グループインタビューでは、参加者は食事の記録やフィードバック、リマインダーを評価する一方、食べ物を記録する機能には使いにくさがあると指摘しました。

研究が示すこと

著者らは、アプリを組み合わせたプログラムは実施可能で受け入れられたものの、脱落を減らし、食事記録を続けてもらう工夫が必要だとまとめています。また、この試験は効果を確かめるのに十分な人数で設計されていないため、アプリを加えることの上乗せ効果は不確かだとしています。サルコペニア肥満の高齢者に向けた専用の食事支援アプリは運用できる段階にある一方で、その効果を判断するにはより大規模な試験が必要だというのが、この研究の位置づけです。

原著論文の著者・所属:Justina Yat Wa Liu(School of Nursing, The Hong Kong Polytechnic University, Kowloon, Hong Kong)、Yixue Quan(School of Nursing, The Hong Kong Polytechnic University, Kowloon, Hong Kong)、Pui Ying Mak(School of Nursing, The Hong Kong Polytechnic University, Kowloon, Hong Kong)、Man Ki Law(School of Nursing, The Hong Kong Polytechnic University, Kowloon, Hong Kong)、Kenneth Ka Hei Lo(School of Nursing, The Hong Kong Polytechnic University, Kowloon, Hong Kong)、Tongyu Li(School of Architecture and Design, Harbin Institute of Technology, Harbin 150006, China)、Jimmy Chun Yu Louie(Department of Biomedical, Health and Exercise Sciences, School of Health Sciences, Swinburne University of Technology, Melbourne 3122, Australia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Justina Yat Wa Liu, Yixue Quan, Pui Ying Mak, et al. Effects of the EatWelLog® Mobile Application for Managing Sarcopenic Obesity Among Community-Dwelling Older Adults: A Pilot Randomized Controlled Trial. Nutrients 2026-10-01. DOI: 10.3390/nu18193243. 原著ライセンス:CC BY.