著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。

掲載誌:Food systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

この総説が目指したこと

1-デオキシノジリマイシン(DNJ)は、ブドウ糖(D-グルコース)によく似た形をもつ天然の化合物です。ブドウ糖の環の中にある酸素原子が、窒素を含む原子団に置き換わった構造をしており、こうした化合物は「イミノ糖」と呼ばれます。数十年前から、さまざまな生物学的な働きをもつ物質として研究者の関心を集めてきました。

著者らはこの総説で、DNJとその関連化合物について、分子の構造と性質、得られる原料と製法、細胞や動物などで報告されてきた働きを整理しました。そのうえで、機能性食品の素材、栄養補助食品、医薬品の原料としてDNJを使える可能性を評価しています。著者らによると、桑の葉の抽出物をもとに抗糖尿病作用をうたう食品素材(Reducose®、Glubloc™)が開発され特許も取られていますが、DNJそのものは現時点で食品添加物として承認されていません。

どのように調べたか、何から得られるか

著者らは、DNJが文献に初めて登場した1968年から2026年3月までに発表された英語とロシア語の論文を、複数の学術データベースで検索しました。化学構造や物性については化合物データベースPubChemも参照し、集めた知見を体系的に整理しています。

論文によると、DNJは1968年に抗生物質候補を合成する途中の物質として初めて報告されました。1970年代末に桑の木の根から取り出され、1984年には細菌の一種である枯草菌からつくる方法が示されています。その後、DNJをもとにした医薬品も生まれました。2型糖尿病の治療薬ミグリトールや、まれな遺伝性疾患であるゴーシェ病・ファブリー病などに使われるミグルスタット、ミガラスタットがその例です。

天然の主な供給源は、桑(クワ属の植物)、桑の葉を食べるカイコの幼虫、そしてバチルス属やストレプトミセス属の微生物です。桑では種子の含有量が特に高いと報告されています。ただし種子は量が少なく、葉の含有量は0.1%程度にとどまります。抽出には水や水とアルコールの混合液がよく使われますが、得られる抽出液は多くの成分が混ざっており、DNJの割合は低くなります。そのため、成分を分け取るクロマトグラフィーなどで精製・濃縮する工夫が紹介されています。桑の樹皮の抽出物でDNJを44%まで高めた例もあります。

特に注目されているのが微生物を使った生産です。遺伝子工学などの手法で生産能力の高い菌株がつくられており、紫外線や化学物質で変異を起こしたストレプトミセス属の菌株では、培養液中のDNJ濃度が17 mg/Lから約36 mg/Lに上がったという報告もあります。またDNJは光を吸収する構造をもたないため、そのままでは量を測りにくいという課題があります。そこで、別の物質を結合させてから分析する方法など、さまざまな定量法が開発されてきたことも整理されています。

報告されている主な働き

著者らは、主に培養細胞や動物を使った実験で報告されたDNJの働きをまとめています。抗酸化については、細胞を酸化から守る仕組みに関わる因子Nrf2を活性化し、酸化によるストレスや傷害を和らげたという結果が、ヒトの血管内皮細胞や肉用鶏などで示されています。炎症については、TNF-α、IL-6、IL-1βといった炎症を促す物質を減らしたという報告が、モデルの違いを問わず見られるとしています。

糖尿病に関わる働きとしては、ブドウ糖に似た構造を生かし、糖を分解する酵素α-グルコシダーゼの働きを競合的に妨げることが主な仕組みとして挙げられています。このほか、アルツハイマー病に似た状態を示すマウスで脳の炎症や神経細胞の死が減ったという報告や、いくつかのウイルスや細菌に対する作用を調べた研究も紹介されています。一方、ウイルスへの作用では、はっきりした効果が見られなかった例も含まれています。

この総説が示すこと

この総説は、桑やカイコ、微生物から得られるDNJについて、製法から多様な生物学的な働きまでをまとめて見渡せるようにしたものです。著者らは、DNJが食品や栄養補助食品、医薬品の素材になりうる可能性を強調しています。同時に、原料からの収量を高める方法、細胞や動物での安全性の確認、体内への吸収のされやすさの解明が今後の課題であると述べています。つまり、期待される働きの多くは主に実験室レベルの知見であり、利用を広げるには残された課題があることも、この整理から読み取れます。

原著論文の著者・所属:L. S. Dyshlyuk(Immanuel Kant Baltic Federal University)、A. C. Bakhtiyarova(Immanuel Kant Baltic Federal University)、O. O. Babich(Immanuel Kant Baltic Federal University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):L. S. Dyshlyuk, A. C. Bakhtiyarova, O. O. Babich. Deoxynojirimycin: Molecular structure, biological effect profile, and potential applications in the food industry. Food systems 2026-10-22. DOI: 10.21323/2618-9771-2026-9-3-540-550. 原著ライセンス:CC BY.