この研究は、シンガポール、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

肥満や過体重は世界的な健康課題であり、体重を減らす方法として「隔日断食(ADF)」のような食事法が用いられています。ADFとは、24時間ごとに自由に食べる日(摂食日)と、摂取カロリーを大きく抑える日(断食日)を交互に繰り返す方法です。著者らの説明によれば、こうした食事だけによる減量は体重や体脂肪を減らす一方で、筋肉も大きく減りやすいという問題があります。

加齢とともに筋肉量と筋力は自然に低下していくため、高齢者が食事制限だけで減量すると、筋肉の減少が重なり、筋肉の減少が健康や生活機能に悪影響を及ぼす「サルコペニア」のリスクが高まると論文は述べています。そこで、筋タンパク質の合成を促すとされるタンパク質、とくにその合成の鍵となるアミノ酸「ロイシン」を補うことが注目されてきました。ロイシンは、タンパク質をたくさん摂るより少ないカロリーで筋タンパク質合成を刺激しうる成分として論じられています。

ただし著者らは、体重に応じて量を決めた(体重あたりで調整した)タンパク質やロイシンの補給が、高齢者の減量中に実際どのような効果をもたらすのかは明らかでないと指摘します。本研究の目的は、ADFによる減量を行う高齢男性において、体重あたりで調整したタンパク質またはロイシンの補給が、体組成、サルコペニア関連の指標、そして血圧・血中脂質・血糖関連といった心血管代謝マーカーにどう影響するかを検証することでした。著者らは当初、タンパク質やロイシンの摂取を増やせばこれらの指標が改善するだろうと仮説を立てていました。

どのように調べたか

研究チームはシンガポールのナンヤン工科大学で、三群並行・二重盲検の無作為化比較試験を実施しました。対象は60〜89歳の男性で、BMIが23.0 kg/m²以上の人たちです。80人が募集され、辞退や選定基準を満たさなかった人を除き、61人が28日間(4週間)のプログラムを完了して解析に含まれました。

参加者は摂食日(自由に飲食できる日)と断食日(正午から午後2時の間に600 kcal以下の食事を1回とる日)を24時間ごとに交互に繰り返しました。そのうえで、自分で選んだ普段の食事に加えて、割り当てられた粉末サプリメントを摂食日は食事ごとに3回、断食日は1回摂取しました。三つの群は、体重1 kgあたりの摂取量で、タンパク質0.0 g・ロイシン0.0 gの対照群、タンパク質0.0 g・ロイシン0.08 gのロイシン群、タンパク質0.4 g・ロイシン0.04 gのタンパク質群です。サプリメントはいずれもチョコレート味で、体重あたりのカロリーが同じになるよう揃えられ、不透明な袋に密封して、参加者も評価者も中身がわからないようにされていました。

測定は介入の前後に行われました。体組成は二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)で、脂肪量・除脂肪量・骨の指標などを評価しました。サルコペニア関連では、アジアのワーキンググループの2019年基準に沿って、四肢の除脂肪量を身長で調整した指標、握力、歩行速度、立ち座りなどを組み合わせた身体機能テストを実施しました。健康指標としては血圧、血中脂質、インスリンやHbA1cなどの糖代謝関連の血液検査が行われ、認知機能の検査も加えられました。参加者は睡眠、身体活動、サプリメント摂取、食事内容を記録し、遵守状況と交絡要因の確認に用いられました。

報告された主な結果

論文によれば、介入の遵守状況は良好で、サプリメントの摂取率は平均98.6%、断食日の食事時間の遵守率は平均92.9%でした。一方、断食日のカロリー上限(600 kcal以下)の遵守率は平均63.1%と中等度にとどまったと報告されています。食事記録の分析では、エネルギー摂取量は三群で差がなく、ロイシン群はタンパク質群より、タンパク質群は対照群よりロイシン摂取が多く、タンパク質群のタンパク質摂取量は他の二群の約2倍でした。つまり、意図したとおりに群間の差がつけられていたことが確認されました。

主要な結果として、体組成、サルコペニア関連の指標、健康に関する結果のいずれにも、群と時間の有意な交互作用は認められませんでした。つまり、どの群に割り当てられたかによって4週間の変化の仕方が異なる、という所見は得られなかったということです。例外は拡張期血圧とHDLコレステロールの2項目で、ここでは有意な交互作用が報告されています。

一方で、群にかかわらず時間による変化(主効果)は多くの項目で有意でした。体組成の指標はすべて低下し(骨密度は例外で有意な変化なし)、収縮期血圧や血中脂質の指標(総コレステロール、LDLコレステロール、総コレステロール/HDL比、トリグリセリド)も低下しました。さらに、筋力および身体機能に関するサルコペニア関連のすべての指標が改善したと報告されています。

著者らの結論は、この4週間の介入において、ロイシンやタンパク質の摂取を増やす食事のみの介入では、減量中の体組成、サルコペニア関連指標、心血管代謝指標に、追加的な測定可能な改善は認められなかった、というものです。

この研究が示すこと

この試験は、体重あたりで量を調整したタンパク質やロイシンの補給を、高齢男性の隔日断食に上乗せしても、4週間という期間では群ごとの差として測定できる上積みの効果は確認されなかったことを報告しています。同時に、参加者全体では体重や体脂肪が減り、血圧や脂質の指標、筋力や身体機能の測定値が改善するという変化が観察されました。

著者らが示したのは、栄養素を増やす食事介入だけで減量中の筋肉に関する成果を上乗せできるかという問いに対して、この条件・この期間では確認できなかったという報告です。高齢者の減量をどう設計するかを考えるうえで、補給の量や種類だけでは説明しきれない部分が残ることを示す一つの知見といえます。

著者:Benedict Wei Jun Pang(Physical Education and Sports Science, National Institute of Education, Nanyang Technological University, Singapore 637616, Singapore)、Yifan Yang(Physical Education and Sports Science, National Institute of Education, Nanyang Technological University, Singapore 637616, Singapore)、Bobby K. Cheon(Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development, National Institutes of Health, Bethesda, MD 20892-2425, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Benedict Wei Jun Pang, Yifan Yang, Bobby K. Cheon. Effects of Body-Mass-Scaled Protein and Leucine Supplementation on Body Composition and Cardiometabolic Blood Markers During Weight Loss in Older Men—A Randomized Controlled Trial. Nutrients 2026-10-02. DOI: 10.3390/nu18193255. 原著ライセンス:CC BY.