著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的:カビに傷みやすいブルーベリーを包む素材を作る
ブルーベリーは栄養面から人気が高まる一方、収穫後にカビに感染して傷みやすい果実です。研究チームは、ブルーベリーから分離される病原性のカビのうち、黒カビ病を起こすコウジカビの一種アスペルギルス・ニガーが特に強い病原性を示すという先行報告を背景に、このカビを抑える包装素材の開発に取り組みました。
生物由来の分解しやすい素材でつくる食品用フィルムには、果実の表面に直接塗る「コーティング」と、独立した膜として容器を覆い内部の気体環境を調整する「包装フィルム」があります。本研究が扱うのは後者です。大豆たんぱく質を精製した分離大豆たんぱく質(SPI)は安価で入手しやすい膜の材料ですが、それだけで作った膜は強度が弱く、水分を通しやすいという弱点があります。
そこで著者らは、補強材として大豆の殻から取り出した「セルロースナノファイバー(CNF)」、つまり植物繊維の主成分セルロースを髪の毛よりはるかに細い繊維にほぐした素材を加え、さらにカビを抑える成分としてナタマイシン(NA)を組み込んだ複合フィルムを作りました。論文は、このフィルムの性質を調べ、ブルーベリーの鮮度保持に役立つ可能性を評価することを目的としています。
何を調べたか:素材づくりから配合の決定まで
研究チームはまず、大豆殻をアルカリ処理と漂白で不純物を除いてセルロースを取り出し、塩化コリンとシュウ酸から作った「深共晶溶媒」と呼ばれる特殊な液体で処理してCNFを得ました。電子顕微鏡による観察では、得られたCNFは細長い繊維状で、直径はおよそ9.71ナノメートルと見積もられました。結晶の割合を示す結晶化度は、処理前のセルロースの62%に対しCNFでは67%で、熱分解が始まる温度もCNFが最も高く、著者らは熱に対して安定な素材が得られたと報告しています。
次に、SPIにCNFとNAをそれぞれ1〜5%の範囲で加えた膜を作り、水蒸気や酸素の通しやすさ、引っ張り強さ、カビを抑える力を比べて最適な配合を探りました。CNFを3%加えると水蒸気の透過が最も小さくなり、引っ張り強さは8.93メガパスカルまで上がりました。一方、NAを加えると引っ張り強さと伸びは下がり、NA3%では引っ張り強さ6.74メガパスカル、破断までの伸び19.70%となりました。著者らは、NAの量を適切に選ぶことが強度のバランスを保つうえで重要だとしています。
カビへの効果は、アスペルギルス・ニガーを広げた培地にフィルムの原料液を入れ、周囲にカビが生えない範囲(阻止円)の大きさで調べました。NAを含まない液ではカビを抑える働きは見られませんでしたが、NAを1%から3%に増やすと阻止円の直径は27.52ミリから34.09ミリへ広がりました。3%から4%に増やしても広がりはわずかだったことなどから、研究チームはCNFとNAをいずれも3%とする配合を最適と判断しました。
この配合のフィルムは、何も加えないSPI膜より光を通しにくくなり、可視光の透過率は87.74%から74.79%へ、紫外線領域では73.31%から54.41%へ下がりました。一方で、下に置いた図柄は透けて見える程度の透明さを保っていたと報告されています。
主な結果:冷蔵20日間でブルーベリーの傷みが少なかった
研究チームは、ブルーベリー100グラムずつを入れたフラスコの口を、SPI膜、SPIにCNFを加えた膜、SPIにCNFとNAを加えた膜でそれぞれ覆い、何も覆わない対照群と合わせて4℃で20日間保存し、5日ごとに品質を調べました。
20日後の重量減少率は、対照群16.32%、SPI膜14.61%、CNF入り膜13.86%に対し、CNFとNAを加えた膜では11.70%で最も小さくなりました。柔らかくなる、果汁が漏れる、カビの斑点が出るといった程度を段階評価した腐敗率も、対照群22.66%、SPI膜18.67%、CNF入り膜14.0%に対し、CNFとNAを加えた膜では11.0%と最も低い値でした。腐敗は保存15日目ごろから進みやすくなったと報告されています。
果実の硬さも、20日後に対照群2.20ニュートンに対してCNFとNAを加えた膜では2.59ニュートンと最も高く保たれました。見た目でも、対照群のブルーベリーにはしわや縮みが目立ったのに対し、この膜で覆った果実はしわが少なく、形や色の変化もわずかだったとされています。糖度の指標となる可溶性固形分も、保存終了時にはこの膜の群が他の群より高い値を保っていました。
この研究が示すこと
この研究は、それぞれ単独では弱点のある材料を組み合わせることで、大豆たんぱく質の膜に補強とカビを抑える働きを同時に持たせられることを示した報告です。大豆の殻という農業副産物から補強用の繊維を取り出して利用している点も特徴です。一方で、カビを抑える成分を加えると膜の強度が下がるという兼ね合いも明らかになっています。
今回の結果は、フラスコの口を膜で覆って冷蔵保存するという実験室の条件で得られたものです。その条件のもとで、CNFとナタマイシンを加えた膜は、何も覆わない場合やほかの膜と比べてブルーベリーの重量減少や腐敗、柔らかくなることを抑える結果を示しました。
原著論文の著者・所属:Qi H(College of Biological Sciences and Technology, Beijing Key Laboratory of Forest Food Processing and Safety, Hebei Province Key Laboratory of Sustainable Utilization and Development of Forest Food Resources, Beijing Forestry University, No. 35 Qinghua East Road Haidian District, Beijing 100083, China.)、Pang X(College of Biological Sciences and Technology, Beijing Key Laboratory of Forest Food Processing and Safety, Hebei Province Key Laboratory of Sustainable Utilization and Development of Forest Food Resources, Beijing Forestry University, No. 35 Qinghua East Road Haidian District, Beijing 100083, China.)、Wang S(College of Biological Sciences and Technology, Beijing Key Laboratory of Forest Food Processing and Safety, Hebei Province Key Laboratory of Sustainable Utilization and Development of Forest Food Resources, Beijing Forestry University, No. 35 Qinghua East Road Haidian District, Beijing 100083, China.)、Tian B(College of Biological Sciences and Technology, Beijing Key Laboratory of Forest Food Processing and Safety, Hebei Province Key Laboratory of Sustainable Utilization and Development of Forest Food Resources, Beijing Forestry University, No. 35 Qinghua East Road Haidian District, Beijing 100083, China.)、Xie S(College of Biological Sciences and Technology, Beijing Key Laboratory of Forest Food Processing and Safety, Hebei Province Key Laboratory of Sustainable Utilization and Development of Forest Food Resources, Beijing Forestry University, No. 35 Qinghua East Road Haidian District, Beijing 100083, China.)、Zhao H(College of Biological Sciences and Technology, Beijing Key Laboratory of Forest Food Processing and Safety, Hebei Province Key Laboratory of Sustainable Utilization and Development of Forest Food Resources, Beijing Forestry University, No. 35 Qinghua East Road Haidian District, Beijing 100083, China.)、Zhang B(College of Biological Sciences and Technology, Beijing Key Laboratory of Forest Food Processing and Safety, Hebei Province Key Laboratory of Sustainable Utilization and Development of Forest Food Resources, Beijing Forestry University, No. 35 Qinghua East Road Haidian District, Beijing 100083, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qi H, Pang X, Wang S, et al. Natamycin-Loaded Soy Protein Isolate/Cellulose Nanofibril Edible Composite Film for Improving the Postharvest Quality of Blueberries. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-29. DOI: 10.3390/foods15193495. 原著ライセンス:CC BY.