著者の所属・活動拠点の国は、エジプト、ルーマニアです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

腸球菌(エンテロコッカス)は、人や動物の腸内に普段から住んでいる細菌の仲間です。多くは病気を起こしませんが、エンテロコッカス・フェカーリス(E. faecalis)とエンテロコッカス・フェシウム(E. faecium)の2種は、免疫力が落ちた人に院内感染を起こすことがあります。血流感染、心臓の内膜の炎症(心内膜炎)、尿路感染などの原因となり、治療が難しい場合があります。腸球菌は加熱殺菌や塩分、幅広い酸性・アルカリ性の条件にも耐えやすく、加工済みの肉製品の中でも生き残ることが知られています。

研究チームが特に注目したのは、抗生物質バンコマイシンに耐性を持つ腸球菌です。バンコマイシンは、複数の薬が効かない感染症に対する「最後の手段」として使われることの多い薬です。耐性に関わる遺伝子が食品を通じて他の細菌へ広がるおそれもあり、公衆衛生上の懸念とされています。著者らによると、肉製品でのこうした調査は世界各地で行われてきましたが、エジプトでは行われていませんでした。そこで研究チームは、エジプトで人気の調理済み食品であるソーセージとランチョンミート(加工肉のスライス)を対象に、腸球菌の検出状況と薬への耐性の傾向を調べました。あわせて、耐性や病原性に関わる遺伝子があるかどうかも調べています。

どのように調べたか

研究チームは2023年7月から2024年4月にかけて、エジプト・マンスーラ市内の飲食店とスーパーマーケット計25か所から、牛肉ランチョンミートとソーセージサンドイッチを75検体ずつ、合わせて150検体集めました。店舗は小規模な店から大型店まで含み、仕入れ先のメーカーもさまざまでした。

検体は培養液の中で菌を増やしてから、腸球菌に特有の性質を確かめる試験にかけました。さらに、遺伝子を増幅して検出するPCRという方法で、菌の種類を見分けました。病原性に関わる2つの遺伝子についても同じ方法で有無を調べています。1つはタンパク質を分解する酵素ゼラチナーゼの遺伝子(gelE)、もう1つはコラーゲンに結合するタンパク質の遺伝子(ace)です。薬の効き方は、12系統17種類の抗菌薬で調べました。バンコマイシンが効かなかった菌については、代表的な耐性遺伝子であるvanAとvanBの有無も確認しました。

主な結果

150検体すべてから腸球菌が見つかり、得られた菌株は514株でした。内訳はE. faeciumが366株(約71%)、E. faecalisが148株(約29%)です。ただし著者らは、この「100%」は培養で菌を増やす方法を使った結果だと注意しています。少量の菌でも検出されやすくなるため、どの検体にも菌が多く含まれていたことを意味するわけではありません。実際の菌の量を知るには別の測定が必要だとしています。

病原性に関わる遺伝子のうち、gelEは全菌株の95.7%、aceは60.7%で見つかりました。ただし著者らは、遺伝子が見つかったことは、その働きが実際に発揮されていることを示すものではないと述べています。そのため、実際の病原性は遺伝子の検出率から想像されるよりも低い可能性があるとしています。

薬への耐性では、全菌株の62.5%(321株)がバンコマイシンに耐性を示しました。種別ではE. faecalisで68.9%、E. faeciumで59.8%です。耐性を示した321株すべてで、vanAとvanBの少なくとも一方が確認されました。テトラサイクリンへの耐性は全体の94%に見られました。重い感染症の最終手段とされるリネゾリドにも16.5%が耐性でした。一方、ゲンタマイシンに耐性を示したE. faecalisはありませんでした。

3系統以上の抗菌薬に耐性を示す「多剤耐性」の菌は、E. faecalisの91.9%、E. faeciumの79.8%に上りました。さらに、ソーセージサンドイッチから得られたE. faeciumのうち27株は、調べた12系統すべてに耐性を示しました。研究チームは、各菌株が何種類の薬に耐性かを表す指標も計算しています。その結果、97%を超える菌株が、抗菌薬の過剰な使用や不適切な使用を示唆するとされる目安を上回りました。

この研究が示すこと

この研究は、そのまま食べられる加工肉製品から、バンコマイシン耐性遺伝子を持ち、多くの薬が効きにくい腸球菌が高い割合で見つかったことを、エジプトで初めて報告したものです。著者らは、こうした食品が薬剤耐性菌の「たまり場」になりうると指摘しています。そのうえで、食品の生産から流通までの各段階で監視を強めることと、抗菌薬を適切に使うことの必要性を訴えています。

原著論文の著者・所属:Sara Abdelnaby Sallam(Department of Food Hygiene, Safety, and Technology, Faculty of Veterinary Medicine, Mansoura University, Mansoura 35516, Egypt)、Mirela Imre(Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, 300645 Timisoara, Romania)、Samir Mohammed Abd-Elghany(Department of Food Hygiene, Safety, and Technology, Faculty of Veterinary Medicine, Mansoura University, Mansoura 35516, Egypt)、Kálmán Imre(Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, 300645 Timisoara, Romania)、Khalid Ibrahim Sallam(Department of Food Hygiene, Safety, and Technology, Faculty of Veterinary Medicine, Mansoura University, Mansoura 35516, Egypt)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sara Abdelnaby Sallam, Mirela Imre, Samir Mohammed Abd-Elghany, et al. Vancomycin-Resistant, Thermotolerant Enterococcus faecalis and Enterococcus faecium in Ready-to-Eat Beef Luncheon and Sausage. Foods 2026-09-01. DOI: 10.3390/foods15173112. 原著ライセンス:CC BY.