大腸の中では、食物繊維が腸内細菌に発酵されることで「短鎖脂肪酸」と呼ばれる酸がいくつも生まれています。酪酸はその代表格の一つで、酢酸・プロピオン酸などとともに大腸内を酸性に保ち、善玉菌が増えやすい環境をつくるとされています。名前を聞くことはあまりなくても、腸の中で日々働いている成分です。酪酸には日本人の食事摂取基準のような「1日にこれだけ」という数値目標は設定されていません。個別の脂肪酸には基準が定められないものが多いためです。ただ、基準がないからといって食品選びの手がかりにならないわけではありません。実際に成分表を見ると、酪酸が多い食品には共通する顔ぶれがあり、そこには酪酸以外の栄養素も一緒についてきます。

100gあたりで酪酸が多い食品の上位5つは、発酵バター 有塩バター(2900mg)、無発酵バター 食塩不使用バター無発酵バター 有塩バター(ともに2700mgで同率2位)、クリーム 乳脂肪(1400mg)、ホイップクリーム 乳脂肪(1300mg・推定値)という顔ぶれです。上位5品がすべてバターとクリームで並んでいます。ここで気になるのは、酪酸の量だけを見て選んでよいのか、という点です。

上位食品を並べると見えてくるもの

首位の発酵バター 有塩バターは、酪酸2900mgとともに脂質80g、エネルギー713kcalという数値も持っています。乳酸発酵させたクリームから作られる独特の風味を持つバターで、大さじ1杯(約12g)なら脂質はおよそ9.6g程度に収まりますが、100gあたりで見れば脂質の8割が占められている計算になり、量を使うほど脂質の摂取量も比例して増えていくことがわかります。

2位タイの2品はどちらも酪酸2700mgと同程度ですが、中身の突出ポイントは食塩の有無で少し違います。無発酵バター 食塩不使用バターレチノール780µg、飽和脂肪酸52.43g、脂質83gといずれも今回の上位5食品の中で最も高い値を示しています。レチノールは視覚の維持や成長・生殖、皮膚や粘膜の健康に関わるビタミンAの一種です。一方の無発酵バター 有塩バターもレチノール500µgを含み、酪酸の量が同じでもレチノールの量には差があります。食塩を加えて保存性を高めた製品であり、大さじ1杯(約12g)に換算すると、レチノールはおよそ60〜94µg程度が目安になります。

ここまでバターが上位を占めていますが、4位以降はクリーム類に交代します。クリーム 乳脂肪は酪酸1400mgとともに飽和脂肪酸26.28g、レチノール150µgを含みます。バターに比べると酪酸の量は半分近くまで下がりますが、それでも飽和脂肪酸とレチノールは他のクリーム・乳製品と比べて高めの部類です。大さじ1杯(約15.8g)ならレチノールはおよそ24µg程度になります。5位のホイップクリーム 乳脂肪は酪酸1300mg(推定値)で、レチノール340µg、脂質40.7gという数値も持っています。クリームにグラニュー糖を加えて泡立てたもので、糖の内訳を見るとしょ糖9.6gが乳糖2.4gより多く、甘みの主体はしょ糖にあります。大さじ1杯(約15g)ならレチノールはおよそ51µg程度です。

5つの食品を並べてみると、一つの糸が見えてきます。酪酸が多い上位は、バターであれクリームであれ、必ずレチノールか飽和脂肪酸(あるいはその両方)も同じ食品の中で目立って多いという並走関係です。順位を分けているのは酪酸の量ですが、その裏でついてくる顔ぶれはどの食品も似通っています。酪酸だけを追いかけて量を増やすと、意識しないうちにレチノールや飽和脂肪酸の摂取量も一緒に増えていく、という構図です。

数字が示す、選び方のもう一つの軸

レチノールを含むビタミンAには摂取基準に耐容上限量が設定されていますが、ここで示したのは推奨量・目安量に対する量ではなく含有量そのものであり、大さじ1杯程度の一食量であれば通常は心配のいらない範囲です。飽和脂肪酸については、日本人の食事摂取基準において目標量(上限)が成人でエネルギー比7%以下とされており、日常的にたくさん使う食品ではない、という前提を持っておくと安心です。

酪酸そのものに摂取基準がない以上、「酪酸を摂るためにこの食品を選ぶ」という発想はあまり現実的ではありません。むしろ今回の数字が教えてくれるのは、バターやクリームを選ぶときには酪酸という一つの成分だけでなく、同じ食品が一緒に運んでくるレチノールや飽和脂肪酸にも目を向けたほうが、食卓の実態に近い、ということです。大さじ1杯という少量でも脂溶性のビタミンや脂肪酸はしっかり含まれているため、「少量でもまとめて多くは使わない」という程度感覚を持っておくと、次に成分表を見るときの視点が一つ増えるはずです。

※本記事は特定の食品の効果・効能を示すものではありません。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準