著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Metabolites
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
家禽の生産では、飼料の確保や価格変動が持続的な発展を妨げる要因になっています。大豆粕や魚粉などの従来のタンパク質原料は、価格が変動しやすいことに加え、土地の利用や環境への負荷も指摘されています。そこで代わりのタンパク質源として注目されているのが昆虫です。なかでもアメリカミズアブ(ブラックソルジャーフライ)の幼虫は成長が速く、有機廃棄物を効率よく餌に変えられます。タンパク質やアミノ酸のバランスにも優れていると考えられています。
幼虫粉から脂肪を取り除いた「脱脂幼虫粉」は、タンパク質の割合が高くなります。ブロイラーでは研究例がありますが、中国・海南省の在来の高品質鶏である文昌鶏のように成長がゆっくりな品種での知見は限られていました。研究チームは、脱脂幼虫粉を段階的に配合した飼料が、文昌鶏の成長、肉質、抗酸化能力、腸の構造、盲腸の細菌群集にどう影響するかを調べました。
どのように調べたか
実験には、体重のそろった雄の文昌鶏90羽を用いました。60日齢から26日間、3種類の飼料で飼育しています。比較したのは、脱脂幼虫粉を含まない基本飼料と、脱脂幼虫粉を3%または5%含む飼料です。幼虫粉を加えた分は大豆粕を減らし、トウモロコシの量も調整して、栄養基準を満たすように設計しました。各飼料には6つのケージを割り当て、1ケージに5羽を入れています。
試験の終わりに、次の項目を比べました。成長の指標としての体重増加と飼料効率。肉の色、pH、保水性、硬さ。腹部脂肪の割合。血液中の生化学的な値と抗酸化に関わる値。回腸(小腸の後半部分)の組織の形。盲腸内容物に含まれる細菌の遺伝子から推定した細菌の構成。腸の形の評価では、栄養を吸収する突起である「絨毛」の高さと、その根元にあって細胞を作り出すくぼみ「陰窩」の深さを測りました。
主な結果
成長について、体重増加量、飼料摂取量、飼料効率に統計的に意味のある差は見られませんでした。肉のpH、保水性、加熱後の歩留まり、硬さ、色にも有意な差はありませんでした。一方、5%配合の群では腹部脂肪の割合が基本飼料の群より有意に高くなりました。胸肉や脚肉の割合には差がありませんでした。
血液では、抗酸化酵素の一つであるグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)の活性が、3%群と5%群の両方で基本飼料群より高くなりました。脂質が酸化されたときにできる物質で、酸化ダメージの目安とされるマロンジアルデヒド(MDA)は、5%群でほかの2群より低くなりました。総合的な抗酸化能や別の抗酸化酵素(T-SOD)には差がありませんでした。また、血清のクレアチニン値は幼虫粉を加えた2群で低くなりました。
回腸では、3%群と5%群で陰窩が浅くなり、絨毛の高さと陰窩の深さの比が大きくなりました。盲腸の細菌では、全体の多様性を示す指標に有意な差は見られませんでした。ただし、一部の細菌の割合は変わっていました。幼虫粉を含む飼料ではFirmicutes_Aという門の細菌とアッカーマンシア属の割合が高く、バクテロイデス属の割合が低いことが報告されています。5%群では、プロテオバクテリア門とバクテロイデス門の割合も低くなっていました。
研究から分かること
著者らは、3%または5%の脱脂幼虫粉で従来のタンパク質源の一部を置き換えても、今回の条件では文昌鶏の成長や大半の肉質指標に有意な差は生じなかったとまとめています。一方で、血液中の抗酸化関連の値や、回腸の形、盲腸の細菌構成には変化が伴っていました。ただし、5%配合では腹部脂肪が増える結果も出ています。
著者らは結果の読み方にも慎重な姿勢を示しています。腸の形の変化は構造上の反応であり、それだけで腸の健康や栄養吸収が改善したとは言えないとしています。また、細菌構成の変化と抗酸化値などの変化の間に因果関係があるかは、今回の実験からは確かめられないとしています。これらの変化を生んだ仕組みや、幼虫粉のどの成分が関わっているかも未解明です。この研究は、昆虫由来の飼料原料が在来鶏の体にどのような変化をもたらしうるかを、具体的なデータで示した一例といえます。
原著論文の著者・所属:Qingchao Yang(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Ruiying Bao(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Liangmin Huang(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Xingke Wang(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Yang Zhang(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Qingying Cai(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Zeru Peng(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Huiyu Shi(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Haiwen Zhang(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Xiaochun Li(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)、Xuemei Wang(Animal Nutrition and Feed Laboratory, School of Tropical Agriculture and Forestry, Hainan University, Danzhou 571737, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qingchao Yang, Ruiying Bao, Liangmin Huang, et al. Diets Containing Defatted Black Soldier Fly Larvae Meal Improve Intestinal Morphology and Antioxidant Capacity in Wenchang Chickens. Metabolites 2026-10-12. DOI: 10.3390/metabo16100767. 原著ライセンス:CC BY.