この研究は、ヨルダン、カナダの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Dermatology and Skin Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ビタミンDは骨の健康や免疫の働きなどに関わる栄養素です。食事からもとれますが、多くは皮膚が日光の紫外線B(UVB)を浴びることで体内で作られます。著者らによると、ビタミンDの不足は世界で約10億人に及ぶと推定される身近な健康課題です。
不足の要因には、住む地域の緯度、季節、肌の色、年齢、体格などに加え、日光が皮膚に当たりにくくなる生活習慣が挙げられています。研究チームは、宗教・文化・個人的な理由で身に着ける、体の大部分を覆う服装(論文では「modest clothing」)がその一つになり得るかに注目しました。こうした服装は信仰やアイデンティティの表れであり、著者らは本研究の意図を、日光を浴びる機会が少ない人々のビタミンD不足リスクへの認識を高めることであって、宗教的・文化的な慣習を否定したり問題視したりすることではないと明記しています。
研究チームの拠点であるカナダは緯度が高く、エドモントン(北緯約53.5度)などでは11月から2月にかけて皮膚でのビタミンD生成がほとんど期待できません。多様な宗教・文化的背景を持つ人々が暮らすカナダにとって、この問題は公衆衛生上の関心事だと著者らは位置づけています。これまでの個別研究は結果がまちまちだったため、既存の研究を集めて整理し、健康な成人で服装とビタミンDの状態との関連を総合的に評価することが目的とされました。
どのように調べたか
研究チームは、1975年1月から2026年1月までに発表された論文を複数の医学文献データベースで検索しました。対象は18〜65歳の健康な成人で、妊娠中の人、喫煙者、急性・慢性の病気がある人、ビタミンDのサプリメントや代謝に影響する薬を使っている人を含む研究は除外されました。
比較したのは、体や頭を覆う服装の人(「覆っている」群)とそうでない人(「覆っていない」群)の、血液中の25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)の濃度です。これは体内のビタミンDの状態を示す代表的な指標です。
2203件の文献から選別を重ね、最終的に8件の研究(参加者計1043人)が対象となりました。いずれも、ある時点で集団を調べる「横断研究」という観察研究で、介入を割り当てる比較試験は見つかりませんでした。研究はトルコ、レバノン、ギリシャ、シリア、バングラデシュ、チュニジア、イスラエル、アラブ首長国連邦など日差しの多い地域で行われ、参加者の95%が女性でした。覆っている群の定義はどの研究でも、顔・手・足などを除いて全身を覆う服装とおおむね共通していました。
8件のうち、統計的に結果をまとめられるデータがそろった6件について、複数の研究結果を統合して全体の傾向を推定する「メタアナリシス」が行われました。
主な結果
8件中6件の研究では、覆っている群のほうが血中25(OH)D濃度が統計的に有意に低いと報告されていました。残る2件のうち、1件は低い傾向にとどまり、もう1件では差が見られませんでした。
6件を統合した解析では、覆っている群の血中25(OH)D濃度は覆っていない群より平均で12.8 nmol/L低いと推定されました(95%信頼区間はマイナス21.7〜マイナス3.8)。1件ずつ研究を除いて計算し直しても、低い方向であることや統計的な有意性は変わりませんでした。
一方で、研究ごとの結果のばらつきは非常に大きいことも示されました。研究ごとの差はマイナス31.9 nmol/Lからプラス0.5 nmol/Lまで幅があり、今後同様の研究を行った場合に予想される範囲(予測区間)はマイナス35.5〜プラス9.9 nmol/Lと、差がない可能性も含むものでした。
著者らは、研究の質にも課題があったと述べています。品質評価では8件中3件が「良好」、4件が「やや良好」、1件が「不十分」とされました。比較した2群の間で日光に当たる時間や年齢が異なる研究があったこと、血中濃度の測定方法が研究ごとに異なっていたことなども、結果の解釈で注意すべき点として挙げられています。たとえば差が見られなかったバングラデシュの研究では、覆っている群のほうが屋外で過ごす時間が長く、比較対象の群も日光をあまり浴びていなかったと著者らは指摘しています。
研究が示すこと
この研究は、健康な成人において、体の大部分を覆う服装がおおむね血中ビタミンD濃度の低さと関連していることを、既存の観察研究をまとめて示しました。対象はいずれも横断研究であり、示されたのは関連であって、服装だけが原因であると確かめたものではありません。
対象研究の多くは日差しの強い地域で行われていましたが、それでも関連がみられたことから、著者らは、カナダのような高緯度地域では服装が日照不足と重なり合う要因になり得ると考えています。そのうえで、宗教的・文化的な慣習を尊重しながら、ビタミンDに関する教育や、必要に応じたサプリメントの活用といった支援を検討する必要性を提起しています。
著者:Leen Alhuneafat(Division of Dermatology, Department of Medicine, Mu’tah University, Al-Karak 61710, Jordan)、Winnie Bao(Faculty of Medicine and Dentistry, University of Alberta, Edmonton, AB T6G 2R7, Canada)、Eunice Y. Chow(Division of Dermatology, Department of Medicine, University of Alberta, Edmonton, AB T6G 2R3, Canada)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Leen Alhuneafat, Winnie Bao, Eunice Y. Chow. Clothing Practices and Vitamin D Status in Healthy Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. Dermatology and Skin Science 2026-09-15. DOI: 10.53941/dss.2026.100009. 原著ライセンス:CC BY.