著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Stresses
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
アサイー(Euterpe oleracea)とジュサラ(Euterpe edulis)は同じエウテルペ属のヤシで、ブラジルでは経済と環境の両面で重要な植物です。アサイーの果実パルプはブラジル国内で需要が伸びており、アマゾン地域以外でも栽培が広がっています。ジュサラはパルミット(ヤシの新芽)の採取に加え、アサイーとよく似た果実パルプの原料としても関心を集めています。
一方、土壌や水の塩類化は世界的な問題です。論文によると、影響を受けている土地は約11億ヘクタール、地球表面のおよそ7%にのぼり、作物の生産性が下がる主な原因の一つとされています。塩分は植物の水の吸収を妨げ、ナトリウムや塩化物イオンが組織にたまると、光合成を含むさまざまな働きが損なわれます。ヤシ類は塩分に比較的よく耐えるとされますが、その程度は種によって異なります。そこで研究チームは、アサイーとジュサラの若い株が塩分を含む水で育てられたとき、生理的にどう反応するかを調べました。
どのように調べたか
実験は、気温や湿度を積極的には制御しない温室で行われました。両種の苗を鉢に植え、水道水に食塩(塩化ナトリウム)を加えて塩分濃度を5段階に調整した水を与えました。塩分の濃さは水の電気伝導度で表され、食塩を加えない0.1 dS/m(デシジーメンス毎メートル)の水を対照とし、最も濃い段階は5.0 dS/mです。2種と5段階を組み合わせた10通りの条件を、それぞれ4反復で比較しました。
塩分を含む水は合計104日間与えられ、その後、播種から16か月の時点で測定が行われました。調べた主な項目は三つです。一つ目はガス交換で、葉の気孔の開き具合(気孔コンダクタンス)、光合成速度、蒸散速度などを専用の装置で測りました。二つ目はクロロフィル蛍光です。葉の光合成装置のうち光エネルギーを受け取る「光化学系II」がどれだけ効率よく働いているかを、葉が発する微弱な光から推定する方法です。三つ目は葉の緑の濃さを示す指標(SPAD値)と、植物体に含まれるナトリウム、塩化物、フェノール化合物の量です。
主な結果
塩分が濃くなるほど、光化学系IIの効率を示す指標は直線的に低下しました。最大量子収率(Fv/Fm)は対照で0.77と最も高く、5.0 dS/mでは対照より20%低くなりました。別の効率指標(Fv/F0)も最高濃度で33%低下し、反対に効率低下を反映する指標(F0/Fm)は69%増えました。これらは2種を平均した結果で、研究チームは両種ともに塩分ストレスを受けていたことを示すと述べています。
ガス交換でも同様の傾向がみられました。2種の平均で、最も塩分が濃い条件では対照と比べて気孔コンダクタンスが41.33%、光合成速度が48%、蒸散速度が35.48%低下しました。一方、葉の緑の濃さを示すSPAD値は、塩分濃度によっても種によっても有意な差がありませんでした。食塩を加えた水によって植物組織中のナトリウムと塩化物は増えましたが、その量に種間の統計的な差はありませんでした。
種の比較では、塩分条件全体を平均すると、アサイーはジュサラより光合成速度と水利用効率(蒸散で失う水に対してどれだけ光合成できたか)が有意に高く、フェノール化合物の濃度と蓄積量も多くなりました。ただし著者らは、これは種ごとの全体平均の違いであり、塩分に対する反応の大きさが種間で異なることを示すものではないこと、またフェノール化合物の差だけを塩分によって生産が増えた証拠とみなすべきではないことにも注意を促しています。
研究が示すこと
著者らは、塩分によって気孔が閉じ気味になり二酸化炭素が葉に取り込まれにくくなるという「気孔側」の要因と、光化学系IIの働きが損なわれるという「気孔以外」の要因の両方が、光合成の低下に関わっていたと解釈しています。なお、それぞれの要因がどの程度寄与したかは、今回の測定項目からは定量的に切り分けられなかったとしています。また、葉の緑の濃さが保たれていても光化学系IIの働きは低下していたことから、見た目の指標だけでなく生理的な測定を組み合わせて評価することの大切さも指摘しています。
研究チームは結論として、塩分ストレスは若いアサイーとジュサラの生理的な働きを低下させ、より高い光合成速度と水利用効率を示したアサイーのほうがジュサラより塩分ストレスに強かったとまとめています。塩類化が進む環境でこれらのヤシがどう反応するかを、光合成の仕組みの面から具体的に示した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Tâmara Moreira Silva(Center for Agricultural Science and Technologies, Northern Fluminense State University Darcy Ribeiro (UENF), Campos dos Goytacazes 28013-602, RJ, Brazil)、Almy Junior Cordeiro de Carvalho(Center for Agricultural Science and Technologies, Northern Fluminense State University Darcy Ribeiro (UENF), Campos dos Goytacazes 28013-602, RJ, Brazil)、Paulo Cesar dos Santos(Center for Agricultural Sciences and Engineering, Department of Agronomy, Federal University of Espírito Santo (UFES), Alegre Campus, Alegre 29500-000, ES, Brazil)、Marta Simone Mendonça Freitas(Center for Agricultural Science and Technologies, Northern Fluminense State University Darcy Ribeiro (UENF), Campos dos Goytacazes 28013-602, RJ, Brazil)、Rozane Franci de Moraes Tavares(Faculty of Agricultural, Biological and Applied Social Sciences, State University of Mato Grosso (UNEMAT), Nova Xavantina 78690-000, MT, Brazil)、Adrielly de Jesus Canedo(Center for Agricultural Science and Technologies, Northern Fluminense State University Darcy Ribeiro (UENF), Campos dos Goytacazes 28013-602, RJ, Brazil)、Álan Chrisleyr Maracahipes(Faculty of Agricultural, Biological and Applied Social Sciences, State University of Mato Grosso (UNEMAT), Nova Xavantina 78690-000, MT, Brazil)、Alessandro Coutinho Ramos(Laboratory of Environmental Microbiology and Biotechnology, Vila Velha University (UVV), Vila Velha 29102-920, ES, Brazil)、Vinicius de Freitas Manhães(Center for Agricultural Science and Technologies, Northern Fluminense State University Darcy Ribeiro (UENF), Campos dos Goytacazes 28013-602, RJ, Brazil)、Moises Zucoloto(Center for Agricultural Sciences and Engineering, Department of Agronomy, Federal University of Espírito Santo (UFES), Alegre Campus, Alegre 29500-000, ES, Brazil)、Leandro Pin Dalvi(Center for Agricultural Sciences and Engineering, Department of Agronomy, Federal University of Espírito Santo (UFES), Alegre Campus, Alegre 29500-000, ES, Brazil)、Henrique Duarte Vieira(Center for Agricultural Science and Technologies, Northern Fluminense State University Darcy Ribeiro (UENF), Campos dos Goytacazes 28013-602, RJ, Brazil)、Mirian Peixoto Soares da Silva(Agricultural Coordination, Federal Institute of Education, Science and Technology of Tocantins (IFTO), Pedro Afonso Campus, Pedro Afonso 77710-000, TO, Brazil)、Osvaldo Sebastião de Oliveira Filho(Center for Agricultural Science and Technologies, Northern Fluminense State University Darcy Ribeiro (UENF), Campos dos Goytacazes 28013-602, RJ, Brazil)、Marlene Evangelista Vieira(Analysis and Plant Nutrition Laboratory, Amapá State University, Lakes Territory Campus, Amapá 68901-258, AP, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tâmara Moreira Silva, Almy Junior Cordeiro de Carvalho, Paulo Cesar dos Santos, et al. Gas Exchange and Chlorophyll Fluorescence Responses of Açaí and Juçara Palms Under Salt Stress. Stresses 2026-08-03. DOI: 10.3390/stresses6030053. 原著ライセンス:CC BY.