この研究は、ブルガリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Studia Biologica
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
アカクローバー(Trifolium pratense L.)は家畜の飼料として価値が高く、土壌の肥沃度を高める作物でもあります。その理由は、根に共生する根粒菌が空気中の窒素を植物が使える形に変える「共生窒素固定」を行うためです。論文によれば、アカクローバーは生育期間中に1ヘクタールあたり100〜150 kgの大気窒素を固定できるとされる一方、干ばつには弱い作物として知られています。
種子をまく前に窒素固定微生物を付着させる「接種」は、マメ科作物の生産性を高める方法として知られています。さらに近年は、根粒菌に加えて根の周囲に住みつく植物生育促進根圏細菌(PGPR)を組み合わせて同時に接種する「共接種」が広く行われるようになり、乾燥などの非生物的ストレスから植物を守る手立てとして研究されてきました。
著者らは、こうした微生物の組み合わせで接種したアカクローバーが干ばつに遭ったとき、根粒の窒素固定活性、葉の光合成(正味のCO2吸収速度)、そして生産性がどう変化するのかを調べることを目的としました。
どのように調べたか
研究チームは、品種「Tina」のアカクローバーを対象に、5つの接種条件を設けました。無接種、クローバー用の根粒菌 Rhizobium leguminosarum bv. trifolii 348a のみ、そしてこの根粒菌に Azotobacter chroococcum 79、Pseudomonas fluorescens 33、Neorhizobium galegae MC-1 のいずれかを組み合わせた3通りです。N. galegae はガレガ(ヤギノエンドウ)と共生する根粒菌で、多糖類などを多く産生することから環境ストレスに強いと報告されている点に著者らは注目しています。
栽培は屋外の棚に置いたポットで行い、雨が当たらないよう透明フィルムで覆い、自然の光と気温のもとで育てました。本葉8枚の段階で半数のポットの灌水を止め、土壌水分が圃場容水量の40%まで下がったところで1週間その状態を保ち、その後70%の適正水分に戻しました。対照区は終始適正水分で育てています。
測定は、干ばつ開始前(本葉5枚期)、干ばつ終了時(本葉8枚期)、そして灌水回復から7日後(蕾期)の3時点で行われました。窒素固定活性はアセチレン還元法、葉のガス交換はガス分析装置を用いて測定しています。光合成と同時に測定された「光呼吸」は、C3植物で酵素ルビスコが二酸化炭素ではなく酸素と反応することで、いったん固定した炭素の一部がCO2として失われる過程を指します。
報告された主な結果
干ばつは窒素固定活性と葉の正味CO2吸収速度の両方を抑制しましたが、著者らによれば、その影響は光合成よりも窒素固定のほうが強く現れました。また干ばつを受けた植物では葉の光呼吸が有意に高まり、光呼吸と光合成の比は、干ばつが終わった後も対照区より高いままでした。本葉8枚期には対照区で平均0.20、干ばつ区で0.31、蕾期にはそれぞれ0.15と0.22だったと報告されています。
窒素固定活性と光合成速度のあいだには適正水分下で強い相関がみられましたが、干ばつを受けた植物ではこの相関が弱まりました。著者らはこれを、干ばつが窒素固定と光合成の結びつきを乱すことの表れと解釈しています。また全データを通してみると、植物体全体の乾物重との相関は、窒素固定活性(r = 0.71)よりも光合成速度(r = 0.84)のほうが強いという結果でした。なお灌水を適正水分に戻してから7日たっても、窒素固定活性も光合成速度も対照区の水準までは回復しませんでした。
接種の組み合わせによる違いも報告されています。根粒菌 348a に N. galegae MC-1 を加えた区では、他の処理より早い生育段階で窒素固定活性が高まり、本葉8枚期から高い水準を保ちました。これに対し、根粒菌単独の区と A. chroococcum 79 を加えた区が同程度の値に達したのは蕾期になってからでした。干ばつ終了から6週間後の2回目の刈り取りでみた地上部乾物重でも、348a + N. galegae MC-1 の区が最も高く、348a + P. fluorescens 33 の区が最も低い値を示しました。
なお無接種の植物でも測定可能な窒素固定活性がみられましたが、著者らは、培地の砂を滅菌していなかったため土着の根粒菌が自然に定着したことによると説明しています。
この研究が示すもの
著者らは、窒素固定微生物のさまざまな組み合わせによる接種がアカクローバーの生産性を高め、干ばつ下での状態も改善したものの、その程度は組み合わせによって異なると結論づけています。なかでも R. leguminosarum bv. trifolii 348a と N. galegae MC-1 の組み合わせが、適正な水分条件でも干ばつ条件でも最も効果的でした。
この研究は、干ばつが根粒での窒素固定と葉の光合成という2つの過程を異なる強さで、しかも水分が戻った後も尾を引く形で損なうことを、同一の植物で並行して追った点に意味があります。同時に、どの微生物を組み合わせて種子に接種するかによって、そうしたストレス下での振る舞いに差が生じうることを示しています。
著者:D.A. Kiriziy(Institute of Plant Physiology and Genetics of the NAS of Ukraine)、O. Ye. Kominarets(Institute of Plant Physiology and Genetics of the NAS of Ukraine)、S.Yа. Kots(Institute of Plant Physiology and Genetics of the NAS of Ukraine)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):D.A. Kiriziy, O. Ye. Kominarets, S.Yа. Kots. Effects of drought on symbiotic nitrogen fixation, photosynthesis, and productivity of red clover (Trifolium pratense L.) under co-inoculation with rhizobia and plant growth-promoting rhizobacteria. Studia Biologica 2026-09-01. DOI: 10.30970/sbi.2003.892. 原著ライセンス:CC BY.