この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Pakistan Journal of Botany
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
マルス・スペクタビリス(Malus spectabilis、英名 Chinese flowering crab apple)は、中国原産のバラ科の落葉樹で、花や実を観賞でき、果実を食用にもできるリンゴの仲間です。中国・新疆ウイグル自治区北西部のイリ川流域では、観賞価値の高さ、食べられる果実、環境への適応力の強さから広く栽培されています。この地域は日照時間が長く、紫外線が強く、昼夜の気温差が大きいといった特徴があり、論文によると、地元の系統に形や性質の多様性が生まれる背景になっています。
これまでの研究は、観賞面の特徴や見た目の多様性、果実の成分などを個別に調べたものが中心でした。果皮の色、葉の光合成、果実の品質を合わせて調べ、それらの関係を明らかにした研究は、この地域ではほとんど行われていなかったといいます。そこで研究チームは、代表的な5品種を同じ条件で育て、果実や葉の特徴の違いを比べました。あわせて、光合成と果実の品質がどう関連しているかを分析し、用途ごとに適した品種を選び出すことを目指しました。
何をどう調べたか
対象としたのは‘Xifu’‘Gaozhi’‘Wangzhu’‘Hongye’‘Chuisi’の5品種です。2024年、イリ川流域にある大学の園芸試験場で、樹齢約15年の木を品種ごとに3本ずつ選びました。品種による違いを比べやすくするため、すべての木を同じように剪定しました。さらに、1本あたりの果実数を80〜100個、葉と果実の数の比をおよそ20対1にそろえ、水やりや施肥などの管理も統一しました。
果実については、9月上旬の成熟期に採取し、1個の重さ、大きさ、食べられる部分の割合(可食率)を測りました。果皮の色は測色計で数値化しています。明るさ、赤みの強さ、黄色みの強さをそれぞれ数値で表す方式です。果肉の中身としては、糖分、ビタミンC、糖度計で測る果汁中の溶けた成分の割合(可溶性固形分)、酸の量、糖と酸の比率(糖酸比)などを調べました。
葉については、光を吸収する色素であるクロロフィルの量を測りました。また、葉が実際に二酸化炭素を取り込む速さ(純光合成速度)、葉の表面にある小さな穴「気孔」を通じたガスの通りやすさ(気孔コンダクタンス)、葉から水分が出ていく速さ(蒸散速度)も測定しました。最後に、これらの項目の間にどのような関連があるかを統計的に分析しています。
主な結果
調べた項目のほとんどで、品種による統計的に意味のある差が見られました。なお、果実1個あたりの乾物重には有意な差がありませんでした。果皮の色は大きく3つに分かれました。‘Xifu’‘Gaozhi’‘Wangzhu’は赤みが強い濃赤色、‘Hongye’は中間的な淡い赤黄色、‘Chuisi’は最も明るく黄色みが強い一方で赤みが最も弱い明黄色でした。
果実の大きさでは‘Gaozhi’が際立っていました。1個の重さは平均15.38グラムで、ほかの4品種より有意に重く、可食率も95.59%と最も高い値でした。一方、‘Hongye’と‘Chuisi’は果実が小さく、最も軽い‘Chuisi’は平均4.41グラムでした。
果肉の成分では、小さな果実の2品種が目立ちました。‘Hongye’は可溶性固形分(8.24%)と糖酸比が最も高く、‘Chuisi’はビタミンCと糖分が最も多いと報告されています。大きな果実をつける‘Gaozhi’は、これら2品種に比べて糖分とビタミンCが少ない結果でした。
葉では、純光合成速度が最も高かったのはクロロフィルの少ない‘Chuisi’で、次いで‘Gaozhi’でした。反対に、クロロフィルが多い‘Hongye’は光合成速度が最も低くなりました。‘Hongye’は気孔コンダクタンスが極めて低く、著者らはこれを、気孔が閉じ気味で二酸化炭素が葉の内部に入りにくいことが光合成を制限している例だと解釈しています。全体としても、光合成速度は気孔コンダクタンスや蒸散速度と強い正の相関を示しました。
果実の大きさと成分の間には、逆向きの関係が見られました。果実が重い品種ほど糖分やビタミンCが少ない傾向があり、果皮が明るい品種ほど糖分やビタミンCが多い傾向がありました。著者らは、葉で作られる限られた養分を果実がどう受け取るかという配分の兼ね合いと、品種ごとの遺伝的な違いが組み合わさった結果だと考察しています。
これらの結果をもとに、研究チームは5品種を3つの利用タイプに分けました。‘Gaozhi’は大きく可食率の高い果実をもつため、生食や観賞と食用を兼ねた品種改良の素材に向くとしています。‘Hongye’と‘Chuisi’は糖分やビタミンCが多く、果汁や機能性食品の原料向きとされました。‘Xifu’と‘Wangzhu’は安定した赤い果皮とバランスのよい性質をもち、庭や都市緑化での植栽に適するとまとめています。
この研究が示すこと
この研究は、イリ川流域で育つ同じ種の5品種でも、果皮の色、果実の大きさ、果肉の成分、葉の光合成の特徴が品種ごとに大きく異なることを、同じ栽培条件のもとで示しました。大きな果実と豊富な成分は必ずしも両立しないこと、葉の光合成の働きには気孔の状態が深く関わっていることも、品種間の比較から浮かび上がりました。地域の果樹資源を、それぞれの特徴に応じて生食・加工・観賞などに使い分けるための手がかりを示した研究といえます。
著者:Jiaqi Cao(College of Biological Science and Technology , Yili Normal University , Xinjiang Yining 835000 , China)、Maquan Yin、Xiaomeng Han、Haibo Qi、Yujun Wu、Xue Wang、Yuting Zhu、Liping Xu
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiaqi Cao, Maquan Yin, Xiaomeng Han, et al. Photosynthetic and fruit characteristics of five Malus spectabilis varieties from the Vili river valley: implications for horticultural germplasm utilization. Pakistan Journal of Botany 2026-10-02. DOI: 10.30848/pjb2027-2(17). 原著ライセンス:CC BY.