この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられてきた「種」に目を向ける

アサイーは、アマゾン地域に自生するヤシの果実です。濃い紫色の果肉はジュースや冷凍デザート、ゼリーなどに幅広く使われ、医薬品や化粧品の原料にもなっています。ブラジルは世界最大の産地で、パラ州、アマゾナス州、アマパー州が国内生産の大半を占めると論文は述べています。

ところが、著者らによれば、アサイーの果実全体の重さのうち約8割を占めるのは直径2センチほどの大きな種子です。つまり、果肉を取ったあとに大量の種子が農産加工の残り物として生まれます。これまでにも、飼料や有機肥料、機能性食品の開発、有用成分の回収といった用途の可能性が指摘されてきました。

研究チームが着目したのは、この種子を「焙煎する」という工程です。焙煎は加熱によって植物の組織に複雑な変化を起こす処理で、糖とアミノ酸が反応して新たな抗酸化性の物質ができる一方、熱に弱い成分は壊れることもあります。また細胞壁やタンパク質と結びついた成分がほどけて取り出しやすくなる可能性もあります。生の種子についての研究は多いものの、焙煎が成分や抗酸化に関わる性質をどう変えるかについての知見は限られている、と著者らは指摘します。実際にカフェインを含まないコーヒー代替品として焙煎アサイー種子の粉末が市販されているにもかかわらず、栄養組成やフェノール類の内容、ビタミンE関連成分、脂肪酸、熱的なふるまいを体系的に調べた研究はまだないとして、本研究はその空白を埋めることを目的に掲げています。

市販の焙煎種子を粉にして測る

材料には、ブラジル・パラ州アフアーの企業から提供された焙煎済みのアサイー種子が使われました。焙煎は同社の通常の製造手順にしたがい140℃で60分間行われたものです。研究チームはこれをナイフミルで粉砕し、光を通さない袋に入れて低温で保管したうえで、カンピーナス州立大学の研究室で分析しました。

粉末そのものについては、粒子の大きさ、密度、すき間の割合(空隙率)といった物理的な性質と、脂質・炭水化物・たんぱく質・食物繊維・灰分・水分などの一般成分、さらにカルシウムやカリウムをはじめとするミネラルが測定されました。

加えて、粉末から二種類の抽出物が作られています。ひとつはソックスレー抽出法でヘキサンを溶媒として得た油分(油抽出物)、もうひとつは先行研究で最適と定められた条件(94.1℃、固体と溶媒の比10:135.25)で水を使って取り出した水抽出物です。この二つを並べて、総フェノール含量と抗酸化活性を比較しました。抗酸化活性の測定には性質の異なる二つの試験が用いられています。DPPH法は試薬のラジカルを消す力を見る方法で、結果はIC50、すなわち半分を抑えるのに必要な濃度で表されます(数値が小さいほど少量で効く)。FRAP法は鉄イオンを還元する力、つまり電子を渡す能力を測ります。油抽出物についてはさらに、脂肪酸の種類、トコフェロール・トコトリエノールといったビタミンE活性をもつ成分、示差走査熱量測定による融け方と固まり方も調べられました。

なお著者らは、本研究が独立した処理群を設けた比較実験ではなく、商業的に製造された一つの試料を特徴づけるものであるため、一般成分とミネラルについては平均値や標準偏差などの記述統計を用いたと説明しています。

報告された主な結果

粉末の平均粒径は432.55マイクロメートルで、真密度は1.51 g/cm³、空隙率は0.43でした。論文は、焙煎・粉砕・抽出という工程がコーヒーと共通する原理に基づくことから比較の対象としてコーヒー粉末を挙げつつ、焙煎アサイー種子粉末そのものを扱った研究は見当たらず、これは新しい製品を対象とした研究だと位置づけています。

一般成分では、脂質が1.8 g/100 gと少なく、炭水化物が38 g/100 g、食物繊維が48 g/100 g、たんぱく質が5.2 g/100 gで、pHは5.0とやや酸性でした。ミネラルではカリウムが443 mg/100 g、リンが152 mg/100 g、カルシウムが67 mg/100 gと報告されています。銅は1.77 mg/100 gで、著者らは、コーヒー同様に1回10 gを使うと仮定した場合の銅の摂取量は約0.177 mgとなり、米国の機関が定める成人の耐容上限量10 mg/日を大きく下回ると述べる一方、肝臓の疾患がある人や、銅の代謝に関わる遺伝性の病気であるウィルソン病の人は注意すべきだとしています。ナトリウムは加工食品に比べれば少ないものの、多量かつ日常的に飲む場合は一日の摂取量に積み上がりうるとも書かれています。摂取量や頻度の目安については今後の検討が必要だという位置づけです。

抽出物のフェノール含量は、油抽出物が1387.13 mg CAE/g、水抽出物が1272.3 mg CAE/gと、いずれも高い値でした。DPPH法のIC50は水抽出物が227.20 mg/mL、油抽出物が257.82 mg/mLで、水抽出物のほうがやや強い結果となっており、著者らはこれを水抽出物のフェノール量の多さと水に溶けやすい成分の多さと整合する、と説明しています。FRAP法では水抽出物が2365.07、油抽出物が1344.59 μmol FeSO₄/100 gでした。ただし著者らは、他の研究との数値の違いについて、抽出条件や検量線に使う標準物質が異なる(たとえば本研究はカフェ酸、別の研究は没食子酸を基準にしている)ため単純に比べられないと繰り返し注意を促しています。

油抽出物からは、α-トコフェロールと、α・γ・δの三種類のトコトリエノールが検出されました。最も多かったのはα-トコトリエノール(12.17 μg/g)で、次にγ-トコトリエノール(8.83 μg/g)、α-トコフェロール(2.81 μg/g)、δ-トコトリエノール(0.47 μg/g)と続き、四つの間には統計的に有意な差がありました。トコフェロールとトコトリエノールはいずれもビタミンEとして働く一群の物質で、側鎖の構造が異なります。著者らは、生のアサイー種子ではトコフェロールが検出されなかったという先行報告と対照的だとして、焙煎が取り出しやすさに関わっている可能性を挙げています。脂肪酸は主にオレイン酸、リノール酸、ミリスチン酸、パルミチン酸で構成されていました。熱分析では複数の結晶化のピークと30℃付近の融点が観察され、著者らはトリアシルグリセロールの組成が複雑であることを示すものと解釈しています。

この報告が示すこと

研究チームは、焙煎したアサイーの種子を、食物繊維やミネラルに富み、水と油のどちらの抽出物にもフェノール類と抗酸化活性が認められる農産加工副産物として報告しました。果実の重量の大半を占め、これまで北部ブラジルの市場や加工の現場で廃棄されることの多かった部分に、測定可能な栄養的・機能的な性質があることを一つの試料について具体的な数値として示した、という位置づけになります。

同時に論文は、対象が商業生産された単一の試料であることや、他の研究と数値を直接比べられない理由、種や産地・加工条件の違いが組成の差に関わりうることを明示しています。焙煎の条件をそろえて管理することの重要性にも触れられています。廃棄物として扱われてきた素材を、成分の面からあらためて記述し直す作業の出発点として読める報告です。

著者:Renata da Silva Magalhães(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)、Gabriel Sthefano Lourenço Pereira(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)、Sara Fraga(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)、Patrícia Tonon de Souza(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)、Dhayna Oliveira Sobral(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)、Marcelo Antônio Morgano(Food Science and Quality Center (CCQA) Institute of Food Technology (ITAL) Campinas São Paulo Brazil)、António J. A. Meirelles(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)、Guilherme J. Máximo(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)、Eduardo Augusto Caldas Batista(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)、Klicia Araújo Sampaio(Laboratory of Extraction, Applied Thermodynamics and Equilibrium (EXTRAE), Department of Food Engineering and Technology, School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP) Campinas São Paulo Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Renata da Silva Magalhães, Gabriel Sthefano Lourenço Pereira, Sara Fraga, et al. Characterization of Powdered Roasted Açaí Seeds ( Euterpe oleracea Mart.): Impact on Bioactive Compounds and Nutritional Potential. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72353. 原著ライセンス:CC BY.