著者の所属・活動拠点の国は、イラン、オーストラリアです。

掲載誌:Toxicology Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

川や湖に入り込んだ金属などの元素は、水や底泥にとどまり、そこに暮らす生き物の体に少しずつたまることがあります。魚はたんぱく質や脂肪酸、微量栄養素を含む大切な食料です。一方で周囲の環境から元素を取り込むため、それを食べる人がその元素を摂取することにもつながります。こうした元素は、研究では「潜在的に有害な元素」と呼ばれています。

研究チームが対象にしたのは、イラン北部、カスピ海南西岸にあるアンザリ湿地です。ラムサール条約に登録された重要な淡水湿地ですが、流域には都市、工場、水田が広がっています。そのため、生活排水や工場排水、農地からの流出水が流れ込む可能性があります。著者らによると、この湿地の魚について、アルミニウム、バリウム、銅、鉄、ニッケル、亜鉛の6元素が食べる部位と食べない部位にどう分布しているかは、まだ十分に分かっていませんでした。魚の筋肉を食べたときの摂取量を年齢層ごとに見積もった研究も限られていました。特にアルミニウムとバリウムは、カドミウムや水銀、鉛に比べて調べられた例が少ない元素です。

そこで研究チームは、魚の種類と体の部位によって元素のたまり方がどう違うかを調べました。あわせて、食用部分である筋肉を食べた場合に、子ども、思春期の若者、成人がそれぞれどの程度摂取することになるかを試算し、健康への影響を大まかに判定しました。

何をどのように調べたか

調べた魚は、地元で食べられている商業的に重要な4種です。肉食性のノーザンパイク(カワカマスの一種)、コイ、ヴィンバと呼ばれるコイ科の魚、テンチです。2024年の漁期中に、許可を受けた漁業者が湿地内の複数の漁場で捕獲しました。性別や大きさによるばらつきを抑えるため、成熟した雌だけを選び、全長25〜30センチ、体重250〜350グラムの個体にそろえています。各種12匹ずつ、合計48匹です。

1種あたり12匹を、4匹ずつ3つのグループに分けました。各グループの4匹から筋肉、えら、内臓、卵をそれぞれ取り出し、同じ部位どうしを等しい重さずつ集めて均一に混ぜました。こうして、1グループにつき部位ごとに1つずつ、計4つの分析試料を作っています。1種あたりでは4部位×3グループで12試料、全体では48試料になります。試料は酸で分解し、微量の元素を高い感度で測定できる誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)という方法で6元素の濃度を測りました。統計解析には、生のままの重さあたりの濃度を使っています。同じグループの魚から得た4部位の試料は互いに独立ではありません。そのため、この関係を考慮した解析を行いました。

食事による摂取量の試算には、筋肉の濃度だけを使いました。卵は地元でどれくらい食べられているかの情報がないため、試算から除いています。アンザリ湿地周辺の住民の魚の摂取量データもなかったため、既存の暴露評価の参考値を採用しました。体重1キロあたりの1日の魚の摂取量は、子ども(6〜12歳)、思春期(13〜19歳)、成人(20〜49歳)でそれぞれ定めています。推定した1日摂取量を、元素ごとに定められた「長く摂り続けても健康への悪影響が生じにくいとされる目安量」で割った値を、危険度指数(THQ)と呼びます。この値が1以下であれば、その仮定のもとでは発がん以外の悪影響は生じにくいと判断されます。

主な結果

6元素はすべての試料で検出され、濃度は魚の種類と部位によって異なっていました。部位をまとめて種ごとに比べると、ノーザンパイクはアルミニウム、鉄、ニッケル、亜鉛の中央値が最も高くなりました。ヴィンバはバリウムと銅の中央値が最も高くなっています。ただし、アルミニウム、バリウム、銅、鉄、亜鉛の5元素では、どの部位に多くたまるかという傾向そのものが、魚の種類によって異なることが統計的に示されました。このため、著者らは種や部位を単純にまとめた比較を参考程度にとどめています。

違いが最も目立ったのはバリウムです。ヴィンバのえらで、全データの中で最も高い濃度(1グラムあたり168.41マイクログラム)が見られ、ほかの3種のえらより有意に高い値でした。一方、コイでは卵のバリウム濃度が高く、ほかの種の卵より有意に高い値でした。鉄は、ノーザンパイクのえらと卵で、ほかの種の同じ部位より有意に高くなりました。亜鉛はノーザンパイクの内臓やコイのえらで高い値を示しています。ニッケルは種による違いが認められましたが、部位による違いは統計的に支持されませんでした。元素どうしの関係も探索的に調べられ、アルミニウムと鉄の間などに強い相関が見られました。ただし著者らは、これを共通の汚染源や因果関係の証拠とはみなしていません。

筋肉を食べた場合の推定摂取量は、どの元素とどの魚でも、子どもが最も高く、思春期、成人の順に低くなりました。体重あたりで計算すると、子どもは摂取量が多くなるためです。それでも、すべての元素、魚種、年齢層で、推定摂取量は目安量を下回りました。最も目安量に近かったのは、子どもがテンチを食べた場合の銅で、目安量の約22%でした。危険度指数もすべての組み合わせで1を下回り、最大値はこの組み合わせの0.216でした。なお、ニッケルは化学的な形態を区別して測定していないため、発がんリスクを数値化していません。

この研究が示すこと

この研究から、アンザリ湿地の魚では、元素がどの部位にどれだけたまるかが魚の種類によって大きく異なることが分かりました。食べる部分の筋肉だけを調べても、魚全体の蓄積の様子はつかみきれないことも示されています。一方、筋肉を食べることによる6元素の摂取量は、採用した仮定のもとでは、子どもを含むすべての年齢層で、発がん以外の健康影響の目安を下回ると試算されました。

ただし著者らは、この結果を住民の実際の健康リスクを直接示すものではなく、外部の摂取量データにもとづく大まかな判定(スクリーニング)と位置づけています。また、流域の都市や工場、農地は汚染の経路になりうるものの、水や底泥などを同時に調べていないため、魚に含まれる元素の発生源とは特定していません。

原著論文の著者・所属:Fatemeh Salehi(Department of Environmental Science and Engineering, Arak University, Arak, 384817758, Iran)、Saeed Sharafi(Department of Environmental Science and Engineering, Arak University, Arak, 384817758, Iran)、Ali Kazemi(Department of Environmental Science and Engineering, Arak University, Arak, 384817758, Iran)、Milad Esmaeilbeigi(Centre for Applied Water Science, Institute for Applied Ecology, University of Canberra, Canberra, ACT, Australia)、Moein Rahmati(Department of Environmental Science and Engineering, Arak University, Arak, 384817758, Iran)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fatemeh Salehi, Saeed Sharafi, Ali Kazemi, et al. Multi-tissue accumulation of potentially toxic elements and age-stratified non-carcinogenic dietary risk in fish from the Anzali Wetland, Caspian Basin. Toxicology Reports 2026-10-13. DOI: 10.1016/j.toxrep.2026.102355. 原著ライセンス:CC BY.