この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Letters in Applied NanoBioScience

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

インドネシアには「ジャムー」と呼ばれる伝統的な薬草飲料があります。ウコン類やショウガ、タマリンドなどの植物を組み合わせて作られ、世代を越えて口伝や文書で受け継がれてきた生活文化の一部です。研究チームは、このジャムーが持つとされる抗炎症の働きについて、これまでに発表された科学論文を集めて整理することを目的としました。

著者らが扱ったのは、ジャムーの歴史と考え方、製造工程、栄養成分と生体に働きかける成分(生物活性成分)、報告されている健康面での作用と臨床試験、そして想定される危険性や課題です。炎症とは、けがや感染などの刺激に対して体が示す防御反応のことで、損傷した組織を修復する役割を担うものだと論文は説明しています。

どのように調べたか

この論文は新たに実験を行ったものではなく、既存の文献を質的に評価する「レビュー」です。研究チームはPubMed、Scopus、ScienceDirect、Google Scholarといった学術データベースを対象に、2000年から2025年までに発表された文献を検索しました。検索語には「ジャムー」「インドネシアの伝統医療」「抗炎症」「薬草療法」などを組み合わせ、さらにウコン(Curcuma longa)、ショウガ(Zingiber officinale)、タマリンド(Tamarindus indica)、ケンクール(Kaempferia galanga)、センシンレン(Andrographis paniculata)といった個別の植物名も用いたと報告しています。

採用したのは査読済みの学術論文、学位論文、民族植物学の調査、そして試験管内・動物・臨床のいずれかで抗炎症作用を測った研究です。一方、科学的な根拠を示さない情報源や意見記事、方法の記述が不十分なもの、抗炎症の仕組みと直接関係しないものは除外しました。集めた情報は材料ごとに分類して主題別にまとめ、前臨床研究はARRIVEガイドライン、臨床研究はCONSORT基準に照らして評価したとしています。

報告された主な内容

著者らは、ジャムーに含まれる生体に働きかける成分として、クルクミノイド(ウコンの色素成分)やキサントリゾール、フェノール類、フラボノイド、アルカロイドなどを挙げています。これらが抗炎症、免疫の調節、抗うつ、抗がんといった作用を持つ可能性があると、既存の報告に基づいて紹介しています。たとえばウコンにはクルクミンとその類縁成分、ショウガにはジンゲロールやショウガオール、ジャワウコン(Curcuma xanthorrhiza)にはキサントリゾールとクルクミノイドが主成分として含まれると整理されています。

引用された研究の例として、キサントリゾールが脂肪組織の炎症に関わる遺伝子の働きを抑え、腫瘍壊死因子(TNF-α)という炎症を伝える物質の産生を妨げたという報告、また全身性エリテマトーデスとビタミンD不足を併せ持つ患者で血中のIL-6が下がりTGF-βが上がったという報告が挙げられています。糖尿病のラットに白ウコンの粉末4.5グラムを1か月与えた研究では、インスリンと抗酸化酵素SODが増え、血糖値とIL-6、IL-8、TNF-αが下がったとされています。なお、これらはいずれも原著が引用した個別研究の結果です。

製造の工程についても整理されています。原料は皮をむいて流水で洗い、湯や蒸気で短時間加熱する「ブランチング」を行ったうえで、つぶしたりすりおろしたりして成分を取り出します。研究チームは、ブランチングが酵素の働きを止めることで有効成分の分解を防ぎ、微生物の汚染も減らすと説明しています。乾燥の際に黒い布をかぶせる方法は、日光の強さを調節して紫外線の当たりすぎを防ぐ役割があるとしています。

同時に著者らは限界も明確に挙げています。ジャムーは地域や作り手によって処方や分量が大きく異なり、標準化されていません。原料の品質も土壌や収穫時期、収穫後の扱いで変わります。小規模生産者への規制の執行が弱く、衛生基準を満たさない製品や、効き目を強く見せるために医薬品成分を混ぜた製品が流通する危険もあると指摘しています。さらに、設計のしっかりした臨床試験や毒性評価、体内での吸収や代謝を調べる研究が不足しているため、伝承に基づく主張を裏づける科学的な根拠はまだ限られているとしています。

この整理が示すこと

この論文は、ジャムーという文化的な営みと、現代の生物医学が蓄積してきた知見とを突き合わせて並べたものです。研究チームは、ジャムーに含まれるクルクミノイドやキサントリゾールが抗炎症の作用を示してきたと結論づける一方で、標準化の欠如、規制の課題、臨床的な根拠の不足を同じ重さで示しています。

長く受け継がれてきた知恵のどこまでが科学的に説明され、どこがまだ確かめられていないのか。その境界をはっきりさせること自体が、伝統を理解するうえでの一つの作業であることを、このレビューは示しています。

著者:Dwiyati Pujimulyani(Department of Agroindustry Faculty, University of Mercu Buana Yogyakarta, Jl. Wates km 10, Bantul, Special Region of Yogyakarta, Indonesia)、Chatarina Lilis Suryani(Department of Agroindustry Faculty, University of Mercu Buana Yogyakarta, Jl. Wates km 10, Bantul, Special Region of Yogyakarta, Indonesia)、Bayu Kanetro(Department of Agroindustry Faculty, University of Mercu Buana Yogyakarta, Jl. Wates km 10, Bantul, Special Region of Yogyakarta, Indonesia)、Umi Purwandari(Department of Food Science, University of Trunojoyo, Jl. Raya Telang, Bangkalan, East Java, Indonesia)、Nurhayati(Department of Agroindustrial Technology Faculty, University of Jember, Jl. Kalimantan km 37 Kampus Tegalboto, Jember, East Java, Indonesia)、Sulkhan Windrayahya(Department of Food Technology, Indonesia International Institute for Life-Sciences (i3L), Jl. Pulomas Barat, Kayu Putih, Pulo Gadung, East Jakarta, Special Capital Region of Jakarta, Indonesia)、Emi Windrayani(Department of Food Science, Gadjah Mada University)、Raden Haryo Bimo Setiarto(Research Center for Applied Microbiology, National Research and Innovation Agency (BRIN), Jl. Raya Jakarta-Bogor km 46, Cibinong, Bogor, West Java, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dwiyati Pujimulyani, Chatarina Lilis Suryani, Bayu Kanetro, et al. The Potential of Jamu Traditional Herbal Drink from Indonesia as Anti-Inflammatory: A Review. Letters in Applied NanoBioScience 2026-09-30. DOI: 10.33263/lianbs153.089. 原著ライセンス:CC BY.