著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Acta Innovations

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ関係者の全体像を描こうとしたのか

インドネシアでは、数頭規模で肉牛を飼う小規模農家が多くいます。こうした農家の課題は、資金、飼料、販売、技術など複数の面にまたがっています。著者らは、課題が絡み合っている以上、農家だけでなく周囲の関係者全体を見渡す必要があると考えました。

論文によれば、肉牛飼育には多くの関係者がいて、役割や利害、影響力がそれぞれ異なります。しかし関係者どうしの連携は十分でないことが多く、農家は流通や意思決定の中で弱い立場に置かれがちだといいます。また、これまでの研究の多くは生産技術や経済面を個別に扱っており、関係者の相互作用と経済的な制約を一つの枠組みでまとめて分析した研究は限られていました。

そこで研究チームは、西ジャワ州のスメダン県を念頭に、小規模肉牛飼育に関わる関係者を整理し、農家が直面する経済的な制約を明らかにすることを目指しました。

「五重らせん」の枠組みで32件の研究を分析

分析の土台には「クインタプル・ヘリックス(五重らせん)」と呼ばれる考え方が使われました。これは、大学などの学術界、行政、産業界、市民社会の四者に、五つ目として自然環境を加え、これらの相互作用から発展や革新が生まれるとみる枠組みです。著者らによると、この枠組みは技術革新や持続可能な発展の分野では広く使われてきましたが、小規模肉牛飼育への応用はほとんどありませんでした。

研究の手法は、新たな現地調査ではなく、既存の研究を決められた手順で集めて評価する「系統的文献レビュー」です。研究チームは、論文の選び方を透明に報告するための国際的な指針(PRISMA)に沿って文献を検索し、最初に見つかった746件から条件を満たす32件を選び出しました。対象は、インドネシアをはじめアジア、アフリカ、中南米などの途上国で、おおむね1〜10頭を飼う小規模農家に関する研究です。

論文では、各研究の質を点数で評価した結果、18件が高品質、12件が中程度、2件が低品質と判定されたと報告しています。一方で、約7割の研究が、女性も大きな役割を担うにもかかわらず男女の違いを十分に分析していなかったことも指摘されています。

関係者は五つの集団、課題は互いに連鎖

研究チームは、関係者を五つの集団に整理しました。知識と技術革新を担う学術界、政策や基盤整備を担う行政、流通や金融を担う産業界、農家や協同組合からなる市民社会、そして飼料・水・土地を提供する自然環境です。ただし、これらの集団の連携はしばしば調整不足で、事業や政策の重複、意思疎通の不足が生じていると報告されています。

経済的な制約としては、資金不足、飼料費の高さと変動、販売先へのアクセスの弱さが中心に挙げられました。資金面では、担保の不足や手続きの煩雑さ、高い金利のため正式な金融機関を利用しにくく、より負担の大きい非公式な借り入れに頼りがちだとされています。飼料は生産費の60〜70%を占める最大の費用で、乾期には飼料費が40〜50%上がるという報告もありました。

販売面では、仲買人への依存や価格交渉力の弱さ、市場情報の不足が指摘され、農家が受け取るのは最終小売価格の40〜60%にとどまることが多いと紹介されています。さらに、生産性の低さ、道路や保管施設などの基盤の不足、人工授精などの技術がなかなか普及しないこと、価格の変動も課題として挙げられました。著者らは、これらの制約が互いに関連し合い、抜け出しにくい悪循環を生んでいると述べています。

関係者を整理する方法としては、影響力と関心の高さで関係者を分類する手法が最も多く使われ、住民参加型の話し合いや、人と人のつながりを網の目として分析する手法も用いられていました。

この研究が示すこと

分析した文献の中にスメダン県を直接扱った研究はありませんでしたが、著者らは、インドネシア国内の研究と飼育構造や制度の面で共通点が多いことから、結果を同県に当てはめて提言をまとめました。具体的には、行政が中心となって関係者が集まる調整の場を設けること、農家グループや協同組合の強化、小規模農家向けの少額融資、農業残さを飼料に活用する仕組み、加工業者などとの連携による販路の改善などが挙げられています。

この研究は、小規模肉牛飼育の課題が生産技術やお金の問題だけでは説明しきれず、学術界、行政、産業界、農家、自然環境の関わり合いとして捉える必要があることを示しています。そして農家を、政策の対象としてだけでなく、他の関係者とともに解決策をつくる主体として位置づけ直す視点を提示しています。

原著論文の著者・所属:Muhammad Yusuf(Padjadjaran University, Indonesia)、Mansyur(Padjadjaran University, Indonesia)、Andre Rivianda Daud(Padjadjaran University, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Yusuf, Mansyur, Andre Rivianda Daud. MAPPING STAKEHOLDERS IN SMALL-SCALE CATTLE FARMING: A QUINTUPLE HELIX PERSPECTIVE IN SUMEDANG REGENCY, INDONESIA. Acta Innovations 2026-08-05. DOI: 10.62441/actainnovations.v62i.584. 原著ライセンス:CC BY.