この研究は、ベトナム、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Cancer

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

大腸がんはベトナムで4番目に多いがんであり、2022年には18,835件の新規症例が報告されています。著者らによれば、大腸がんの多くは「腺腫」と呼ばれる良性のポリープから長い時間をかけて進行する経路をたどるため、腺腫は大腸がんの重要な前段階と位置づけられています。とくに、サイズや組織の性状から悪性化のリスクが高いと判断される「進行腺腫」が注目されます。

論文によれば、ベトナムでは全国規模の大腸がん検診プログラムや対象集団向けの早期発見の指針がまだ整備されていません。また、生活習慣と腺腫の関連については、東南アジアを含む低・中所得国での研究が少なく、危険因子の実態が地域によって異なる可能性があります。そこで研究チームは、ベトナムの成人を対象に、どのような生活習慣が大腸腺腫と関連しているのかを検討しました。

何を調べたか

研究はハノイの6つの地区で行われた大腸がん・ポリープ研究プログラムの一部として実施されました。40歳以上の住民に便中の血液を調べる検査キットを配布し、80,330人分の検体が解析対象となりました。陽性となった人のうち大腸内視鏡検査を受けて腺腫と診断された人が症例群となり、最終的に847人が研究に参加しました。対照群には検査が陰性だった人の中から、性別・年齢(5歳以内)・居住地区を一致させた人が選ばれ、845組の組み合わせがつくられました。

生活習慣は訓練を受けた面接員による聞き取りで調べられました。77項目の食品と12項目の飲料についての摂取頻度、飲酒量、喫煙の状況、身体活動、身長・体重や腹囲、そして本人と家族の病歴などです。飲酒量はWHOの定義に基づき、エタノール10gを1標準ドリンクとして数え、週14ドリンクを超える場合をベトナムの全国調査の基準で「有害な水準」としました。面接では飲み物の量を示す写真を使って量の見積もりを助けています。

解析には3つの手法が使われました。組み合わせをつくった研究デザインに合わせた条件付きロジスティック回帰を主たる方法とし、生活習慣から腺腫にいたる経路を探る構造方程式モデリング、さらに結果の頑健さを確かめるための感度分析として傾向スコアマッチングを併用しています。なお著者らは、これら3手法のいずれも、測定されていない要因による交絡を取り除けないという共通の限界があると述べています。

主な報告結果

主たる解析では、腺腫がある人は、飲まない人と比べて週14ドリンクを超える飲酒者でオッズ比1.59(95%信頼区間1.13〜2.23)、吸ったことがない人と比べて現在喫煙している人で1.88(1.28〜2.76)と報告されました。また、検診より前に大腸ポリープが見つかった経験のある人は7.02(4.02〜12.27)、兄弟姉妹に大腸がんの既往がある人は3.33(1.23〜9.03)でした。

腺腫の種類で分けると、過去のポリープの既往は進行腺腫と非進行腺腫の両方に関連していましたが、現在の喫煙と多量の飲酒は進行腺腫とは関連し、非進行腺腫とは統計的に明確な関連が示されませんでした。進行腺腫に限った解析では、多量の飲酒が2.33(1.36〜4.00)、現在の喫煙が2.21(1.24〜3.97)でした。

構造方程式モデリングと傾向スコアマッチングも、多量の飲酒・現在の喫煙・ポリープの既往が進行腺腫と関連するという結果をおおむね裏づけました。傾向スコアマッチングでは加えて、肉の摂取が多い群と進行腺腫との間に関連の可能性が示されましたが、これは主たる解析では見られませんでした。

飲み物については、コーヒー・紅茶・果汁を中心とする飲用パターンが腺腫の少なさと関連していました(オッズ比0.88、0.79〜0.98)。ただしこの関連は傾向スコアマッチングでは確認されていません。

構造方程式モデリングでは年齢と性別も腺腫と関連しており、年齢は進行腺腫とのより強い関連を示しました。男性であることは非進行腺腫と負の関連を示し、進行腺腫との正の関連は統計的な有意水準には達しませんでした。著者らはこれを、男性では進行した病変が見つかりやすい一方で非進行腺腫としては現れにくい可能性を示すものと述べ、進行の速さや発見のされ方、生物学的な経路の違いを反映しているかもしれず、さらなる検討が必要だとしています。

飲酒については、週14ドリンク以下の群や過去に飲んでいた人では明確な関連が見られませんでした。ただし著者らは、摂取量の少ない群の症例数が限られていたため、1〜7ドリンクなどより細かい区分に分けて量と関連の対応を調べることができなかったと限界を挙げています。

この研究が伝えること

3つの異なる解析手法を通じて一貫して浮かび上がったのは、現在の喫煙、多量の飲酒、そして過去にポリープが見つかった経験という3つの要因でした。前の2つは本人が変えられる生活習慣であり、後の1つは変えられないものの、誰に注意を向けるべきかを判断する手がかりになります。

著者らは、これらの結果がベトナムにおける生活習慣に着目した予防の取り組みと、リスクの大きさに応じて経過観察の濃淡をつける大腸がんの見守りを支持するものだと結論づけています。全国的な検診体制が整っていない状況では、危険因子への対応と認識の広がりが特に重要になります。

著者:Chi Thi-Du Tran(College of Health Sciences VinUniversity Hanoi Vietnam)、Tuan T. Nguyen(College of Health Sciences VinUniversity Hanoi Vietnam)、Mo Thi Tran(College of Health Sciences VinUniversity Hanoi Vietnam)、Huong Thi-Thu Pham(College of Health Sciences VinUniversity Hanoi Vietnam)、Hung Nguyen Luu(Dr. Mary and Ron Neal Cancer Center Houston Methodist Research Institute Houston Texas USA)、Xiao‐Ou Shu(Division of Epidemiology, Department of Medicine, Vanderbilt Epidemiology Center and Vanderbilt‐Ingram Cancer Center Vanderbilt University School of Medicine Nashville Tennessee USA)、Linh Cu Le(College of Health Sciences VinUniversity Hanoi Vietnam)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chi Thi-Du Tran, Tuan T. Nguyen, Mo Thi Tran, et al. Lifestyle Factors Associated With Colorectal Adenomas: Results From a Vietnamese Case–Control Study. International Journal of Cancer 2026-09-24. DOI: 10.1002/ijc.70751. 原著ライセンス:CC BY.