大腸がんは世界的に患者数が多いがんの一つで、2020年には世界で193万件以上が新たに診断され、全がんの9.4%を占めたとされます。中国国内でも患者数の増加が見込まれており、南部に位置する湖南省では大腸がんの罹患率が10万人あたり年間23.91人とされ、罹患率・死亡率ともに省内でがんの中で上位に入り、増加傾向にあると報告されています。今回紹介する研究は、この湖南省で暮らす人々を対象に、食習慣や運動、睡眠、教育歴といった要因が大腸がんの発症とどう関連しているかを調べたものです。
どのように調べたのか
研究チームは2020年7月30日から2021年10月27日にかけて、大腸がんと新たに診断された患者203人を組み入れ、情報が不十分だった9人を除く194人を対象としました。それぞれの患者に対して、性別と年齢(±2歳)が一致する家族を対照として1対1で組み合わせる「症例対照研究」というデザインが採られています。さらに教育水準や居住地、職業についてもできるだけ近い条件でそろえるよう配慮されました。最終的に年齢の条件を満たさなかった4組を除き、190組・380人分のデータが解析されています。対照群を患者の家族から選んだのは、暮らす環境の違いによる影響をできるだけ抑えるためだと説明されています。
参加者には食習慣・飲水習慣・運動・睡眠パターン・喫煙や飲酒などについて、スマートフォンや紙の質問票で回答してもらいました。食習慣については「肉を中心とした食事」「植物性食品を中心とした食事」「どちらも同程度にとる、いわゆるバランス食」の3つに参加者自身が分類する形で尋ねられています。運動については「毎日」「週1回以上」「時々」「なし」の頻度に加え、ウォーキングや走る運動、ヨガ、水泳など具体的な種目も聞かれました。
研究で見えてきたこと
患者群は平均年齢58歳(18〜85歳)で、男性がやや多く(54.7%)、農村部在住者が都市部より多い集団でした。単純な集計の段階では、教育水準・飲水習慣(冷水を飲むかどうか)・炭酸飲料や機能性飲料の摂取・運動習慣などで患者群と対照群の間に差が見られましたが、その後、年齢や性別の影響を調整した多変量解析(条件付きロジスティック回帰分析)によって、より確からしい関連が検討されています。
その結果、小学校卒業以下の教育水準の人は、大学卒業以上の人に比べて大腸がんになりやすい傾向が見られました(オッズ比5.693、95%信頼区間0.789〜41.076、P=.085)。植物性食品を中心とした食事と比べると、バランス食のほうが大腸がんのリスクがやや高い傾向も示されました(オッズ比1.726、95%信頼区間0.980〜3.040、P=.059)。炭酸飲料を飲む習慣がある人は、飲まない人に比べてリスクが1.542倍という結果でした(95%信頼区間0.989〜2.405、P=.056)。一方で、ウォーキングの習慣がある人は、ない人に比べて明確にリスクが低いという結果が得られています(オッズ比0.533、95%信頼区間0.392〜0.725、P<.001)。これらはいずれも統計学的な「有意水準」のごく境界線上にある数値もあり、著者らも解釈には慎重さが必要だと述べています。
なお、喫煙や飲酒、体格指数(BMI)については、この研究では大腸がんリスクとの明確な関連は確認されませんでした。BMIについては、患者群のデータが大腸がん診断後に集められたため、がんそのものや治療による体重減少が影響した可能性があると考察されています。
考察部分では、湖南省の食文化として塩漬けや燻製にした肉(腊肉など)の摂取が多いことに触れ、こうした保存肉に含まれるN-ニトロソ化合物や多環芳香族炭化水素などの物質が大腸粘膜のDNAを傷つける可能性、高塩分がしょうかん・大腸の粘膜を傷めやすくする可能性が一般的なメカニズムとして紹介されています。ただし今回の研究では「肉を中心とした食事」という大まかな分類では有意な関連が見られておらず、著者らはこの食文化圏では患者群・対照群の双方で保存肉の摂取が広く行われているためにコントラストが薄れた可能性や、唐辛子などの香辛料に抗酸化・抗炎症作用がある可能性、長期の食習慣が腸内細菌叢に影響している可能性などを挙げ、より詳細な調査が必要だとしています。
この研究を読むうえでの注意点
著者らはいくつかの限界を挙げています。まず、対照群を患者の家族から選んだ設計は、生活環境をそろえられる利点がある一方で、家族間では食習慣や生活習慣も似通いやすいため、環境要因の影響を過小評価している可能性があるとされています。また食習慣の分類は参加者自身の大まかな自己申告に基づいており、記憶違いによる誤分類が生じやすい方法である点も指摘されています。さらに運動については頻度や種目は尋ねられたものの、1回あたりの時間や強度までは把握できておらず、総消費エネルギー量を用いた詳細な分析はできなかったとされています。加えて、今回の解析は探索的な位置づけであり、複数の比較を行った際に通常行われる補正(多重検定補正)は実施されていない点も著者らが明記しています。大腸がんの発症は多くの要因が複雑に絡み合った結果であるとされ、今回の結果だけで特定の食品や習慣の効果を結論づけられるものではありません。
まとめ
この症例対照研究では、教育水準が高いこと、植物性食品を中心とした食生活、ウォーキングの習慣があることが大腸がんリスクの低さと関連し、炭酸飲料を飲む習慣がリスクの高さと関連する傾向が示されたと報告されています。ただし著者ら自身が述べているように、これは一つの地域・一つの研究デザインによる結果であり、因果関係を証明するものではありません。今後さらに詳しい調査によって、これらの関連の背景にある仕組みが明らかにされることが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yanfang Qiu, Feng Yi, Rui Zhong, et al. A case-control study of dietary patterns and lifestyle factors affecting colorectal cancer in Hunan province, South China. メディシン (2026). DOI: 10.1097/md.0000000000050091. 原著ライセンス: cc-by.