「農薬を使った野菜は体に悪いのでは」「加工食品の保存料はがんの原因になるのでは」——こうした不安は世界各地で共有されていますが、実際のところ研究はどこまで明らかにしているのでしょうか。今回紹介するのは、インドを舞台に、農業で使われる化学農薬と食品の保存料が、がんとどのように関係しうるかを既存の研究知見をもとに整理した総説論文です。著者はDr. Ajit V. Pandya氏で、ワールド・ジャーナル・オブ・ファーマシューティカル・リサーチ誌に2026年9月に掲載予定です。

背景にあるのは、インド社会の食をめぐる大きな変化です。1960年代以降の「緑の革命」によって農業の集約化が進み、化学農薬の使用が広がりました。同時に、都市化や伝統的な食品の商業化が進み、パッケージ食品や加工食品を口にする機会が増えたことで、食品添加物や保存料への曝露も増加してきたと論文は指摘しています。この論文は、こうした環境要因・食生活要因とがんとの関係を、インドという文脈に即して見直そうとするものです。

農薬とがんの関係について分かっていること

論文では、職業上または環境中で農薬にさらされることが、血液のがん(白血病など)、呼吸器のがん、その他複数のがんと関連する可能性を示す証拠があると述べられています。ただし著者は、農薬がインド国内のがん全体の主な原因であると結論づけるべきではない、と慎重な立場を明確にしています。

具体的な物質名として挙げられているのは、グリホサート、マラチオン、ジアジノンです。これらは国際がん研究機関(IARC)によって「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類されている農薬とされています。もっとも論文は、こうした発がん性の分類はあくまでハザード(潜在的な有害性)の分類であり、曝露したら必ずがんになるという意味ではない、という点をあわせて強調しています。

加工食品の保存料についての指摘

保存料についても、論文は一律に「危険」とはせず、慎重な解釈が必要だとしています。インドでは一定の条件・使用量の範囲内で合法的に使用が認められている保存料も多くあります。一方で、加工肉に使われる亜硝酸塩・硝酸塩は、体内でN-ニトロソ化合物という物質の生成に関与しうるとされ、加工肉そのものはIARCによって「ヒトに対して発がん性がある」に分類されている食品カテゴリーであると紹介されています。とくに大腸がんとの関連を示す証拠が根拠として挙げられています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この論文は新たな実験データを示したものではなく、既存の研究知見を集めて整理した総説(レビュー)です。そのため、農薬や保存料への曝露とがんの関係について「こういう傾向がある」という既知の知見をまとめ、インドの状況にあてはめて論じたものであり、この論文単独で因果関係が証明されたわけではありません。また著者自身が繰り返し述べているとおり、農薬や保存料への曝露があること自体が、直ちにがんの原因であることを意味するわけではない点には注意が必要です。論文は、不必要な曝露を減らすこと、食品の監視体制を強化すること、農業の実践方法を改善すること、そして新鮮で加工度の低い伝統的な食生活を見直すことが、がん予防に役立ちうると結論づけていますが、これも将来の対策の方向性としての提言であり、断定的な効果を主張するものではありません。

まとめ

今回の総説は、インドにおける農業の変化と食生活の変化を背景に、農薬と食品保存料ががんとどのように関係しうるかを、既存の知見に基づいて整理したものです。グリホサートなど一部の農薬や加工肉中の亜硝酸塩・硝酸塩に関する国際機関の分類が紹介される一方で、こうした分類がただちに「摂取すればがんになる」ことを意味するものではないという注意も繰り返し述べられています。食と健康の関係を考えるうえで、こうした一つ一つの研究知見を過度に単純化せず、全体像の一部として捉える視点が大切だといえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:*Dr. Ajit V. Pandya. ORGANIC PESTICIDES, TOXIC PRESERVATIVES AND CANCER RISK IN INDIAN POPULATION WITH SUGGESTIONS TO REDUCE THE RISK: A REVIEW ARTICLE. ワールド・ジャーナル・オブ・ファーマシューティカル・リサーチ (2026). DOI: 10.5281/zenodo.22267114. 原著ライセンス: cc-by.