この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

食事の内容は、生活習慣病やがんによる死亡に関わる要因のうち、変えられるものの代表として知られています。一方で栄養学の研究は「何をどれだけ食べたか」とその健康への影響に集中しがちで、その手前にある個人の能力——食に関する情報を手に入れ、理解し、判断し、実際の行動に移す力——には比較的注意が向けられてきませんでした。

著者らが注目したのは「健康リテラシー」です。これは健康に関する情報を入手し、理解し、信頼できるかどうかを見極め、健康上の判断に活かす力を指す概念で、近年は健康の社会的決定要因の一つとして位置づけられています。食事に当てはめれば、栄養表示を読み比べる、食材を選んで買う、献立を立てる、健康的な料理をつくる自信を持つ、といった作業がここに含まれます。しかも健康リテラシーは、性別や年齢と違って教育や表示の工夫、医療現場での伝え方によって変えられる可能性があるため、働きかけの対象として魅力的だと論文は述べています。

健康リテラシーと食生活の関連そのものは、すでに多くの地域で報告されています。そこで研究チームは、関連の存在を示すことではなく、韓国という場でそれを具体的に描き出すことを目的に据えました。韓国ではこれまで、全国を代表する妥当性の確認された健康リテラシーの指標と、公式の食事の質の指標を結びつけた分析が行われていませんでした。加えて、食事のどの部分が関連を生んでいるのか、性別や年齢、所得によって関連の強さが変わるのかも、人口レベルではほとんど調べられていませんでした。

どのように調べたか

用いたのは2024年の国民健康栄養調査(KNHANES)です。これは韓国疾病管理庁が毎年実施している全国調査で、施設に入所していない国民を多段の抽出方法で選んでいます。19歳以上の回答者6033人から出発し、24時間食事思い出し調査を終えていない人などを除いて、5353人(88.7%)が主な分析の対象となりました。

健康リテラシーは、2023年の調査から導入された10項目の「地域社会のための健康リテラシー指標」で測定されました。情報をどれだけ得やすいか、意味を理解できるか、信頼できるか判断できるか、判断に活かせるかを4段階で答え、合計10点から40点で表されます。点数が同じ人が多く、特に30点に回答者の28%が集まっていたため、著者らは同点の人が別の区分に分かれないよう、28点・30点・32点を境目とする4つの区分を設けました。同時に、区分の切り方に結果が左右されないよう、1点あたり・標準偏差あたりの連続量としても、韓国の「健康プラン2030」で使われる公式の二分指標(30点以上を十分とする)としても分析しています。

食事の質は、韓国の食生活指針にどれだけ沿っているかを0〜100点で採点する公式指標「韓国健康食生活指数(KHEI)」で評価しました。朝食、雑穀、果物、野菜、肉魚卵豆類、乳製品などの「十分に摂るべき」8項目、飽和脂肪酸・ナトリウム・菓子飲料由来エネルギーの「控えるべき」3項目、炭水化物と脂質の比率および総エネルギー量の「バランス」3項目からなります。研究チームは自分で採点し直さず、疾病管理庁が算出して公開している値を用いました。ただし1人につき1日分の思い出し調査しかないため、この指数は習慣的な食事ではなく、報告された1日の食事から推定した食事の質であると論文は明記しています。

分析では、まず何も調整しないモデル、性・年齢・学歴・所得・婚姻状況・就業状況を加えたモデル、さらに喫煙・飲酒・運動・慢性疾患・単身世帯を加えたモデルを順に当てはめました。年齢の働きを切り分けるため、年齢だけを調整したモデルも別に用意しています。著者らは、韓国では年齢が健康リテラシーと食事の質に逆方向に関係しているため、調整前から完全調整までの移り変わりをあえて並べて示し、交絡の構造が見える形にしたと説明しています。

報告された主な結果

何も調整しない段階では、一見すると逆の結果が出ました。健康リテラシーが最も低い区分の人は、最も高い区分の人より食事の質がむしろ高く(差は+1.41点、95%信頼区間0.37〜2.44)見えたのです。ところが年齢を調整しただけで推定値は符号が逆転し、−2.76点(95%信頼区間−3.72〜−1.79)となりました。社会人口学的要因を加えたモデルでは−2.10点、行動と健康状態まで加えた完全調整モデルでは−1.70点(95%信頼区間−2.66〜−0.75)で、方向は変わりませんでした。

この逆転の背景は年齢です。最も低い区分の人は最も高い区分の人より平均で11.5歳年上(55.0歳対43.5歳)でした。年齢が上がるほど健康リテラシーの平均点は下がり(19〜39歳で31.9点、40〜64歳で31.0点、65歳以上で28.5点)、一方で食事の質の平均点は上がっていました(同じ順に51.7点、59.6点、67.0点)。ある要因が原因側と結果側に逆向きに結びついていると、調整によって見かけの関連が縮んだり消えたり、向きが反転したりすることがあり、これは「反転のパラドックス」として知られています。著者らは、年齢の勾配がこの反転を起こすほど強かったと述べています。

連続量として扱うと、健康リテラシーは食事の質と正の関連を示しました(1点あたり+0.15点、標準偏差1つあたり+0.77点、いずれも統計的に有意)。食事の質が下位3分の1に入る確率も、最も低い区分の人は最も高い区分の人より高く(オッズ比1.37、95%信頼区間1.09〜1.72)なっていました。公式の二分指標を使った場合も同じ方向の結果が得られ、抑うつ症状や総エネルギー摂取量を追加調整しても、推定値はほとんど変わりませんでした。欠測に対処する多重代入法による分析でも、結果は元の推定とほぼ同じでした。

食事のどの項目が関連を生んでいるかについては、研究チームはあらかじめ「果物と野菜の項目に集中するだろう」という仮説を立てていました。実際、最も差が大きかったのは生鮮果物(各項目の満点に対して−4.6%)、果物合計(−3.7%)、キムチを除く野菜(−3.3%)で、補正前の検定で有意だったのはこの3項目だけでした。しかし14項目をまとめて検定する際の見かけの有意差を抑える補正を施すと、有意な項目は残りませんでした。差は14項目のうち12項目で負の方向を向いており、著者らは仮説は確認されなかったとし、項目ごとの傾向は仮説を生むための材料にとどまると位置づけています。関連が男性でより明確だった点(男性−2.74点、女性−0.75点)についても、複数の要因を補正なしに検討した探索的な結果として扱っています。

この報告が示すもの

論文が強調しているのは、関連の大きさそのものは小さいということです。最も低い区分と最も高い区分の差は100点満点で約1.7点、標準偏差では−0.13にあたり、個人の水準では気づかれない程度でしょう。ただし小さな差が人口の大きな部分に当てはまれば、集団全体では無視できない量になり得るという議論もあります。著者らは、これはあくまで妥当性についての議論であり、本研究は病気の発生も介入の効果も測っておらず、健康リテラシーを高めれば食事の質が上がることを示せるわけではないと明言しています。

もう一つの読みどころは、分析の手続きそのものです。調整前の結果だけを報告していれば、「健康リテラシーが低い人のほうが食事の質が良い」という誤った結論に至っていたはずだと著者らは述べています。断面調査における年齢は、世代、学歴、経済状況、食文化、健康行動を同時に映す指標でもあるため、年齢を調整した推定値が唯一正しい値だと主張するつもりはない、とも書き添えられています。調整前から完全調整までの道筋を並べて示すことで、どの要因がどれだけ結果を左右したのかを読み手が確かめられるようにする——この姿勢自体が、一つの結果として提示されています。

限界も率直に挙げられています。健康リテラシーと食事の質を同時に測る断面調査であるため、どちらが先かは判断できません。健康上の課題を抱えている人が情報を探しつつ健康的に食べている、あるいは食事が良いことがさらに情報探索を促す、といった逆向きの経路も考えられます。食事は1日分の思い出し調査に基づくため日々のばらつきが含まれ、健康リテラシーも自己申告です。欠測による除外は健康リテラシーの低い層でやや多く、社会経済的に最も厳しい状況にある人々への当てはまりには限りがあると述べられています。

著者:Hyunjoo Joo(Department of Preventive Medicine, College of Medicine, Dankook University, Cheonan 31116, Republic of Korea)、Jonghyuk Choi(Department of Preventive Medicine, College of Medicine, Dankook University, Cheonan 31116, Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hyunjoo Joo, Jonghyuk Choi. Lower Health Literacy Is Associated with Poorer Diet Quality in Korean Adults: An Association Masked by Age. Nutrients 2026-09-20. DOI: 10.3390/nu18183082. 原著ライセンス:CC BY.