著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:International Journal of Economics Business and Innovation Research

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

インドネシアでは、学齢期の子どもなどを対象に、栄養のある食事を無償で提供する「無償栄養給食プログラム(Makan Bergizi Gratis)」が実施されています。このプログラムでは、食事の調理と配送を担う「栄養充足サービス拠点(SPPG)」が各地に置かれています。大量の食事を扱う給食では、栄養が足りているかだけでなく、食事が安全で、受け取った人が食べやすい状態を保てているかも重要になります。

研究チームが対象としたのは、ジャカルタ東部にある拠点「SPPG Cipinang Muara 1」です。この拠点は2025年3月10日に稼働を始め、ジャティネガラ地区の複数の教育機関や地域の受給者に向けて、1日あたり3,392人分の食事を提供しています。著者らは、規模が大きい拠点ほど、食材の質や作業手順、調理時間、配送状況のわずかなばらつきが多くの食事に影響しうると指摘しています。

研究の目的は、この拠点で食品の品質と安全を高めるための運営上の戦略をまとめることです。そのために、著者らは四つの問いを立てました。現在どのように品質と安全が管理されているか、実際の運営で何が品質と安全に影響しているか、衛生や食品管理の基準がどう適用されているか、そしてどのような改善策が現場の条件に合っているか、という問いです。

どのように調べたか

研究は、一つの現場を深く掘り下げる質的な事例研究として行われました。変数どうしの関係を統計的に検証するのではなく、実際の作業の様子や課題、関係者の経験を理解することを目的としています。

話を聞いた相手は10人です。拠点の責任者、栄養士、調理担当者、配送担当者がそれぞれ1人ずつ、さらに異なる受け取り場所の受給者5人が加わりました。運営、技術、現場作業、配送、食べる側という異なる立場の見方を比べられるよう、業務に直接かかわる人が意図的に選ばれています。

著者らは、厨房の衛生状態や調理・保管・配送の様子を直接観察し、あらかじめ用意した質問をもとに柔軟に話を深める形式の聞き取りを行いました。さらに、写真や作業記録、標準作業手順書などの資料も集めています。異なる情報源の内容を突き合わせる「トライアンギュレーション(三角測量)」と呼ばれる手法を使い、聞き取りで語られた内容が観察や記録と一致するかを確かめています。

主な結果

論文によると、この拠点では食品管理がおおむね体系的に行われていました。献立と食材の計画を立て、納入された食材を点検し、基準に合わないものは受け取りを拒否したり、業者に対応を求めたりしています。調理では生の食材と加熱済みの食品を分けて扱い、調理の時間と温度を管理しています。保管には、先に入荷したものから使う「先入れ先出し(FIFO)」と、期限が早いものから使う「FEFO」の考え方が取り入れられていました。手順書は食材の受け入れから基準外の事態への対応までを対象としており、作業前の手洗いや、マスク・帽子・手袋・エプロンの着用も定着していると報告されています。

また、食品製造の衛生管理の基本である「適正製造規範(GMP)」や、工程のなかで特に危害が生じやすい段階を重点的に管理する「HACCP(危害分析重要管理点)」の考え方も、保管場所の整理や、食材の洗浄、加熱温度の管理、包装前の冷却といった形で取り入れられていました。配送の移動時間はおよそ10〜30分で、配送全体を1時間以内に収めることを目標としています。受給者はおおむね、食事をおいしく、栄養があり、安全だと受け止めていました。

一方で、課題も見つかりました。最も多くの立場から共通して挙がったのは、業者から届く食材の質のばらつきです。虫のついた野菜や傷んだ果物、質の悪い米などが例として挙がっていました。次に、大量の食事を限られた時間で作る忙しさのなかで、二次汚染(食材や器具を介して汚れや菌が広がること)を防ぐ手順への理解が作業者によって異なり、継続的な監督が必要だとされました。さらに、交通渋滞や道路の損傷、受け取り側の準備状況、必要な食数の急な変更などが配送に影響していました。受給者からも、米が硬いときがある、においがして新鮮さに欠けると感じたことがある、献立に変化がほしいといった声が出ていました。

これらの結果を踏まえて、著者らは改善策を四つの柱にまとめています。業者の定期的な評価と、基準外の食材の受け取り拒否による仕入れの管理、朝礼や継続的な研修を通じた作業者の力量の向上、車両や配送スケジュールの調整による配送の改善、そして出荷前の鮮度確認と受給者の声を生かした最終的な品質の確保です。論文はさらにこれを、仕入れから受給者の声までをつなぐ五つの管理の柱として整理しています。

この研究が示すこと

著者らが強調しているのは、給食の品質と安全は厨房のなかだけで決まるものではないという点です。食材の調達から調理、保管、人材、配送、そして食事が受給者に届いた時点の状態までが一続きの流れとしてつながっており、この流れ全体を一体として管理する必要があると論文は結論づけています。手順書があるかどうかだけでなく、各工程で手順が実際に守られているかを確かめることが重要だという指摘も示されています。

なお、この研究は一つの拠点を対象にした質的な事例研究であり、すべての拠点に当てはまることを統計的に示したものではありません。また、微生物の検査なども行っておらず、安全面の評価は観察や関係者の証言、資料に基づいています。こうした前提のもとで、この研究は、大規模な給食現場において、うまく機能している管理を維持しながら、繰り返し現れる弱点に注意を向けることの大切さを具体的に示しています。

原著論文の著者・所属:Thomias Loro Afoan(Master’s Program in Management, Faculty of Economics, Institut Bisnis dan Multimedia ASMI, Jakarta, Indonesia)、Ratnawati Prayogi(Lecture Master’s Program in Management, Faculty of Economics, Institut Bisnis dan Multimedia ASMI, Jakarta, Indonesia)、Audrey G. Tangkudung(Lecture Master’s Program in Management, Faculty of Economics, Institut Bisnis dan Multimedia ASMI, Jakarta, Indonesia)、Marisi Pakpahan(Lecture Master’s Program in Management, Faculty of Economics, Institut Bisnis dan Multimedia ASMI, Jakarta, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Thomias Loro Afoan, Ratnawati Prayogi, Audrey G. Tangkudung, Marisi Pakpahan Strategy of the Nutrition Fulfillment Service Unit in Improving Food Quality and Safety in the Free Nutritious Meal Program: A Case Study at SPPG Cipinang Muara 1. International Journal of Economics Business and Innovation Research 2026-09-07. DOI: 10.63922/ijebir.v5i05.6435. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。