著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Medical Research Archives

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

アルファガル症候群(AGS)は、「アルファガル」(ガラクトース-α-1,3-ガラクトース)という糖に対するアレルギーです。アレルギー反応に関わる抗体であるIgEがこの糖に反応することで起こります。アルファガルは霊長類以外の哺乳類の体に含まれますが、ヒト、鳥類、魚類には存在しません。著者らによると、この症候群が疑われる例は過去10年でおよそ100倍に増えており、患者の多い米国の州では成人の24%からアルファガルに対するIgEが検出されています。

アルファガルに反応する体質になること(感作)の原因として、最も裏付けがあり研究が進んでいるのはマダニの刺咬です。ただし、ヒトでの根拠は観察研究にとどまると著者らは述べています。また、アルファガルは食品だけでなく、一部のワクチンに使われるウシやブタ由来のゼラチンや、ワクチン製造の過程で残る哺乳類由来の材料にも含まれます。

本論文は既存の研究を整理した総説です。著者らは、感作された人の危険因子を整理すること、ワクチン由来のアルファガルが直接の感作や、免疫の下地づくりとその後のマダニ刺咬による増強を通じて感作に関わりうるかを検討すること、予防・症状管理・脱感作の候補となる方法を評価することを目的としています。

アルファガルにさらされる経路とマダニの役割

著者らによると、食事でアルファガルを多く含むのは牛肉・豚肉・羊肉などの赤身肉、内臓肉、ラードなどの哺乳類の脂肪です。乳製品(牛乳、バター、チーズ、ホエイ)やゼラチンにも含まれ、ゼラチンを通じてグミ、マシュマロ、薬のカプセルといった加工品にも入っています。

また論文は、米国の子どもの90%以上が定期予防接種でアルファガルを含むゼラチンを受けており、その量は就学前までの累計でおよそ54mgだと報告しています。注射による投与は、口から摂取した物質に体が過剰に反応しないようにする仕組み(経口免疫寛容)を経ないため、アレルギー性の感作を促しうると著者らは述べています。これらを踏まえ著者らは、最初のマダニ刺咬より前に、口からも注射からも、ほぼ誰もがアルファガルにさらされていると整理しています。

マダニについては、2種のマダニ(Amblyomma americanumとIxodes scapularis)の唾液腺や分泌小胞でアルファガルが確認されています。アルファガルを持たないマウスでは、マダニの唾液腺抽出物だけで感作された状態が生じ、皮膚へのマダニの接触が特定の免疫経路を介してIgEの産生を促すことも報告されています。一方で著者らは、この説明は不完全だと指摘します。ヒトでの根拠は観察研究であり、吸血中のマダニが注入するアルファガルの量は測定されたことがありません。また、米国では毎年数千万人がマダニに刺されますが、感作されるのはごく一部です。誰が感作されるかを決める体質や他の要因はほぼ分かっておらず、注射による接触が関わるとすればこの説明できていない部分においてだと著者らは位置づけています。

ワクチンとの関係について著者らが示した内容

著者らは、すでに感作された人で反応を引き起こす(誘発する)リスクは確立していると述べています。ゼラチンを含む麻疹・おたふくかぜ・風疹(MMR)ワクチン、水痘ワクチン、帯状疱疹の生ワクチンは、AGS患者の好塩基球(アレルギー反応に関わる血液細胞)を活性化させました。アルファガルを含む注射用の生物学的製剤やゼラチン入りの医療製品でも、感作された人にアナフィラキシー(急激で重いアレルギー反応)が起きることがあります。論文では、ゼラチン入りワクチンに反応した患者が、注射されたゼラチン約2mgという少量でも反応した例が紹介されています。MMRワクチン1回分には約14.5mgのゼラチンが含まれるとしています。

一方、ワクチンが新たな感作の原因になるかどうかについて、著者らは2つの経路を仮説として提案しています。両者は互いに排他的ではありません。1つ目は、アルファガルを含むゼラチン入りワクチンを、免疫を強める補助剤のある条件で繰り返し注射することで、アルファガルに対するIgEが直接作られやすくなるという経路です。2つ目は、ワクチン接種によって、もともと存在するアルファガルを記憶する免疫細胞が増えたり性質が変わったりした後に、マダニ刺咬が強い刺激とともにアルファガルを届けて反応を押し上げ、症状が出るほどのIgE量に達するという経路です。

根拠の一つとして著者らが挙げるのが日本の事例です。アルミニウムを補助剤として含み、ゼラチンも含む三種混合ワクチン(DTaP)は、ゼラチンに対するIgEの新たな出現や、その後のゼラチン入り生ワクチンへの反応と関連していました。生命に関わるアナフィラキシーを起こした子ども44人中41人がゼラチンに対するIgEを持っていました。影響を受けた子ども54人には、ゼラチンを含まないDTaPを受けた子が一人もいなかった一方、比較対象の子ども101人では29%がゼラチンを含まないDTaPを受けていました。ゼラチンが除かれた後、反応は減少しました。このIgEはウシ・マウス・カンガルーのゼラチンには反応しましたが、魚のゼラチンには反応しませんでした。著者らは、このパターンが種を超えて共通するコラーゲンの部分よりも、哺乳類にだけ存在するアルファガルの分布によく一致すると述べています。直接の測定でも、アルファガルはウシのゼラチンで検出され、魚のゼラチンでは検出されませんでした。

さらに、アルファガルを持たないマウスでは、たんぱく質と結合させたアルファガルをワクチン用のアルミニウム補助剤とともに注射すると、アルファガルに対するIgEとアナフィラキシーが生じました。この結果には、投与経路、結合させるたんぱく質、補助剤のいずれもが必要でした。

ただし著者らは、重要な未解明点も明記しています。感作を起こす最小量はどの生物種でも確立していません。ワクチンに残る哺乳類由来成分のアルファガル量も測定されていません。マダニが注入する量も分かっていません。このため、ワクチンが直接感作を起こすという経路は「ありうるが証明されていない」と評価し、2つ目の経路のほうが、マダニへの累積的な接触と関係する強い地域差や年齢差をよりよく説明できるとしています。さらに、9割以上の子どもがゼラチン入りワクチンを受けているため、通常の疫学研究では本当に接種を受けていない比較群を設定しにくく、集団全体に及ぶ影響があっても構造的に検出できない可能性があると著者らは指摘しています。

対処法の現状とこの研究の意味

対処の基本は、原因となる食品や製品を避けることだと著者らは述べています。AGSで最も研究されている薬は、2024年にIgEによる食物アレルギーへの使用が承認されたオマリズマブです。最大規模の報告では、患者58人中50人(86%)が、反応が減った、または軽くなったと報告しました。一方で著者らは、この薬が注射で投与され、期限を定めず続ける必要があること、アナフィラキシーに関する重大な警告が付いていること、アルファガルを付加することがある細胞で製造されていること、食べても反応しない状態(耐性)を取り戻すものではないことも指摘しています。

そのため著者らは、補助的な方法として2つを正式に評価すべきだとしています。1つは、ケルセチン、ルテオリン、アピゲニン、松樹皮抽出物、バターバーを組み合わせて毎日内服し、アレルギー反応に関わる細胞の働きや炎症に関わる物質の産生を抑えることを狙う方法です。もう1つは耳への鍼治療です。耳への鍼治療については、対照群のない過去の記録を振り返った報告で、追跡できた126人中121人(96%)が症状の寛解を報告し、以前にアナフィラキシーを起こした29人中27人(93.1%)も含まれていました。有害事象は報告されていません。ただし、これらの方法はいずれも、AGSを対象とした無作為化比較試験では検証されていません。

著者らは結論として、食事を通じたアルファガルへの接触は生涯にわたり、ほぼ誰にでも起きていると述べています。ゼラチン入りワクチンが感作された人に反応を誘発しうることは確立しており、AGSと分かっている人には注意が必要だとしています。一方、ワクチン由来のアルファガルが感作そのものに関わるかどうかは証明されていません。著者らは、接種前後のアルファガルに対する抗体の測定や、ワクチンとマダニ唾液に含まれるアルファガル量の直接測定によって、この問いに答えられる可能性があるとしています。本論文は、現在ほぼ回避だけで対処されているこの病気について、確立していることと未証明の仮説を区別しながら整理し、直接確かめるべき課題を示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Nicolas Hulscher(McCullough Foundation)、James A. Thorp(The Wellness Company)、Drew Pinsky(The Wellness Company)、Peter Gillooly(The Wellness Company)、Harvey Risch(Yale School of Public Health, The Wellness Company)、Peter A. McCullough(McCullough Foundation, The Wellness Company)、Kelly Victory(The Wellness Company)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nicolas Hulscher, James A. Thorp, Drew Pinsky, et al. Risk Factors, Pathogenesis, and Management of Alpha-Gal Syndrome. Medical Research Archives 2026-09-19. DOI: 10.18103/mra.2026.0638. 原著ライセンス:CC BY.