著者の所属・活動拠点の国は、ナイジェリアです。

掲載誌:International Journal of Science for Global Sustainability

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ妊娠中の鉄欠乏性貧血を取り上げたのか

貧血とは、赤血球の数や、酸素を運ぶたんぱく質であるヘモグロビンの濃度が下がり、体の組織へ十分に酸素を届けにくくなる状態です。そのうち、体内の鉄が不足して起こるものを鉄欠乏性貧血と呼びます。著者らによると、鉄欠乏性貧血は妊娠中の貧血のおよそ半数を占めます。特に資源の限られた地域で、多くの妊婦が影響を受けています。

論文が引用する世界保健機関(WHO)の推計では、2019年に15〜49歳の妊婦の約37%(3200万人)が貧血でした。負担はアフリカ地域と東南アジア地域で大きいとされます。妊娠中の貧血は、ヘモグロビン濃度が11.0 g/dL未満の場合と定義されています。

本論文は新たな調査や実験を行った研究ではありません。既存の文献を集めて整理した総説です。研究チームは、鉄の代謝、妊娠中に必要な鉄の量、地域ごとの広がり、食事のパターン、鉄の状態を左右する要因、診断、影響、予防策に関する報告をまとめました。

妊娠で増える鉄の需要と、食事による吸収の違い

著者らは、妊娠期間全体で約1 gの鉄が必要になるという報告を紹介しています。この鉄は、母体の血液量の増加、胎児の成長、胎盤の発達に使われます。妊娠初期は月経が止まるため、必要量は妊娠前より少なくなります。一方、妊娠中期から後期にかけては、母体で赤血球をつくる働きが高まり、胎児も急速に育つため、鉄の需要が大きく増えるとされます。

食事から取る鉄には二つの種類があります。肉・鶏肉・魚介類など動物性食品に多い「ヘム鉄」は、約25〜30%が吸収されます。穀物・豆類・野菜など植物性食品に多い「非ヘム鉄」は、吸収率が3〜5%程度にとどまるとされます。

吸収を助ける成分としては、柑橘類や緑の葉野菜などに含まれるビタミンCが挙げられています。反対に吸収を妨げる成分として、穀物や豆類のフィチン酸、お茶やコーヒーのタンニン、乳製品のカルシウム、野菜のシュウ酸、卵黄のリン酸塩が挙げられています。著者らは、でんぷん質の主食が中心で食事の多様性に乏しい場合、吸収されやすい鉄が不足しうると指摘しています。

報告されている危険因子と影響

著者らが紹介した研究では、地域によって有病率が大きく異なります。ガーナの妊婦では鉄欠乏性貧血の有病率が81.0%と報告されました。ナイジェリアの推計は25〜46%でした。同国ザムファラ州の病院で妊婦健診を受けた妊婦を対象にした研究では、52%と報告されています。

危険因子として整理されたのは、食料不安、貧困、食事の多様性の乏しさ、感染症、出血、食事の制限です。感染症にはマラリアや腸内寄生虫などが含まれます。中国の研究では、35歳以上であること、3回以上の流産・中絶歴、濃いお茶やコーヒーの摂取が危険因子として挙げられました。アフリカの一部地域では、妊娠中に特定の食品を避ける習慣も記録されています。たとえば、肉や落花生を口にしない地域もあります。

妊娠中の鉄欠乏性貧血は、母親の健康障害、産後の大量出血、早産、低出生体重、胎児の発育への悪影響と関連していると報告されています。ここで示されているのは関連であり、著者らは既存研究の知見としてまとめています。

予防に向けて示された方向性

著者らは、鉄欠乏性貧血を減らすには一つの対策だけでは足りないと述べています。必要なのは、複数の取り組みを組み合わせることです。具体的には、栄養教育、さまざまな食品群を取り入れる食事の多様化、地元で手に入る鉄の豊富な食品の活用、適切な鉄剤の補給、主食や調味料などへの鉄の添加(食品強化)、妊婦健診での栄養支援の強化が挙げられています。専門家の合意形成研究では、地域の貧血の多さにかかわらず、妊婦への予防的な鉄補給が推奨されたことも紹介されています。

この総説が伝えているのは、妊娠中の鉄不足が鉄の摂取量だけの問題ではないという点です。何をどう組み合わせて食べるか、経済状況、感染症など、さまざまな要因が絡み合っています。そのため著者らは、食事と保健サービスの両面から支える視点が重要であることを、既存の知見から示しています。

著者:Sanusi Bello Mada(Federal University Gusau, Nigeria)、Ahmad Balarabe Hamza(Federal University Gusau, Nigeria)、Bilya Bashir(Zamfara State University, Talata-Mafara, Nigeria)、Kabiru Usman(Federal University Gusau, Nigeria)、Abdulwahid Abdullahi Naibi(Federal University Gusau, Nigeria)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sanusi Bello Mada, Ahmad Balarabe Hamza, Bilya Bashir, et al. Iron-Deficiency Anaemia in Pregnancy: Dietary Patterns, Risk Factors and Preventive Strategies—A Review. International Journal of Science for Global Sustainability 2026-10-06. DOI: 10.57233/ijsgs.v12i3.1161. 原著ライセンス:CC BY.