著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Cureus
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:目立たないアレルゲンとしてのマスタード
米国では子どもの食物アレルギーが増えており、著者らによれば、子どもの約7.6%が何らかの食物アレルギーを持つと推定されています。研究や啓発の多くはピーナッツ、牛乳、卵、木の実、甲殻類といった代表的なアレルゲンに向けられており、それ以外の食品は比較的注目されにくい状況にあります。
マスタードはその一つです。調味料やソース、ドレッシング、加工食品などに広く使われますが、米国ではマスタードのアレルギーは比較的まれと考えられてきました。一方、欧州の研究では、マスタードが子どもに重いアレルギー反応を起こしうる重要なアレルゲンとして報告されています。欧州連合(EU)やカナダではマスタードは表示義務のあるアレルゲンに含まれますが、米国の食物アレルゲン表示法(FALCPA)が定める9品目には含まれていません。
米国の幼い子どもでマスタードによるアナフィラキシー(全身に及ぶ急激で重いアレルギー反応)を記録した報告はわずかです。著者らは、北米の小児に関する乏しい文献に一例を加え、米国のアレルギー専門医や小児科医にマスタードへの注意を促すことを目的に、この症例を報告しました。
症例の経過と診断
報告されたのは、生後23か月の男児です。以前から、免疫グロブリンE(IgE)という抗体が関わるタイプの卵アレルギーがありました。屋外でホットドッグを食べていた際、市販の黄色いマスタードが口に直接触れました。家族によると、ホットドッグやパンそのものは口にしておらず、初めて口に触れたものはマスタードだけでした。男児はこれまでホットドッグを問題なく食べており、使われたマスタードに卵の成分は含まれていませんでした。
数分のうちに、顔や胸、脚に広がるじんましん、せき、顔の赤み、唇の腫れ、口の周りの変色(親は「唇が紫色」と表現)が現れました。これらの皮膚・粘膜と呼吸器の症状の組み合わせは、米国の確立したアナフィラキシーの診断基準を満たしていました。すぐに筋肉注射用のアドレナリン(エピネフリン)が使われ、呼吸の症状と発疹は速やかに改善しました。その後、救急外来で抗ヒスタミン薬の投与と経過観察を受け、時間をおいて症状が再燃する反応は報告されていません。
後日のアレルギー外来では、皮膚に少量のアレルゲンを当てて反応を見る「皮膚プリックテスト」が行われました。マスタードの抽出液では、膨らみ(膨疹)が15mm、その周囲の赤み(発赤)が25mmと強い陽性でした。同時に調べた卵白は膨疹6mm、発赤10mmで、マスタードより小さな反応でした。
マスタードだけに触れた直後に全身症状が出たこと、アドレナリンに素早く反応したこと、一緒にあった食品はこれまで問題なく食べていたこと、皮膚テストが強い陽性だったことから、研究チームはIgEが関わるマスタードによるアナフィラキシーと診断しました。家族には、マスタードを厳格に避けること、マスタードが隠れて含まれる食品に気づくこと、緊急時の対応、アドレナリン自己注射薬を携帯し続けることについて指導が行われました。
過去の報告との比較と表示制度の課題
著者らは文献を調べ、マスタードアレルギーに関する知見の多くが欧州のデータに基づいていることを確認しました。フランスで36人の子どもを分析した研究では、半数以上が3歳になる前に症状が始まり、皮膚プリックテストの膨疹の平均は約8.8mmと報告されています。今回の男児の反応はそれより明らかに大きく、著者らは強い感作(アレルギーを起こしやすい状態)を示唆するとしています。
過去の研究では、マスタードがキャベツやブロッコリーなど同じアブラナ科の植物性食品やヨモギ花粉と交差反応を示すことも報告されています。また、マスタードの主なアレルゲンであるたんぱく質は熱や消化に強い構造を持ち、加熱・加工された食品の中でも残りやすいことが説明されています。
著者らは表示制度の違いにも注目しています。米国ではマスタードの表示が義務づけられていないため、人々の認識が低くなり、加工食品や調味料を通じて誤って口にする危険が高まる可能性があると論じています。2023年にゴマがFALCPAの主要アレルゲンに加えられた前例を挙げ、この症例はマスタードを表示義務の対象に加える働きかけを支持するものだと述べています。
報告の限界とこの症例が示すこと
著者らは限界も挙げています。血液中のマスタード特異的IgEは初診時に測定されておらず、最初の反応が重かったため、実際に食べて確かめる経口負荷試験は行われていません。経過は親の報告に基づいています。また、原因となった製品は酢や香辛料など複数の材料を含むため、他の成分が関わった可能性も完全には否定できないとしています。さらに一例の報告であり、米国の子ども全体のマスタードアレルギーについて一般的な結論は導けないとしています。
それでもこの症例は、米国でもマスタードがごく幼い子どもに命に関わるアナフィラキシーを起こしうることを示しています。著者らは、食べ物をきっかけに全身症状を起こした幼児では、代表的なアレルゲン以外の食品、特に調味料や加工食品も原因として疑う必要があると強調しています。
原著論文の著者・所属:Joshua A Katz(Allergy and Immunology, Family Allergy and Asthma Consultants, Jacksonville, USA; Health Sciences, University of Central Florida, Orlando, USA)、Saloni S Joshi(Allergy and Immunology, Family Allergy and Asthma Consultants, Jacksonville, USA; Allergy and Immunology, University of Florida College of Medicine - Jacksonville, Jacksonville, USA; Health and Human Sciences, Florida State University, Tallahassee, USA)、Sunil N Joshi(Allergy and Immunology, Family Allergy and Asthma Consultants, Jacksonville, USA; Allergy and Immunology, University of Florida College of Medicine - Jacksonville, Jacksonville, USA; Health and Human Sciences, Florida State University, Tallahassee, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Joshua A Katz, Saloni S Joshi, Sunil N Joshi. Mustard-Induced Anaphylaxis in a 23-Month-Old Male: An Underrecognized Pediatric Food Allergen in the United States. Cureus 2026-08-13. DOI: 10.7759/cureus.114458. 原著ライセンス:CC BY.