マスタードというとスパイスや調味料の印象が強いですが、その種子からは食用油も採ることができます。今回紹介するのは、白マスタード(Sinapis alba L.)の『Warta(ワルタ)』という品種の種子を対象に、搾油前にマイクロ波(電子レンジと同じ原理の加熱)で下処理を行うと、油の収量や成分にどのような変化が起きるのかを調べた研究です。ポーランドの生命科学大学(University of Life Sciences)食品科学技術学部、および油糧作物育種・順化研究所(Plant Breeding and Acclimatization Institute)の研究者らによってまとめられ、サイエンティフィック・リポーツ誌に2026年8月に掲載予定です。
マイクロ波で何を、どう処理したのか
研究チームは、出力900ワットのマイクロ波を使い、白マスタードの種子を0分(未処理)から8分まで異なる時間だけ照射しました。その上で、種子の発芽能力、搾油して得られる油の収量、油に含まれる生理活性成分(フィトステロール、プラストクロマノール8、カノロールなど)の量、そして油の酸化のしにくさ(酸化安定性)を比較しています。
収量と成分にみられた変化
マイクロ波処理は、まず種子の発芽能力を低下させました。これは熱によって種子内の酵素の働きが失われたり、細胞が壊れたりしたためと説明されています。つまり、この処理を行った種子は、播種用の『種』としては使えなくなるということです。
一方で、油を搾る対象としてみると、マイクロ波処理には利点が見られました。油の収量は処理時間とともに変化し、4分間の処理で28.5%というピークに達しました。また、フィトステロールやプラストクロマノール8、とりわけカノロールと呼ばれる成分が処理によって増加し、DPPH法という手法で測定した抗酸化活性は70%まで上昇したと報告されています。
この抗酸化力の高まりは、油の酸化安定性にも良い影響を与えたとされます。酸化の進み具合を示すTOTOX値(数値が低いほど酸化が進んでいないことを示す指標)は、未処理の種子由来の油で29.4だったのに対し、8分間マイクロ波処理した種子由来の油では17.6まで下がりました。研究チームは、抗酸化力の向上とTOTOX値の低下という点から、8分間の処理が今回試した条件の中では最も効果的だったとまとめています。
この研究をどう受け止めるか
著者らは、マイクロ波による下処理が、白マスタード(Warta品種)の種子から油を取り出す量を増やし、機能性食品やサプリメント(ニュートラシューティカル)用途に適した性質を持つ油を得るための、簡便で有効な方法だと結論づけています。ただし、この処理によって種子の発芽能力は損なわれるため、あくまで搾油目的での利用が前提となる点には注意が必要です。この記事で紹介したのは特定の品種・条件下での一つの研究結果であり、他の品種や処理条件でも同様の結果が得られるか、また得られた油の効果が人の健康にどうつながるかについては、今回の要旨からは明らかにされていません。
まとめ
今回の研究では、白マスタード種子にマイクロ波を短時間当てる下処理によって、油の収量が増え、カノロールなどの生理活性成分や抗酸化活性が高まり、酸化安定性の指標であるTOTOX値も改善したことが示されました。一方で種子の発芽能力は失われるため、この技術はあくまで搾油用途向けの前処理として位置づけられています。今後、他の品種や条件での検証、実際の食品応用における評価が期待される段階だといえるでしょう。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Anna Grygier, Kamila Klingsporn, Aleksander Siger, et al. Effect of microwave pre-treatment on oil yield, bioactive compounds and oxidative stability of oil from white mustard (Sinapis alba L. cv. Warta) seeds. サイエンティフィック・リポーツ (2026). DOI: 10.1038/s41598-026-66361-z. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.