この研究は、タイ、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

捨てられる搾りかすを見直す

カラシナ(Brassica juncea、ブラウンマスタードやオリエンタルマスタードとも呼ばれます)の種子は、食用油の原料や香辛料として世界中で使われています。研究チームの説明によれば、油を搾ったあとに残る「種子ミール」や「搾りかす」は、もとの種子の重量の半分以上を占めるうえ、必須アミノ酸をすべて含むタンパク質源としての価値が残っています。とくに、穀類で不足しがちなリシンと、油糧種子で不足しがちなメチオニン・システインの両方を十分に含む点が、植物性食品の材料として注目される理由だと述べられています。

この研究が扱ったのは、さらに何段階もの加工を経た残りかすです。タイの事業者から得られた材料は、機械での圧搾、酵素ミロシナーゼの働きを利用したアリルイソチオシアネート(カラシの辛味成分)の生成、そして精油の蒸留という一連の工程を通っており、その過程で高い温度にさらされています。著者らは、熱を受けたタンパク質は構造がほどけて内側の疎水性の部分が表に出るため、分子同士が結びついて水に溶けにくくなり、取り出しにくくなることを指摘しています。こうした「熱を受けた工業廃棄物」からタンパク質を狙って回収する研究はこれまで限られていた、というのが出発点です。

四つの抽出方法を比べる

研究チームは、脱脂して粉末にした搾りかすに対し、四つの抽出方法を比較しました。一つ目は従来型のアルカリ抽出(CON)で、pH9のアルカリ性の水にタンパク質を溶かし出し、その後pH4.5に下げてタンパク質を沈殿させる、簡便で費用の低い標準的な手法です。二つ目は酵素前処理を加えたアルカリ抽出(ENZ)で、細胞壁の多糖類を分解する複合酵素ビスコザイムLをあらかじめ働かせてから同じアルカリ抽出を行います。三つ目は超音波を併用したアルカリ抽出(US)で、20kHzのプローブ型超音波処理装置を使い、試料温度を50℃未満に保ちながら16分間処理します。四つ目は酵素前処理と超音波の両方を組み合わせた方法(ENZ+US)です。

得られたタンパク質濃縮物については、色、分子の大きさ(SDS-PAGEによる分析)、電子顕微鏡による表面の様子、赤外分光による構造、pHごとの溶けやすさといった物理化学的性質のほか、油を抱え込む力、泡立ち、乳化のはたらき、抗酸化のはたらきといった機能的性質、そしてタンパク質含量と試験管内での消化されやすさ(消化酵素ペプシンとトリプシンを用いた模擬消化)が調べられました。

原材料そのものの組成は、乾物あたりタンパク質37.54g/100g、総炭水化物35.68g/100g、脂質18.74g/100gなどと報告されており、著者らはこれを植物性タンパク質の豊富な供給源になりうる水準としています。

方法によって「得意なこと」が変わる

得られた濃縮物のタンパク質含量は70.67%から82.31%の範囲で、分子量はおよそ10〜75kDaに分布していました。最も高かったのは従来型アルカリ抽出(82.31%)で、以下、超音波併用(77.88%)、酵素前処理(74.96%)、両者の併用(70.67%)の順でした。著者らはこの順序を、酵素や超音波がタンパク質以外の細胞壁成分まで一緒に取り出してしまい、結果としてタンパク質の割合が薄まったためと説明しています。一方、電子顕微鏡で見た粒子の表面は、酵素を使った処理で粗い状態からなめらかな状態へと変化しました。

抗酸化のはたらきでは、酵素を用いた二つの方法(ENZとENZ+US)が優れていました。細胞壁の多糖類が分解されることで、タンパク質以外の生理活性成分も一緒に抽出され、水素や電子を渡すしくみを通じて抗酸化能が高まったと報告されています。具体的な値としては、フォリン-チオカルト試薬による還元能が7.20〜7.95mg GAE/g、ラジカルを捕まえる力がDPPHで8.75〜9.33mg TE/g、ABTSで42.97〜56.86mg TE/g、鉄イオンを還元する力(FRAP)が13.59〜14.49mg TE/gと示されています。

反対に超音波のみの処理(US)では、著者らの考察によれば、気泡がはじける現象(アコースティック・キャビテーション)によって反応性の高い物質が生じ、もともと含まれる色素やポリフェノールが分解されるため、抗酸化能は低下する可能性があります。その代わり、見た目の明るさ(L*値)は四つの中で最も高くなり、試験管内での消化されやすさは66.19%で、従来法の67.63%と同程度に保たれていました。

従来型アルカリ抽出は、調べたすべてのpHでタンパク質の溶けやすさが最も高く、それが乳化のはたらきの高さ(乳化活性指数42.15m²/g)につながったと報告されています。なお、四つの方法の重量収率には統計的な差がなく、いずれも0.80〜1.14%(原料のタンパク質量に対する回収率で1.65〜2.50%)にとどまりました。著者らはこの低い収率を、工業加工の段階で受けた熱によってタンパク質が部分的に変性していたことに起因すると考えています。

この研究が示すこと

この研究の要点は、同じ搾りかすから出発しても、抽出方法を変えることで得られる素材の性質が体系的に変わる、という点にあります。タンパク質の純度と溶けやすさ・乳化力を重視するなら従来型のアルカリ抽出、抗酸化のはたらきを重視するなら酵素前処理、色の明るさを重視するなら超音波というように、目指す用途に合わせて方法を選び分けられることを著者らは示しました。

同時に、この報告は限界もはっきりと示しています。収率の低さは大きな課題として残されており、著者らは、工業的・経済的な成り立ちは収率の改善にかかっていると述べています。廃棄物を資源として循環させるという考え方の実現に向けて、何ができて何がまだ足りないのかを具体的な数字で描き出した研究だと言えます。

著者:Chanaim P(Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.)、Taesuwan S(Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.)、Phongthai S(Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.)、Zhou D(National Engineering Research Center of Seafood, School of Food Science and Technology, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China.)、Zhao Q(National Engineering Research Center of Seafood, School of Food Science and Technology, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China.)、Rakariyatham K(Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chanaim P, Taesuwan S, Phongthai S, et al. Effects of Extraction Methods on Physicochemical, Functional and Nutritional Properties of Protein Extracted from Mustard (<i>Brassica juncea</i>) Seed Meal Residue. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-17. DOI: 10.3390/foods15183294. 原著ライセンス:CC BY.