著者の所属・活動拠点の国は、カザフスタンです。

掲載誌:Frontiers in Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

黄色ブドウ球菌は、塩分の多い環境や幅広い温度、乾燥にも耐えて生き残れる細菌です。さまざまな病原性の要因(病原因子)を持つことから、世界の食中毒の主な原因の一つとされています。この菌が作るエンテロトキシンと呼ばれる毒素は、熱や酸、消化酵素に強いという性質があります。そのため、加熱で菌そのものが死んでも、食品に毒素が残ることがあります。

カザフスタンは畜産が盛んで、乳製品や食肉の主要な生産国です。ところが著者らによると、北カザフスタンの食品に由来する黄色ブドウ球菌を全ゲノム解析で調べた研究は、これまで行われていませんでした。全ゲノム解析とは、細菌の遺伝情報をすべて読み取る方法です。研究チームはこの空白を埋めるため、食品から分離した菌について、遺伝子の特徴と抗菌薬が効くかどうか(薬剤感受性)を総合的に調べることを目的としました。

何を調べたか

研究チームは2024年6月から2025年6月にかけて、アスタナとコスタナイ地域の農場や小売店から計181の食品試料を集めました。試料には生乳、乳製品、鶏肉、牛肉、馬肉、魚、豚肉、卵、半調理品、調理済みの料理が含まれます。これらから黄色ブドウ球菌の有無を調べました。

菌が見つかった試料からは、試料1つにつき1株を取り出して解析しました。まず、抗菌薬がどの濃度で菌の増殖を抑えるかを測り、薬剤耐性を判定しました。続いて全ゲノム解析により、菌の系統を表す配列型(ST)、薬剤耐性遺伝子、毒素などの病原因子の遺伝子を調べました。

主な結果

黄色ブドウ球菌は181試料のうち42試料(23.2%)から見つかりました。最も多かったのは生乳で、陽性試料42件のうち17件を占めました。調べた生乳38試料のうち17試料(44.7%)から菌が検出されています。次いで多かったのは生の鶏肉の9件です。陽性試料の78.6%は生の食品、21.4%はそのまま食べる食品でした。

薬剤耐性については、42株の83.3%がペニシリンに耐性を示しました。抗菌薬の一部が効きにくいメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は21.4%(9株)でした。3系統以上の抗菌薬に耐性を持つ多剤耐性株は9.5%(4株)でした。一方、ゲンタマイシン、バンコマイシン、リネゾリド、ニトロフラントインには、すべての株が感受性を示しました。

系統では、ST97が最も多く12株を占めました。次いでST22が7株、ST5とST151がそれぞれ4株でした。ST22に属する株は、3つの耐性遺伝子(blaZ、mecA、lnuA)を併せ持つまとまったグループを形成しており、すべてがMRSAでした。これらの株は生の食品とそのまま食べる食品の両方を含む、さまざまな食品から見つかっています。研究チームはこの点について、共通の汚染源がある可能性や、広く拡散している可能性を指摘しています。

毒素の遺伝子では、従来から知られる古典的なエンテロトキシン遺伝子seaを持つ株は2株にとどまりました。これに対し、非古典的なエンテロトキシン遺伝子segは57.1%の株から検出されました。また、多くの株が複数の毒素関連遺伝子を持っていました。ただし著者らは、遺伝子があることは毒素を実際に作ることを必ずしも意味しないと述べています。今回の研究では毒素の産生は確認していません。

また、42株すべてのゲノムで、プラスミドと呼ばれる遺伝要素の目印となる配列は見つかりませんでした。プラスミドは細菌の間で遺伝子を受け渡す役割を持つことがあります。著者らはこの結果から、耐性遺伝子のうちblaZ、mecA、lnuAの3つは主に染色体上にあり、プラスミドを介した急速な広がりは起こりにくいと考えています。ただし、今回用いた短い断片を読み取る解析法では、挿入配列やトランスポゾンといった別の動く遺伝要素の関与は否定できないとしています。

研究が示すこと

著者らは、本研究を北カザフスタン、さらには中央アジアの食品由来黄色ブドウ球菌について初めてゲノムの特徴を示したものと位置づけています。結果の中でも、国際的に広く流行してきたST22系統のMRSAが食品から見つかった点を重視しています。この株は耐性遺伝子とともに強い毒性に関わる遺伝子も持っていました。また、系統の構成が中国や西欧などで報告されたものと異なることから、地域ごとのゲノム監視が重要である可能性を示しています。さらに、非古典的な毒素遺伝子が多かったことは、古典的な毒素だけを調べる現在の検査では見落としが生じうることを示唆するとしています。

一方で、試料数が限られていること、毒素の産生を確かめていないことなどの制約があり、著者らは今回の結果を予備的な知見として扱っています。それでも、地域の食品供給網にどのような菌が存在するかを遺伝子レベルで記録した点で、この研究は世界の薬剤耐性監視における地理的な空白を埋める手がかりを示しています。

原著論文の著者・所属:Saniya S. Kozhakhmetova(National Scientific Shared Laboratory of Biotechnology, National Center for Biotechnology)、Elena V. Zholdybayeva(National Scientific Shared Laboratory of Biotechnology, National Center for Biotechnology)、Diana A. Basharova(National Scientific Shared Laboratory of Biotechnology, National Center for Biotechnology)、Ayazhan Bekbayeva(National Scientific Shared Laboratory of Biotechnology, National Center for Biotechnology)、Aiganym B. Toleuzhanova(National Scientific Shared Laboratory of Biotechnology, National Center for Biotechnology)、Asset Zh. Daniyarov(Department of General Biology and Genomics, L. N. Gumilyov Eurasian National University; National Laboratory Astana, Center for Life Sciences, Nazarbayev University)、Aitbay K. Bulashev(Department of Animal Husbandry and Biological Sciences, Institute of Animal Science and Veterinary Medicine, Saken Seifullin Kazakh Agrotechnical University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saniya S. Kozhakhmetova, Elena V. Zholdybayeva, Diana A. Basharova, et al. Whole-genome analysis and phenotypic antimicrobial resistance of Staphylococcus aureus isolated from foods in Northern Kazakhstan. Frontiers in Microbiology 2026-08-07. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1910820. 原著ライセンス:CC BY.