著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:International Journal of Management Science and Information Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

農産物をインターネット上で売買する電子商取引は、流通の効率化や市場の結び付きを強める手段として注目されています。中でも、農家とホテル、レストラン、病院、ケータリング業者などの「施設として食材を購入する事業者(施設購買者)」をつなぐ企業間取引(B2B)は、一般消費者向けよりも取引量が多く安定しやすい形態とされています。インドネシアでは、無償栄養給食(MBG)プログラムの調理施設も、食材流通の重要な拠点に位置付けられています。

一方で論文は、発展途上国の農業系スタートアップの失敗率が最大80%に達し、その大きな理由として、購買者側の需要を十分に考慮しない供給側中心の設計があると指摘しています。そこで研究チームは、インドネシア北スラウェシ州マナド市の施設購買者を対象に、農産物のB2B電子商取引を利用したいという意向がどの程度あるのか、そしてその意向を左右する要因は何かを調べました。

調査の方法と回答者の特徴

分析の枠組みには、新しい技術がどのように受け入れられるかを説明する「UTAUT(技術受容と利用の統合理論)」が使われました。この理論は、利用による利点への期待(成果期待)、使いやすさの見込み(努力期待)、周囲からの影響(社会的影響)、利用を支える環境や資源(促進条件)といった要素で利用意向を説明します。研究チームはこれに「信頼」を加えたモデルを立て、9つの仮説を検証しました。

レストラン・カフェ、ホテル、病院、ケータリング、近代的小売店、MBG調理施設などから120件の回答を集め、不注意な回答を除いた115件を、複数の要因の関係を同時に推定する統計手法(PLS-SEM)で分析しました。

回答者の71.3%はレストラン・カフェでした。60.9%が毎日農産物を仕入れ、87.8%が月500万ルピア以上を購入していた一方、主な仕入れ先は伝統的市場が72.2%、取引のある既存の仕入れ業者が25.2%で、農産物の購入に電子商取引を使ったことがあるのは6.1%にとどまりました。著者らは、取引規模はネット取引が経済的に見合う水準にあり、利用意向の低さは取引量の小ささでは説明できないとしています。

主な結果

利用意向は全体として低く、1〜5の尺度で平均1.96でした。回答者の80.9%が「低い」または「非常に低い」に分類され、「中程度」は13.0%、「高い」は6.1%で、「非常に高い」に当たる人はいませんでした。

9つの仮説のうち7つが支持されました。直接・間接の影響を合わせた効果の大きさの順に、利用意向と関係する要因は、使いやすさの見込み(0.345)、利用を支える環境(0.291)、周囲からの影響(0.250)、信頼(0.235)でした。使いやすさの見込みは、5つの要素の中で回答の平均が最も低い一方、利用意向への効果は最も大きいという組み合わせになっていました。

特徴的だったのは、利点への期待の扱いです。利点への期待は利用意向に直接の影響を示さなかった一方で、信頼に対しては最も強い要因(0.438)でした。著者らは、利点への期待は信頼を高めることを通じてのみ利用意向に結び付いている(完全媒介)と報告しています。モデルは利用意向のばらつきの65.3%、信頼のばらつきの66.9%を説明しました。

回答者に望ましい機能の重要度を尋ねた結果では、リアルタイムの配送追跡が最も重視され、価格交渉・まとめ買いの提案、品質のデジタル検証・格付けが続きました。研究チームはこうした結果をもとに、6層からなるプラットフォーム構成案も示していますが、論文ではこれらの機能提案は実証的に検証されたものではないと明記されています。

研究が示すこと

著者らは、マナド市の施設向け農産物ネット取引は「手付かずの市場」というより「まだ育っていない市場」だと位置付けています。そして、機能の豊富さや価格の安さよりも、操作の簡単さ、配送の確実さ、信頼の仕組みを優先すべきだと論じています。また、信頼が利点への期待を利用意向へつなぐ役割を担うことを、施設向け調達という場面での理論的な貢献としています。

ただし著者ら自身、回答が尺度の低い側に偏っていること、利点への期待と信頼の区別が十分に明確でないことを挙げ、信頼を介した仕組みについての結論は暫定的なものだと述べています。調査は単一都市で、回答者の多くをレストラン・カフェが占めていることから、結果は探索的なものとして読む必要があります。それでも、施設購買者が慣れ親しんだ仕入れ先との関係に代わる「信頼できる取引の場」をどう築くかが鍵であることを、需要側のデータから示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Surya Danang(Akademi Bisnis dan Keuangan Primaniyarta)、Supriyanto Supriyanto(Akademi Bisnis dan Keuangan Primaniyarta)、Paske Victory Modaso(Akademi Bisnis dan Keuangan Primaniyarta)、Reifan Ratu(Akademi Bisnis dan Keuangan Primaniyarta)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Surya Danang, Supriyanto Supriyanto, Paske Victory Modaso, et al. Analysis of B2B Agricultural E-Commerce Model Based on Institutional Buyer Adoption Using the UTAUT Framework. International Journal of Management Science and Information Technology 2026-09-17. DOI: 10.35870/ijmsit.v6i2.8347. 原著ライセンス:CC BY.