著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Organic Farming
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:支援があるのに広がらない理由を探る
インドネシア東ジャワ州のンガウィ県は、同州の主要な稲作地帯の一つです。県政府は「ンガウィ・ゴー・オーガニック2030」という計画を掲げ、「持続可能な環境配慮型農業(PRLB)」の普及を進めています。PRLBは、有機肥料の利用を増やし、化学肥料の使用を段階的に減らしていく農法です。
県はさまざまな支援策を用意してきました。それでも、論文によるとPRLBを取り入れる農家や面積は大きくは増えていません。著者らは、支援が効果を上げるには農家の実際の必要や地域の事情に合っていることが重要であり、全国一律の施策では十分に機能しないと指摘しています。そこでこの研究は、農家の必要と地域の特性に合うように支援の仕組み(インセンティブ)を設計し直す案をまとめることを目的としました。
どのように調べたか:48人への聞き取りと現地観察
研究チームは2026年3月から6月にかけてンガウィ県で調査を行いました。数値を集計するのではなく、関係者の経験や考えを詳しく聞き取る質的な方法をとっています。住民参加型で地域の実情を探る「参加型農村調査」という手法と、一人あたり2〜2.5時間の詳しいインタビューを組み合わせました。
聞き取りの対象は、PRLBに直接関わる48人の主要な関係者です。県の農業部局の幹部、各地区の農業普及員、各地区のPRLB農家グループの代表、地元の有機農業団体、有機認証機関、民間企業などが含まれます。あわせて、栽培現場の観察、計画関連の文書の確認、関係者との話し合いも行いました。インタビューの内容はすべて文字に起こし、研究者全員で読み込みました。そのうえで、似た意味の発言をまとめてテーマごとに整理しています。
主な結果:生産への支援はあるが、売る力や経済的な見返りが弱い
調査からは、県がすでに多様な支援を行っていることが確認されました。普及員による指導や農家向けの現場学習会、肥料などの資材の提供、農機具の提供、農業保険料への補助、小規模事業者向けの融資制度、村の予算を通じた支援などです。
一方で、農家の必要に十分応えられていない「すき間」も明らかになりました。最も大きな課題は販売面です。多くのPRLB農家は、通常の農産物と同じ販路で個別に売っています。企業やスーパーとの取引も、条件の厳しさや書面による契約がないことから長続きしていません。そのため、環境に配慮して作った価値が価格に十分反映されていません。高値で売れる市場や、そこに入るための認証の機会はありますが、情報・人脈・資金の不足から、恩恵を受けられる農家は一部にとどまっていると報告されています。
このほかにも次のような課題が挙げられました。保険は一般的な不作に備えるもので、従来農法から有機農法へ切り替える時期に特有のリスクには対応していません。肥料の補助は有機肥料の量が限られており、農家からは「有機農業を勧めながら、補助の多くは化学肥料向けなのは不思議だ」という声も聞かれました。さらに、栽培は分かっていても、事業計画や販路開拓といった経営の力が足りないという訴えもありました。
提案された見直し案とその意味
これらの結果をもとに、著者らは支援の見直しの枠組みを示しています。金銭面の支援としては、有機肥料への補助の拡充、環境に配慮した融資、価格の上乗せ、環境に配慮した保険などを挙げています。金銭以外の支援としては、継続的な指導、農家の技能を認める資格認定、表彰、市場情報の提供、取引先との連携強化を提案しています。あわせて、栽培技術だけでなく、経営・組織運営・デジタル活用の力も育てることを重視しています。
著者らは、こうした見直しによってPRLBの普及が進み、農家の収入や競争力、環境の持続性が高まる可能性があると述べています。ただし、これらの効果は今回の研究で実際に測定・検証されたものではなく、提案から見込まれる可能性として示されている点に注意が必要です。この研究が伝えているのは、環境に配慮した農業を広げるには、作る段階への支援だけでは足りないということです。売る力、経済的な見返り、移行期のリスクへの備えまで含めて、地域の農家の声に沿った支援を組み立てる必要があると論文は示しています。
原著論文の著者・所属:Heru Irianto(Center for Micro, Small, and Medium Enterprises and Cooperative Studies , Universitas Sebelas Maret , 57126 Surakarta , Indonesia; Faculty of Agriculture , Universitas Sebelas Maret , 57126 Surakarta , Indonesia)、Erlyna Wida Riptanti、Bekti Wahyu Utami、Hardian Ningsih(Vocational School , Universitas Sebelas Maret , 57126 Surakarta , Indonesia)、Muhammad Fariz Yoga Pranata、Yoesti Silvana Arianti(Faculty of Agriculture , Universitas Veteran Bangun Nusantara , 57521 Sukoharjo , Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Heru Irianto, Erlyna Wida Riptanti, Bekti Wahyu Utami, et al. Incentive Redesign to Enhance the Capacity of Farmers Practicing Sustainable, Environmentally Friendly Rice Farming in Ngawi Regency, Indonesia. Organic Farming 2026-08-25. DOI: 10.56578/of120302. 原著ライセンス:CC BY.