著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、イタリアです。

掲載誌:Journal of the Science of Food and Agriculture

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

気候変動によってブドウ栽培では水不足が深刻になりつつあり、樹がどれだけ水を必要としているかを素早く確実に把握する手段が求められています。その代表的な指標が「茎水ポテンシャル(Ψstem)」で、樹の茎の中の水がどれほど強く引っ張られているか、つまり樹がどの程度水分不足の状態にあるかを圧力の単位(MPa)で示す値です。

光を当てて反射の仕方を調べる分光法は、植物の水分状態を素早く評価する方法として期待されています。ただし、品種や畑、年ごとの気象条件が違っても同じように使えるのかが大きな課題でした。研究チームは、紫外・可視光から近赤外光までの幅広い波長(190〜2600ナノメートル)の分光測定でブドウの茎水ポテンシャルを予測すること、そして予測モデルが品種、スペイン・ガリシア地方の畑、栽培年、異なる気候条件をまたいで頑健に使えるか、別の条件へ移しても通用するかを評価することを目的としました。

調べた方法

著者らは、5品種のブドウを代表する5か所の畑で、環境条件の異なる3回の生育期にわたって試料を集めました。乾燥させた葉の試料193点について、実験室で葉の反射スペクトル(波長ごとの光の反射の強さ)を測定し、あわせて茎水ポテンシャルの測定値を得ました。

続いて、多数の波長のデータと茎水ポテンシャルの値を結びつける統計手法である部分最小二乗(PLS)回帰を使い、スペクトルデータにさまざまな前処理(測定データを解析しやすく整える処理)を施して予測モデルを作りました。全体のデータを使う「全体モデル」に加え、地域ごとのモデルも検討しています。

主な結果

抄録によると、全波長域を使い分光データの前処理を施した全体モデルが最も良い成績を示しました。検証での決定係数(予測値が実測値をどれだけよく説明できるかを示す指標で、1に近いほど良い)は0.85、予測誤差の目安となる二乗平均平方根誤差は0.17 MPaで、品種や畑をまたいで高い予測能力があったと報告されています。

一方で、特定の畑では成績が下がり、レイロの畑では検証での決定係数が0.37にとどまりました。研究チームはこれを、その土地の環境や管理の条件が影響していることを示すものと捉えています。

地域ごとのモデルでは成績にばらつきがあり、キロガのモデルが最も高い精度を示しました(交差検証での決定係数0.84、交差検証の誤差0.13 MPa)。また探索的な解析では、茎水ポテンシャル、気象の変数、スペクトルの反応のあいだに一貫した関係が見られ、モデルの出力を農業上意味のある水分状態の区分へ置き換えることもできたと報告されています。

研究が示すこと

著者らは、紫外・可視・近赤外分光法とPLS回帰の組み合わせが、茎水ポテンシャルを素早く確実に推定する方法となり、必要な場所に必要な量の水を与える精密灌漑を支えるものだと結論づけています。同時に、全体モデルは総じて高い性能を示すものの、環境条件がばらつく場合には、畑ごとに較正(モデルの調整)を行うことで精度が高まる可能性があるとも述べています。幅広い条件で使える共通モデルの強みと、土地ごとの違いへの配慮の両方が重要であることを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Martina Galaverni(Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (ICVV), Consejo Superior de Investigaciones Científicas‐CSIC Universidad de La Rioja, Gobierno de La Rioja, Finca la Grajera Logroño Spain; University of Parma, Parma (UNIPR), Department of Food and Drug University of Parma Parma Italy)、José Ignacio Manzano(Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (ICVV), Consejo Superior de Investigaciones Científicas‐CSIC Universidad de La Rioja, Gobierno de La Rioja, Finca la Grajera Logroño Spain)、Marta Rodríguez‐Febereiro(GI‐1716, Proyectos y Planificación, Departamento Ingeniería Agroforestal, Escola Politécnica Superior de Enxeñaría Universidade de Santiago de Compostela Lugo Spain)、María Fandiño(GI‐1716, Proyectos y Planificación, Departamento Ingeniería Agroforestal, Escola Politécnica Superior de Enxeñaría Universidade de Santiago de Compostela Lugo Spain)、Mar Vilanova(CropQuality: Crop stresses and their effects on quality (USC), Associate Unit of Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (ICVV) Zaragoza Spain; Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (ICVV), Consejo Superior de Investigaciones Científicas‐CSIC Universidad de La Rioja, Gobierno de La Rioja, Finca la Grajera Logroño Spain)、Javier José Cancela(CropQuality: Crop stresses and their effects on quality (USC), Associate Unit of Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (ICVV) Zaragoza Spain; GI‐1716, Proyectos y Planificación, Departamento Ingeniería Agroforestal, Escola Politécnica Superior de Enxeñaría Universidade de Santiago de Compostela Lugo Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Martina Galaverni, José Ignacio Manzano, Marta Rodríguez‐Febereiro, et al. Predicting grapevine stem water potential (Ψ stem ) using UV ‐visible‐ NIR spectroscopy across contrasting vineyard environments. Journal of the Science of Food and Agriculture 2026-10-29. DOI: 10.1002/jsfa.71192. 原著ライセンス:CC BY.