著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、イギリス、ギリシャ、オランダです。

掲載誌:Journal of Analysis and Testing

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:同じ働きをもつ二つの毒を同時に見張る

テトロドトキシン(TTX)とサキシトキシン(STX)は、海の食物連鎖を通じて生物の体内に蓄積する強力な神経毒です。どちらも神経や筋肉の電気信号に関わる「電位依存性ナトリウムチャネル」をふさぎ、人に重い中毒を起こし、死に至ることもあります。著者らによると、解毒剤はなく治療は対症療法に限られます。そのため、効果的な監視とリスク管理による予防が、消費者を中毒から守る唯一の方法だとしています。

TTXはかつてフグだけの毒と考えられていましたが、細菌に由来するため貝類などからも見つかっています。STXは麻痺性貝毒と呼ばれる毒のグループの代表的な物質です。主に有毒プランクトンの大量発生に伴って貝に蓄積しますが、一部のフグにもたまります。両者は同じ生物から一緒に検出されることがあり、毒性も足し合わさると報告されています。それでも規制は、それぞれの毒のグループごとに別々の基準値を定めています。

研究チームは、抗体などを使う生物学的な分析法で両方の毒を同時に検出する仕組みが、これまで開発されていなかった点に注目しました。そこで、フグと貝の試料について、TTXとSTXがそれぞれ基準値を超えているかどうかを同時にふるい分ける電気化学式のバイオセンサーの開発に取り組みました。

仕組み:4つの電極で「検査」と「基準」を並べて比べる

このセンサーは、抗体が毒を見分ける性質を利用した免疫測定法を二つ組み合わせています。一つはTTX用、もう一つはSTX用です。測定には、磁石に引き寄せられる微小な粒子(磁気ビーズ)に毒を結びつけたものを使います。試料の抽出液と抗体を一緒に加えると、試料中の毒とビーズ上の毒が抗体を奪い合います。試料に毒が多いほどビーズに結合する抗体が減り、その後の酵素反応で生じる電流も小さくなります。つまり、電流が小さいほど毒が多いことを示します。

電極は、印刷技術で作られた小さな基板上に作用電極が4つ並んだものです。2つは試料中のTTXとSTXを測る「検査点」です。残りの2つは、現行の規制値や安全上の推奨値に対応させた「基準点」です。4つの信号を一度の測定で同時に読み取り、検査点の電流が基準点より小さいか大きいかで、試料が基準値を超えているかを判定します。

判定に用いた基準値は、フグではTTX換算で1キログラムあたり2000マイクログラム、STX換算で800マイクログラムです。貝ではTTX換算で44マイクログラム、STX換算で800マイクログラムでした。

主な結果:実際のフグと貝で機器分析と照合

研究チームはまず、毒を含まないフグと貝の抽出液に既知量の毒を加え、どれだけ正しく測れるかを確かめました。回収率はフグで87〜101%、貝で82〜95%でした。著者らは、定めた分析条件では試料成分による測定の妨害は生じなかったと結論しています。同じ日の繰り返し測定でのばらつきは8%以内、日を変えた測定では11%以内でした。

このばらつきを考慮し、基準点の電流(約700ナノアンペア)の前後に余裕をもたせて判定の区分を設けました。600ナノアンペア未満を「陽性」、800ナノアンペアを超える場合を「陰性」とし、その間を判断を保留する「不確実ゾーン」としています。

ギリシャとスペインのフグ、オランダ、メキシコ、英国の貝の計40試料を、このセンサーで調べました。結果は、各試料の提供元の研究機関が通常用いている機器分析の結果と比べられました。貝30試料のうち、TTXのみ陽性が13、STXのみ陽性が4、両方陰性が12でした。両方陽性は1試料のみで、そのSTXの値は不確実ゾーンに入っていたため、機器分析での確認が必要な「陽性の疑い」として扱われました。フグ試料では、両方陽性のものや不確実ゾーンに入るものはありませんでした。

毒の種類ごとの強さの違いを考慮した機器分析の結果と照らし合わせると、TTXの判定は40試料すべてで一致しました。STXの判定は40試料中38試料で一致しました。著者らは、実際の毒性が基準を超えていると見積もられたのにセンサーでは陰性と判定された試料があったと報告しています。その原因として、STXの仲間の中に、毒性は強いのに今回の抗体が認識しにくい物質があることを挙げています。そのうえで、仲間の物質を毒性に見合った強さで認識する抗体の改良が必要だと指摘しています。

また、使用後の電極を磁石の台から外して水ですすぐだけで、最大20回まで繰り返し測定でき、前の測定の影響も見られませんでした。著者らは、この再利用性が運用コストの削減につながりうると述べています。

研究の意味

この研究は、毒のグループは異なるものの同じ仕組みで作用するTTXとSTXについて、規制の基準に照らして同時にふるい分ける道具を示しました。著者らは、このセンサーが検査の最初の段階で使うふるい分けの道具として有望だと位置づけています。多数の試料から機器分析で確認すべきものを絞り込み、時間と資源の節約に役立つ可能性があるとしています。

一方で、現在の装置は試作段階です。著者ら自身が、実験室での作業に頼る抽出工程の簡略化や、手順の削減、携帯性と使いやすさの向上を、今後必要な改良として挙げています。STXの仲間を毒性に応じて捉える抗体の改良も課題とされています。

原著論文の著者・所属:Jaume Reverté(Department of Basic Medical Sciences, Universitat Rovira i Virgili (URV), Reus, 43201, Spain; Marine and Continental Waters (AMiC), Institute of Agrifood Research and Technology (IRTA), La Ràpita, 43540, Spain)、Andrew D. Turner(Centre for Environmental Fisheries and Aquaculture Science (CEFAS), Weymouth, DT4 8UB, UK)、Monika Dhanji-Rapkova(Centre for Environmental Fisheries and Aquaculture Science (CEFAS), Weymouth, DT4 8UB, UK)、Manolis Mandalakis(Institute of Marine Biology, Biotechnology and Aquaculture, Hellenic Centre for Marine Research (HCMR), Heraklion, 71003, Greece)、Panagiota Peristeraki(Institute of Marine Biological Resources and Inland Waters, Hellenic Centre for Marine Research (HCMR), Heraklion, 71003, Greece)、Mirjam D. Klijnstra(Wageningen Food Safety Research, Wageningen University & Research, Wageningen, 6708 WB, the Netherlands)、Arjen Gerssen(Wageningen Food Safety Research, Wageningen University & Research, Wageningen, 6708 WB, the Netherlands)、Maria Rambla-Alegre(Marine and Continental Waters (AMiC), Institute of Agrifood Research and Technology (IRTA), La Ràpita, 43540, Spain)、Jorge Diogène(Marine and Continental Waters (AMiC), Institute of Agrifood Research and Technology (IRTA), La Ràpita, 43540, Spain)、Mònica Campàs(Marine and Continental Waters (AMiC), Institute of Agrifood Research and Technology (IRTA), La Ràpita, 43540, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jaume Reverté, Andrew D. Turner, Monika Dhanji-Rapkova, et al. Electrochemical Biosensor for the Dual Detection of Tetrodotoxin and Saxitoxin in Seafood Samples: A Multiplexed Device for Toxin Monitoring. Journal of Analysis and Testing 2026-09-17. DOI: 10.1007/s41664-026-00501-2. 原著ライセンス:CC BY.