著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Journal of Food Measurement & Characterization

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ砂糖の色を手軽に測りたいのか

マスカボ糖は、サトウキビの搾り汁を煮詰めて作るブラジルの未精製の砂糖です。糖蜜を多く残すため、精製糖とは異なる茶色い色合いや風味を持ちます。著者らによれば、市場は拡大傾向にあり、家族経営の農家にとって重要な収入源でもあります。ところがブラジルの砂糖の品質基準には、マスカボ糖専用の規定がありません。そのため、検査や取引の場で法的・商業的な不確実さが生じうると論文は指摘しています。

マスカボ糖を種類分けする基準として、色は特に重要な項目です。しかし製法や原料の違いで色の幅が大きく、製菓やパンなど原料として使う業界では、色のばらつきが製品の印象を左右します。食品の色を客観的に表すには、国際的に標準化された「CIELAB」という色の表し方が広く使われています。これは明るさや赤み・黄色みを数値で表す方式です。ただし、この方式で精密に測る据え置き型の機器は高価で、小規模な加工所や農家には導入しにくいという課題があります。

そこで研究チームは、スマートフォンと連携する小型で安価な色センサー「Nix Pro 2」に注目しました。この携帯型センサーが、マスカボ糖の色を業界標準の機器と同程度に測れるかどうかを検証することが、研究の目的です。

125種類の砂糖を3台の機器で測定

研究チームは、ブラジルのサンパウロ州とパラナ州で、市販品や生産者から直接入手した125点のマスカボ糖を集めました。色や加工の程度、カラメル化の度合いに幅が出るよう選んでいます。粒の大きさがそろっていないと表面に細かな影ができ、色の読み取りがゆがみます。そこで、目開き425マイクロメートルのふるいを通った部分だけを測定に使いました。

測定に使った機器は3台です。1台目は分光測色計CM-25d、2台目は色彩計CR-400、3台目がNix Pro 2です。CM-25dは光をさまざまな方向から当てて反射を測る方式で、CR-400とNix Pro 2は斜め45度から光を当てて真上で受ける方式です。光源も異なり、Nix Pro 2はLEDを使っています。試料はガラス皿に平らに詰め、皿を回しながら各機器で3回ずつ測りました。

比べた項目は、明るさを表すL*、赤みのa*、黄色みのb*、色の鮮やかさを表す彩度C*、色合いの方向を示す色相角h°です。機器どうしの差は、平均的なずれ(系統的な偏り)や誤差の大きさで評価しました。あわせて、3つの色座標をまとめた総合的な色差ΔE、多数の変数を整理して全体の傾向を見る主成分分析、似た測定値をグループに分けるクラスター分析も使っています。

色合いはそろい、明るさには一定のずれ

最も目立ったのはCR-400の違いでした。CR-400の明るさの値は、CM-25dより18.55%、Nix Pro 2より24.83%高くなりました。一方で赤み・黄色み・彩度は、ほかの2機種より約21〜24%低く出ました。CR-400は砂糖の色を明るく、くすんだ方向に読み取る傾向があったことになります。これに対して色相角は3機種のあいだに有意な差がなく、平均はおよそ60.8度でした。

Nix Pro 2をCM-25dと比べると、赤みの平均的なずれは+0.226とほぼ無視できる大きさでした。黄色みと彩度のずれも小さいものでした。論文がマスカボ糖の分類で主要な指標と位置づける色相角は、平均的なずれが−1.214度でした。測定値の対応関係も、研究内で最も強い直線的な関係を示しました(決定係数0.85)。一方、明るさについては、Nix Pro 2がCM-25dより平均で約3、CR-400より約12低く出ました。ただしこのずれは明るさの全範囲で安定していました。そのため著者らは、換算式を使えば標準機器の値に変換できると述べています。

3つの色座標をまとめた総合的な色差は、Nix Pro 2とCM-25dの間で平均3.86でした。一方、Nix Pro 2とCR-400の間では12.76、CM-25dとCR-400の間では10.18と大きく開きました。主成分分析でもNix Pro 2とCM-25dの測定値はほぼ同じ領域に重なり、CR-400は明るさの高さを反映して位置がずれていました。クラスター分析では、測定値は機器ごとではなく、主に砂糖そのものの色の違いによってグループ分けされました。著者らはこの結果を、Nix Pro 2とCM-25dの機器間の差が、砂糖ごとの自然な色のばらつきの範囲内に収まっていることを示すものと解釈しています。

小規模生産の現場で色を確かめる道具として

著者らは、Nix Pro 2が実験室の管理された条件のもとで、マスカボ糖の色の違いや褐色の度合いを追える感度を示したと結論づけています。そのうえで、小規模な加工の現場で手早く品質を確かめる、試料を壊さない簡易スクリーニングの道具として有望だとしています。

同時に著者らは、今回の結果はあくまで管理された条件での性能です。標準的な分光測色計を完全に置き換えるものでも、正式な分析法として認められたものでもない、と明記しています。手の届きやすい機器で色を数値化できる見通しは、公的な分類基準がまだないマスカボ糖の品質を客観的に語るための一つの足がかりといえます。

原著論文の著者・所属:Vinicius Pariser Marques Xavier(Federal University of Technology Paraná (UTFPR), Londrina, PR, Brazil)、Lyssa S. Sakanaka(Federal University of Technology Paraná (UTFPR), Londrina, PR, Brazil)、Claudio T. Ueno(Federal University of Technology Paraná (UTFPR), Londrina, PR, Brazil)、Gustavo Ferreira da Silva(Federal University of São Carlos (UFSCar), Araras, SP, Brazil)、Fernando Ferrari Putti(São Paulo State University (UNESP), Tupã, SP, Brazil)、José L. F. de Godoy(Federal University of São Carlos (UFSCar), Araras, SP, Brazil)、Marta R. Verruma-Bernardi(Federal University of São Carlos (UFSCar), Araras, SP, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vinicius Pariser Marques Xavier, Lyssa S. Sakanaka, Claudio T. Ueno, et al. Performance of the Nix Pro 2 handheld sensor in mascavo sugar color analysis. Journal of Food Measurement & Characterization 2026-09-12. DOI: 10.1007/s11694-026-04924-4. 原著ライセンス:CC BY.