著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Food Frontiers

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

抗生物質や農薬は、動物用医薬品や殺虫剤などとして広く使われています。研究チームは、生態系の環境中にあるこうした抗生物質や農薬が公衆衛生に大きな危険をもたらすとしています。そのうえで、抗菌薬の一種であるエノキサシンと除草剤として知られるグリホサートを同時に監視するための、新しい蛍光センサーの開発に取り組みました。

センサーの材料には、金属イオンと有機分子が規則正しく結びついてできる多孔質の結晶材料「金属有機構造体(MOF)」が使われています。著者らは、亜鉛とユウロピウムという2種類の金属を含むMOFを作り、2つの蛍光の強さの比を使って測定する「レシオメトリック型」の蛍光センサーとして設計しました。この方式は、1色の明るさだけでなく色の比率の変化を見る点が特徴です。

センサーの作り方と光る仕組み

研究チームはまず、亜鉛イオンと3種類の有機分子(2,2′-ビピリジン-5,5′-ジカルボン酸、8-ヒドロキシキノリン、2-アミノテレフタル酸)を反応させて亜鉛のMOFを合成しました。次に、このMOFの中のビピリジンジカルボン酸の部分にユウロピウムイオンを結合させ、2種類の金属を含む「Eu@ZnMOF」を作りました。

論文によると、この材料を使った検出系ははっきりした緑色の蛍光を示します。これは、8-ヒドロキシキノリンの分子内で光を受けたときに起こる水素イオンの移動(励起状態分子内プロトン移動)が、亜鉛イオンによって抑えられるためだと説明されています。

ここにエノキサシンが加わると、エノキサシンがユウロピウムイオンの発光を助ける「増感」の働きをし、ユウロピウム由来の赤い蛍光が強まります。著者らはこの現象を利用して、エノキサシンを検出する蛍光センサーを構成しました。

グリホサートの検出と主な結果

さらに研究チームは、エノキサシンを組み込んだEu@ZnMOFを作製しました。これにグリホサートを加えると、エノキサシンによる増感と、有機分子から金属へ電子が移る現象(配位子-金属電荷移動)がどちらも抑えられると報告されています。その結果、ユウロピウムの赤い蛍光が弱まり、青い蛍光が強まって、色が赤から青へとはっきり変化しました。

論文では、このセンサーで検出できる最小濃度(検出限界)が、エノキサシンで1リットルあたり0.05ミリグラム、グリホサートで1リットルあたり0.10ミリグラムと報告されています。

また著者らは、この材料をごく細い流路を刻んだ小型の分析用チップ(マイクロ流体チップ)に組み込みました。そして、スマートフォンで撮影した画像と機械学習のアルゴリズムを組み合わせることで、複数の試料を同時に分析できる迅速な検出手順を構築したとしています。

研究が示すこと

この研究は、ひとつの材料の蛍光の色の変化を手がかりに、抗菌薬と除草剤という2種類の物質を検出する仕組みを示したものです。著者らは、これらの結果がEu@ZnMOFを環境や食品の安全性検査に応用できる可能性を示すものだと位置づけています。

原著論文の著者・所属:Ze Li(School of Chemical and Pharmaceutical Engineering Hebei University of Science and Technology Shijiazhuang China)、Yan Man(Institute of Quality Standard and Testing Technology Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences Beijing China)、Qingju Liu(Institute of Quality Standard and Testing Technology Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences Beijing China)、Jilong Han(School of Chemical and Pharmaceutical Engineering Hebei University of Science and Technology Shijiazhuang China)、Zhikun Zhang(School of Chemical and Pharmaceutical Engineering Hebei University of Science and Technology Shijiazhuang China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ze Li, Yan Man, Qingju Liu, et al. Machine Learning–Assisted Fluorescent Eu@ZnMOF for the Enoxacin and Glyphosate Detection in Food by Suppressing Sensitization and Ligand–Metal Charge Transfer. Food Frontiers 2026-10-14. DOI: 10.1002/fft2.70377. 原著ライセンス:CC BY.