著者の所属・活動拠点の国は、クロアチアです。

掲載誌:Sensors

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:防カビ剤の残留を手軽に測りたい

チアベンダゾール(TBZ)は、収穫後の果物をカビから守るために広く使われている殺菌剤です。論文の序論によると、TBZは水に溶けにくいため、簡単に洗っても落ちにくく、処理された作物に残り続けることがあります。長期間さらされた場合の健康への影響も先行研究で懸念されており、各国が定める残留基準を守っているかを確かめるには、食品中のTBZ濃度を測る必要があります。

現在、TBZの測定には主にクロマトグラフィーと呼ばれる分析法が使われています。この方法は感度も精度も高い一方で、試料の前処理に手間と時間がかかり、有機溶媒を大量に使い、高価な装置と熟練した担当者が必要です。そこで研究チームは、より簡便な方法として、溶液中の物質の量を電位(電圧)の変化として読み取る「電位差測定型センサー」に着目し、TBZを選んで測れる新しいセンサーの開発に取り組みました。

「分子の鋳型」とカーボンナノチューブを組み合わせる

センサーがTBZだけを見分けられるよう、研究チームは「分子インプリントポリマー(MIP)」という材料を使いました。これは、TBZ分子を型として樹脂を作り、その後TBZを洗い流すことで、TBZの形に合ったくぼみを樹脂の中に残したものです。ただし、MIPは中で物質が動きにくく、反応が遅くなることがあります。そこで、表面積が大きい炭素材料である多層カーボンナノチューブを組み合わせました。

具体的には、カーボンナノチューブをメタクリル酸という物質で処理してから樹脂の中に取り込み、さらに、センサーの膜にも別途カーボンナノチューブを加えました。著者らは、カーボンナノチューブで改質したMIPと、膜に追加したカーボンナノチューブの両方を組み合わせたTBZ用センサーは、これまで報告されていないとしています。

研究チームは、膜を柔らかくする「可塑剤」の種類、MIPの量、追加するカーボンナノチューブの量を変えて、多数の膜を作り比べました。その結果、可塑剤にDBP(フタル酸ジブチル)を使い、MIPを3重量%、カーボンナノチューブを2重量%含む膜が最も良い性能を示しました。カーボンナノチューブを追加しなかった膜は、濃度変化に対する電位の変化が小さく、検出できる最低濃度も高くなっており、著者らは追加したカーボンナノチューブが応答の改善に寄与したと報告しています。

主な結果:感度・速さ・果皮抽出液での測定

最適化したセンサーは、濃度が10倍変わるごとに59.7ミリボルト電位が変わり、理論上の理想的な応答に近い値を示しました。検出限界は3.2×10⁻⁷モル濃度、測定に使える濃度範囲は6.2×10⁻⁷から1×10⁻³モル濃度で、応答時間は4秒でした。同じ組成で別々に作った3個のセンサーもほぼ同じ性能を示しました。電位はpH2〜4の酸性条件で安定しており、論文では、TBZが測定に適した形で存在するのは酸性条件であるため、この範囲は実用上の制約にならないとしています。また、調べた13種類の妨害となりうる物質(ほかの殺菌剤や金属イオンなど)に対して、良好な選択性を示したと報告されています。

実際の試料として、TBZがよく使われるオレンジ、レモン、バナナの皮から抽出液を作り、TBZを加えて測定しました。加えた量に対して測定された割合(回収率)は、オレンジで107.6%、レモンで106.0%、バナナで104.2%でした。なお、TBZは抽出後に加えているため、この結果は抽出液中での測定の正確さを示すもので、皮から抽出する工程での回収を示すものではないと著者らは説明しています。

研究の意味

論文は、既に報告されているTBZ用の電位差測定型センサーと比べて、今回のセンサーは理論上の応答に最も近く、応答が速く、電位も安定しており、検出限界や測定範囲は同程度を保ち、約100日間使えたと報告しています。分子の形を覚えた樹脂とカーボンナノチューブを組み合わせることで、果皮抽出液中の防カビ剤を、大がかりな装置に頼らず選択的に測る手段が示された研究といえます。

原著論文の著者・所属:Mirela Samardžić(Department of Chemistry, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Cara Hadrijana 8/A, 31000 Osijek, Croatia)、Andrea Dandić(Department of Chemistry, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Cara Hadrijana 8/A, 31000 Osijek, Croatia)、Izabella Doris Panić(Department of Chemistry, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Cara Hadrijana 8/A, 31000 Osijek, Croatia)、Mateja Budetić(Department of Chemistry, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Cara Hadrijana 8/A, 31000 Osijek, Croatia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mirela Samardžić, Andrea Dandić, Izabella Doris Panić, et al. A Potentiometric Sensor Based on a Molecularly Imprinted Polymer Modified with Multi-Walled Carbon Nanotubes for the Selective Determination of Thiabendazole Residues in Fruit Peels. Sensors 2026-10-13. DOI: 10.3390/s26206474. 原著ライセンス:CC BY.