著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Toxins
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
フグ毒として知られるテトロドトキシン(TTX)は、非常に強力な神経毒です。熱に強いため、通常の調理では毒性を十分に取り除けません。特効薬もまだありません。TTXは神経や筋肉の信号伝達に必要なナトリウムの通り道(電位依存性ナトリウムチャネル)をふさぎます。軽い場合は唇や手足のしびれ、吐き気などが起こり、重い場合は呼吸筋のまひなどで死に至ることがあります。
論文によると、中国沿岸には多くの種類のフグが生息しています。南東部沿岸では、はえ縄漁や底引き網漁で、目的外の魚としてよく混獲されます。野生のフグは種ごとの見た目が似ているため、正確な見分けが難しく、混獲物を誤って食べて中毒が起こりやすいとされます。著者らが引用した2011〜2020年の全国調査では、フグ中毒は92件、患者339人、死者15人でした。発生は広東・福建・海南など南東沿岸に集中していました。
一方で、この海域の野生フグについて、どの種がどれほど毒を持つかを体系的に示したデータは限られていました。そこで研究チームは、福建・広東・広西・海南の沿岸で野生フグを大規模に調べました。種、組織、性別、季節によってTTXの量がどう違うかを明らかにし、食品安全上のリスクを評価することが目的です。
何をどのように調べたか
研究チームは2019年9月から2020年10月にかけて、漁船の混獲物として得られた野生フグ1230匹を集めました。形態の特徴から、これらをサバフグ属(Lagocephalus)とトラフグ属(Takifugu)の計10種に分類しました。
各個体は解剖され、眼、皮、筋肉、卵巣、精巣、肝臓、消化管、腎臓、心臓の9つの組織に分けられました。各組織のTTX量は、抗体を使って毒を測るELISAという方法で測定されました。ELISAは操作が簡単で、多くの試料を低コストで調べられます。そのため、今回のような広い地域にわたる大規模調査に向いているとして選ばれました。
毒性の判定には、組織1グラムあたりのTTX量に基づく4段階の基準が使われました。2.2マイクログラム未満が「無毒」、2.2以上22未満が「弱毒」、22以上220未満が「強毒」、220以上が「致死毒」です。個体ごとのばらつきが大きく、平均値では非常に毒の強い個体の危険を見落としかねません。そのため著者らは、安全側に立ち、各組織で検出された最大値をもとに評価しました。
主な結果
種による差ははっきりしていました。多くの種で高い毒性が見られました。中でもTakifugu bimaculatusとTakifugu oblongusは致死毒の段階に達し、最大値はそれぞれ1グラムあたり320マイクログラムと393.56マイクログラムでした。一方、Lagocephalus wheeleriとLagocephalus gloveriは最大値がそれぞれ1.79と1.27マイクログラムで、無毒に分類されました。同じ福建の海域でとれた種どうしでも、毒性は大きく異なっていました。サバフグ属の4種の中では、Lagocephalus lunarisが最も毒性の強い種でした。著者らは、種による差の重要な要因として食性の違いを挙げています。ただし、これは研究チームが示した仮説として述べられています。
組織別に見ると、これまでの報告と同じく、卵巣、肝臓、消化管、皮にTTXが多く蓄積していました。筋肉は一般に少なめでした。ただし、TTXは調べたほぼすべての組織で見つかりました。通常はリスクが低いとされる組織でも、種によっては高い値が出ています。たとえばTakifugu poecilonotusとT. oblongusの雌では、眼から最大39.8と10.12マイクログラム、筋肉から最大48と24マイクログラムが検出されました。著者らはこれを食品安全上の懸念点として挙げています。T. oblongusの消化管では最大378マイクログラムと、致死毒の段階に当たる値も報告されました。
性別による違いもありました。毒を持つフグでは、全体として雌のほうが雄よりTTX量が多い傾向でした。雌は主に卵巣、肝臓、消化管、皮に、雄は主に肝臓、消化管、皮に毒を蓄えていました。特に差が大きかったのはT. bimaculatusの生殖腺で、雌の320マイクログラムに対し、雄は1.13マイクログラムでした。なお、無毒とされた2種では性差は見られませんでした。
季節による変化も確認されました。たとえばL. lunarisの雌では、卵巣のTTXの最大値が夏の29.63マイクログラムから冬の160.26マイクログラムへと大きく上がっていました。雄の季節変化は比較的小さいものでした。著者らは、雌が夏の排卵後に卵巣の毒を失い、秋から冬にかけて活発に餌を食べて再び蓄積する可能性を示しています。どの季節に毒が多くなるかは種によって異なりました。
研究が示すこと
この研究は、中国南東部沿岸の野生フグについて、毒の強い種と弱い種、毒がたまりやすい部位、性別や季節による違いを大規模にまとめたものです。著者らは、地域のリスク監視や種の管理に役立つ基礎データになると位置づけています。同じ海域でも種によって毒性が大きく異なり、筋肉や眼のように比較的安全と思われがちな部位でも高い値が出る場合があります。こうした結果は、見分けにくい野生フグを誤って食べることの危険を裏づけています。
一方で、著者らは限界も明記しています。ELISAはTTXと、それに似た構造の関連物質を区別できません。そのため、報告された値は実際の毒の総量より低めである可能性があります。また、漁業の休漁期などで多くの種は四季すべての試料をそろえられませんでした。季節については、TTXの蓄積が季節によって変わるという点だけが確かな結論とされています。
原著論文の著者・所属:Xinxin Zhang(College of Food Science and Technology, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China; Key Laboratory of Cultivation and High-Value Utilization of Marine Organisms in Fujian Province, National Research and Development Center for Marine Fish Processing, Fisheries Research Institute of Fujian, Xiamen 361021, China)、Min Xu(Key Laboratory of Cultivation and High-Value Utilization of Marine Organisms in Fujian Province, National Research and Development Center for Marine Fish Processing, Fisheries Research Institute of Fujian, Xiamen 361021, China)、Bei Chen(Key Laboratory of Cultivation and High-Value Utilization of Marine Organisms in Fujian Province, National Research and Development Center for Marine Fish Processing, Fisheries Research Institute of Fujian, Xiamen 361021, China)、Shuilin Cai(Key Laboratory of Cultivation and High-Value Utilization of Marine Organisms in Fujian Province, National Research and Development Center for Marine Fish Processing, Fisheries Research Institute of Fujian, Xiamen 361021, China)、Qilin Huang(College of Food Science and Technology, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、Kun Qiao(Key Laboratory of Cultivation and High-Value Utilization of Marine Organisms in Fujian Province, National Research and Development Center for Marine Fish Processing, Fisheries Research Institute of Fujian, Xiamen 361021, China)、Zhiyu Liu(College of Food Science and Technology, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China; Key Laboratory of Cultivation and High-Value Utilization of Marine Organisms in Fujian Province, National Research and Development Center for Marine Fish Processing, Fisheries Research Institute of Fujian, Xiamen 361021, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xinxin Zhang, Min Xu, Bei Chen, et al. Distribution of Tetrodotoxin in Wild Pufferfish from the Southeastern Coastal Regions of China. Toxins 2026-10-20. DOI: 10.3390/toxins18100458. 原著ライセンス:CC BY.