著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:International Journal Software Engineering and Computer Science (IJSECS)
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:勘に頼る煮詰め作業を安定させる
ヤシ砂糖は、ヤシの樹液を加熱して水分を飛ばし、糖分が結晶化するまで煮詰めて作る天然の甘味料です。インドネシアでは、多くの小規模な家内工業が生産しています。
従来の作り方では、薪を燃やす開放型のかまどで樹液を煮詰めます。火加減や仕上がりの見極めは、作業者の目視や手触りによる判断にほぼ任されています。論文によると、加熱しすぎると焦げや過度のカラメル化が起き、加熱が足りないと水分が残って傷みやすくなります。また、薪の消費量が多く、熱が均一に伝わりにくいことや、作業者が煙や熱にさらされることも課題として挙げられています。
研究チームは、モノのインターネット(IoT)の技術を使い、温度と粘度(樹液のとろみ具合)を同時に測りながら加熱を自動で調整する仕組みを開発しました。そして、実際の生産現場でその性能を確かめることを目的としました。著者らは、温度と粘度の測定と、ガス加熱の自動調整を組み合わせた手頃な一体型の仕組みは、これまで十分に示されていなかったと述べています。
開発した仕組みと試験の方法
仕組みの中心は、無線通信機能を備えた小型の制御用コンピューター(ESP32と呼ばれるマイコン)です。防水型のデジタル温度センサーが沸騰中の樹液の温度を測り、液体に浸すタイプの粘度センサーが煮詰まり具合の変化をとらえます。
マイコンは測定値を目標範囲と照らし合わせ、ガスの流れを開け閉めする弁を電気的に操作します。目標範囲は95〜110℃です。論文の説明では、110℃に達すると弁を閉じて容器に残った熱を利用し、95℃近くまで下がると再び加熱を始めます。このように測定結果をもとに加熱を自動で調整する方式は「閉ループ制御」と呼ばれます。測定データは10秒ごとにWi-Fiでクラウドに送られ、ウェブ画面で温度や粘度の推移をリアルタイムに確認できます。
研究は、必要な機能の整理と設計、装置とプログラムの開発、センサーの校正と実験室での試験、協力先の家内工業での現場試験という順に進められました。校正とは、基準となる測定器と比べて読み取り値のずれを補正する作業です。現場試験では20リットルの新鮮な樹液を1回分とし、この仕組みを取り付けたガス加熱の釜と、従来の薪のかまどで同じ量の樹液を処理しました。そのうえで、所要時間、燃料の消費量、温度の安定性、不良品の割合を比較しています。
主な結果
実験室での試験では、温度センサーの平均誤差は基準の温度計に対して0.26%、粘度センサーの平均誤差は0.98%と報告されています。無線通信では、送ったデータの99.2%がクラウドに届き、平均の遅れは1.9秒でした。
現場での比較では、1回あたりの平均の煮詰め時間が、従来法の122分から開発した仕組みでは101分に短くなりました。燃料の消費量は、従来法の薪20kgに対し、開発した仕組みではLPガス16kgでした。燃料の種類は異なりますが、論文はこれを燃料の重さで20%の削減と示しています。
温度の安定性は、加熱時間のうち樹液が95〜110℃に保たれていた時間の割合で評価されています。この値は従来法の72%から96%に上がりました。焦げや結晶化不足などがある不良品の割合は、12%から3%に下がりました。著者らは統計的な検定を行い、これら4項目の改善はいずれも統計的に有意(p<0.05)だったと報告しています。
著者らは、不良品が減った理由として温度の安定と粘度の測定を挙げています。温度が安定したことに加え、粘度の測定によって煮詰め終わりのタイミングを客観的に判断できるようになり、作業者の主観に左右されにくくなったという説明です。
この研究が示すこと
この研究は、温度と粘度を測るセンサー、ガス加熱の自動調整、データの遠隔記録を一つの安価な装置にまとめられることを示しました。さらに、伝統的なヤシ砂糖づくりの現場で、作業時間、燃料の消費量、仕上がりの安定性に改善が見られたと報告しています。
一方で、著者らは限界も挙げています。現場での検証は協力先の1か所だけで行われました。また、制御は固定の温度範囲に基づいており、樹液の糖度や量の違いには自動で対応できません。粘度センサーには定期的な清掃と校正が必要なことも指摘されています。今回の結果は、こうした条件の下で得られた報告として受け止める必要があります。
原著論文の著者・所属:Jhonson Efendi Hutagalung(Department of Computer Systems, Royal University, Asahan Regency, North Sumatra Province, Indonesia.)、Sudarmin Sudarmin(Royal University)、Santoso Santoso(Royal University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jhonson Efendi Hutagalung, Sudarmin Sudarmin, Santoso Santoso. Innovation in Smart Sensor Technology for Automated Palm Sugar Cooking Control to Improve Production and Sales at Harapan Palm Sugar Producers. International Journal Software Engineering and Computer Science (IJSECS) 2026-11-01. DOI: 10.35870/ijsecs.v6i3.8245. 原著ライセンス:CC BY.