著者の所属・活動拠点の国は、イラン、ドイツです。

掲載誌:Food Chemistry Advances

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

チモールは植物由来の成分で、抗菌作用をもつことで知られています。ただし水に溶けにくい性質があるため、食品などで使うには、うまく包み込んで運ぶ「運搬体(キャリア)」が必要になります。

研究チームは、パン酵母などとして知られる酵母サッカロミセス・セレビシエの使用済み酵母を分解した「酵母加水分解物」に注目しました。これを化学的に改変し、チモールを包み込む持続可能なナノサイズの運搬体として使えるかを調べました。あわせて、抗菌性能、チモールの放出のされ方、細胞や赤血球への影響を予備的に評価しています。なお、今回の紹介は論文の抄録に基づいています。

何をしたのか

著者らは、酵母加水分解物に硫黄を含む「チオール基」を付ける処理(チオール化)と、窒素を含む「アミノ基」を付ける処理(アミノ化)を行い、2種類の改変素材を作りました。そのうえで、液の酸性・アルカリ性の度合い(pH)の変化を利用してチモールを包み込み、ナノサイズの複合体を作製しました。

赤外分光法や円二色性分析といった、分子の構造を調べる手法により、改変が実際に行われたことが確かめられたと報告されています。また、たんぱく質の大きさを調べる電気泳動の結果からは、改変後に分子量の小さいペプチド(たんぱく質の断片)が多くなる方向への変化が示されました。

主な結果

チオール化とアミノ化のいずれも、赤痢菌の一種であるシゲラ・フレックスネリと黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用を有意に高めました。なかでもチオール化した素材が最も強い増殖抑制を示したと報告されています。

チモールを包み込む効率は高く、チオール化素材で94%、アミノ化素材で91%でした。液中での粒子の大きさを測る動的光散乱法では、それぞれ直径233.8ナノメートルと261.1ナノメートルの、1マイクロメートルより小さい安定した複合体が確認されました。

試験管内での放出試験では、どちらの複合体も、放出の様子が二つの段階に分かれる「二相性」のパターンを示したと報告されています。抄録には、それぞれの段階での放出の速さや量は記されていません。48時間の観察では、チオール化素材のほうがアミノ化素材よりもチモールをより多く内部に保持していました。

安全性の予備評価として、ヒトの腸由来の細胞(Caco-2細胞)の生存率は83%を上回り、赤血球が壊れる割合(溶血率)は5%未満で、著者らは許容できる生体適合性と判断しています。さらに、細胞生存率と溶血の変化は数式モデルでよく説明でき(決定係数0.98超)、機械学習の一種であるガウス過程回帰でも両方の指標を高い精度で予測できたと報告されています。

研究の意味

この研究は、副産物である使用済み酵母を化学的に改変することで、水に溶けにくい抗菌成分を効率よく包み込み、その放出を制御する運搬体として利用できる可能性を示しました。著者らは、こうした素材が食品分野で抗菌成分を制御しながら届ける持続可能なナノ運搬体になりうると結論づけています。安全性については、細胞と赤血球を用いた予備的な評価の段階での報告です。

原著論文の著者・所属:Elahe Abedi(Department of Food Science and Technology, Faculty of Agriculture, Fasa University, Fasa, Iran; Technische Universität Berlin, Institute of Food Technology and Food Chemistry, Chair of Brewing and Beverage Technology, Ackerstr. 76, 13355, Berlin, Germany)、Philip C. Wietstock(Technische Universität Berlin, Institute of Food Technology and Food Chemistry, Chair of Brewing and Beverage Technology, Ackerstr. 76, 13355, Berlin, Germany)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Elahe Abedi, Philip C. Wietstock. Sustainable Thiolated/Aminated Spent Yeast Hydrolysate-Based Nanocarriers for Thymol Encapsulation: Antimicrobial Performance, Controlled Release, Cytotoxicity Assessment. Food Chemistry Advances 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.focha.2026.101402. 原著ライセンス:CC BY.