著者の所属・活動拠点の国は、パキスタンです。
掲載誌:Medical and Life Sciences
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
増え続ける「キノコ栽培の残りもの」
キノコは、良質なたんぱく質を比較的少ない環境負荷で得られる食品として、世界中で消費が伸びています。論文によると、世界のキノコ生産量は1990年から2020年までの30年間で約13.8倍の4280万トンに増えました。生産の大部分はアジアに集中し、中国が市場の約9割を占めますが、欧州や北米でも産業化が進んでいます。
キノコはわらやおがくず、作物の残さなど植物由来の材料を固めた「培地」で育てます。収穫後に残る培地は「使用済みキノコ培地」と呼ばれ、論文では年間およそ6000万トン発生すると紹介されています。水分が多くかさばるため、運搬や処分に費用がかかります。積んで仮置きすると温室効果ガスが出たり、しみ出した液が水を汚したり、悪臭が生じたりして、生産者にとって大きな負担になっています。
著者らはこの総説で、キノコ生産の動向や栄養面の特徴とあわせて、使用済み培地を価値ある資源として活用する方法についての研究を整理しました。新しい実験を行ったのではなく、公表された文献をまとめた論文です。
肥料・飼料・エネルギーへの活用
使用済み培地には、キノコが分解しきれなかった繊維質(セルロースやリグニンなど)が残っています。論文によると、その成分は栽培したキノコの種類や元の培地の材料によって大きく異なります。著者らは、この残った成分を生かす研究をいくつかの分野に分けて紹介しています。
一つ目は土に戻す使い方です。堆肥や、微生物の働きで作物の生育を助ける「バイオ肥料」の材料になります。紹介された研究の一つでは、1ヘクタールあたり100トンの使用済み培地を施すと、オオムギの収量が化学肥料と同程度に、約5割増えたと報告されています。豚ふんを堆肥化する際に混ぜると、トウモロコシの茎葉を混ぜた場合よりも一酸化二窒素とアンモニアの排出がそれぞれ36%と46%減った例も挙げられています。ただし、この例ではメタンの排出は約10%増えたとされています。
二つ目は家畜や養殖魚、昆虫の餌です。キノコが育つ過程で繊維が分解され、菌糸由来のたんぱく質などが加わるため、植物の残さのままよりも餌として利用しやすくなると説明されています。紹介された研究には、ティラピアの餌に一定量加えると成長などが改善した例があります。また、6種類のキノコの使用済み培地でアメリカミズアブやミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシ)の幼虫を育てる研究では、シイタケの培地が従来の餌の代わりとして最も有望だったと報告されています。
三つ目はエネルギーです。乳牛のふん尿と混ぜて発酵させると、それぞれ単独の場合よりも多くのメタンが得られたとする研究があります。培地に残る繊維を糖に分解すれば、バイオエタノールの原料にもなります。紹介された試算では、条件によって使用済み培地1トンから約150キログラムのエタノールが得られる可能性が示されています。
四つ目は、酵素や有用成分の回収です。キノコは培地を分解するために、ラッカーゼなどの酵素を分泌します。これらは培地中に残っているため、水を使って比較的簡単に取り出せると論文は説明しています。特定の溶液の組み合わせで二層に分ける方法を使うと、ラッカーゼの活性の95%を回収できたという報告も紹介されています。
一つの培地から複数の価値を引き出す
著者らは、これらの研究をまとめると、使用済み培地を一度きりの廃棄物と見なすのではなく、同じ材料から飼料、肥料、エネルギー、有用成分を順に取り出し、最後に土へ戻す「統合型バイオリファイナリー」の考え方に根拠が集まりつつあると結論づけています。
一方で、こうした活用はまだ広く普及していません。論文は課題として、培地の成分がキノコの種類や栽培方法によってばらつき、標準化が難しいことを挙げています。さらに、大規模で複数シーズンにわたる野外試験や、経済性・環境負荷の評価が不足していること、キノコ農場と周辺の農業・畜産・エネルギー分野との連携が十分でないことも指摘しています。
この総説は、キノコ栽培の副産物を処分すべき「農業廃棄物の問題」としてではなく、循環型の経済を支える資源として捉え直すための見取り図を示しています。
著者:Muhammad Awais Fareed(Department of Plant Pathology, College of Agriculture, University of Sargodha, Sargodha-48100, Pakistan)、Mazeera Fatima(Institute of Food Science and Nutrition, University of Sargodha, Sargodha-40100, Pakistan)、Shahzaib Asghar(Department of Plant Pathology, College of Agriculture, University of Sargodha, Sargodha-48100, Pakistan)、Zara Zahid(Institute of Food Science and Nutrition, University of Sargodha, Sargodha-40100, Pakistan)、Muhammad Tayyab Mateen(Centre of Excellence for Citrus, College of Agriculture, University of Sargodha, Sargodha-40100, Pakistan)、Abdul Basit Latif(Department of Entomology, College of Agriculture, University of Sargodha, Sargodha-40100, Pakistan)、Iram Bilqees(Department of Plant Pathology, College of Agriculture, University of Sargodha, Sargodha-40100, Pakistan)、Sonum Bashir(Department of Plant Pathology, College of Agriculture, University of Sargodha, Sargodha-40100, Pakistan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Awais Fareed, Mazeera Fatima, Shahzaib Asghar, et al. Circular Economy of Mushroom Cultivation and Used Substrate Potential for Various Valuable Products. Medical and Life Sciences 2026-09-20. DOI: . 原著ライセンス:CC BY.