日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の目的
高齢者では、栄養が不足していることや筋力が弱っていることが、どちらも死亡リスクの高さと関係することが知られています。ただし、この二つを組み合わせて見た研究は、主に入院患者やがん患者を対象としていました。地域で普通に暮らす高齢者を長く追跡した研究は多くありませんでした。
研究チームが注目したのは「レッグプレス」と呼ばれる脚の力の測定です。座った姿勢で両足をペダルに乗せて押し出す動作で、股関節・膝・足首を同時に伸ばします。お尻、太もも、ふくらはぎといった脚の主な筋肉の多くが関わるため、握力や太ももの筋力だけを測る方法より、脚全体の働きを広くとらえられると著者らは説明しています。これまでのレッグプレスの研究は、重りの重さと反復回数から最大値を推定したものがほとんどで、最大値を直接測定した研究はわずかでした。
そこで研究チームは二つの点を調べました。一つは、直接測ったレッグプレスの値が、男女の高齢者の死亡リスクを予測できるかどうかです。もう一つは、この脚の筋力と栄養状態を組み合わせた指標「MS-GNRI」を使えば、死亡リスクの高い人をより正確に見分けられるかどうかです。
何をどう調べたか
対象は、宮城県仙台市の鶴ヶ谷地区で2002年に始まった地域の高齢者研究「鶴ヶ谷プロジェクト」の参加者です。70歳以上の1065人を分析し、2018年7月までの約16年間に亡くなったかどうかを調べました。この間に415人が亡くなっています。
脚の力は専用の機器で測りました。膝を90度に曲げて座った姿勢から、できるだけ速く全力でペダルを押し、5回のうち最高の値を記録しています。体格の影響を除くため、この値を体格指数(BMI)で割って用いました。
栄養状態の評価には「GNRI(高齢者栄養リスク指数)」を使いました。血液中のアルブミン(栄養状態を反映するたんぱく質)の濃度と、身長から計算される理想体重に対する実際の体重の割合を組み合わせた指標です。
脚の力は男女別に「高い」と「低い」の2群に分けました。GNRIは「良好」と「不良」の2群に分けました。分ける基準値は、この集団の16年間の死亡データから最も差がはっきり出るように決めています。この二つを組み合わせて、参加者を4つのグループに分類しました。
比較にあたっては、年齢、性別、喫煙歴、歩行などの身体機能、認知機能、高血圧や糖尿病などの持病の影響を統計的に差し引いた分析も行っています。
主な結果
脚の力が低いグループと栄養状態が不良のグループは、それぞれ死亡リスクが高くなっていました。年齢や持病などの影響を差し引いた後、脚の力が低いグループは高いグループの約1.8倍でした。栄養状態が不良のグループは良好なグループの約1.6倍でした。
4つのグループで比べると、生存率に段階的な差が見られました。最も良かったのは「脚の力が高く栄養状態も良好」なグループで、最も悪かったのは「脚の力が低く栄養状態も不良」なグループです。5年間の死亡率は、前者が5.60%、後者が27.64%と報告されています。年齢などの影響を差し引いた分析でも、両方が悪いグループの死亡リスクは、両方が良いグループの約2.5倍でした。
中間の2つのグループの比較も報告されています。「脚の力は高いが栄養状態が不良」なグループと「脚の力は低いが栄養状態は良好」なグループです。年齢などの影響を差し引く前は、前者のほうが生存率は良好でした。しかし差し引いた後は、両者の差は統計的に意味のあるものではなくなりました。著者らは、この2つを同程度の中間的なリスクと位置づけています。
研究の初めの2年以内に亡くなった30人を除いて分析し直しても、同じような段階的な傾向が見られました。もともとの病気によって筋力と栄養状態の両方が低下していた可能性を考慮した確認です。
予測の精度も調べています。死亡リスクの高い人をどれだけ正しく見分けられるかを0.5(見分けられない)から1.0(完全に見分けられる)で表す指標で、脚の力だけでは0.54、GNRIだけでは0.59でした。両者を組み合わせたMS-GNRIでは0.63に向上しました。追跡8年時点と12年時点の評価でも、組み合わせた指標のほうがそれぞれ単独より高い精度を示しました。
研究が示すこと
この研究は、地域で暮らす日本の高齢者で、直接測った脚の力の弱さが長期的な死亡リスクの高さと関連していたことを示しました。脚の力と栄養状態を合わせて見ると、どちらか一方だけで見るより死亡リスクの高い人を見分けやすくなることも報告しています。著者らは、栄養を保つことに加えて、筋力を保つことも長生きに大きく関わる可能性があると述べています。
一方で、これは関連を調べた研究です。脚の力を鍛えることで死亡リスクが下がるかどうかは、まだ確かめられていません。また、グループ分けの基準値はこの集団のデータから決めたもので、対象も日本人に限られます。ほかの集団にも同じように当てはまるかどうかは、今後の確認が必要だと著者らは述べています。
原著論文の著者・所属:Yilin Du(Department of Rehabilitation Medicine Tohoku University Graduate School of Medicine Sendai Japan)、Tatsuma Okazaki(Department of Rehabilitation Medicine Tohoku University Graduate School of Medicine Sendai Japan)、Xiang Li(Department of Rehabilitation Medicine Tohoku University Graduate School of Medicine Sendai Japan)、Keisuke Obata(Department of Rehabilitation Medicine Tohoku University Graduate School of Medicine Sendai Japan)、Naoki Suzuki(Department of Rehabilitation Medicine Tohoku University Graduate School of Medicine Sendai Japan)、Takahiro Miura(Department of Rehabilitation Medicine Tohoku University Graduate School of Medicine Sendai Japan)、Midori Miyagi(Department of Rehabilitation Medicine Tohoku University Graduate School of Medicine Sendai Japan)、Ryoichi Nagatomi(Designing Future Health Initiative, Promotion Office of Strategic Innovation Tohoku University Sendai Japan)、Mana Kogure(Department of Preventive Medicine and Epidemiology Tohoku Medical Megabank Organization Sendai Japan)、Naoki Nakaya(Department of Preventive Medicine and Epidemiology Tohoku Medical Megabank Organization Sendai Japan)、Atsushi Hozawa(Division of Epidemiology, Graduate School of Medicine Tohoku University Sendai Japan)、Satoru Ebihara(Department of Rehabilitation Medicine Tohoku University Graduate School of Medicine Sendai Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yilin Du, Tatsuma Okazaki, Xiang Li, et al. Integrating Leg‐Press Strength and Nutritional Status Improves 16‐Year Mortality Risk Stratification in General Older Adults. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2026-10-01. DOI: 10.1002/jcsm.70375. 原著ライセンス:CC BY.