この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Model Organisms Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

中国の代表的なウーロン茶のひとつに、鳳凰単叢(ほうおうたんそう)と呼ばれる種類があります。著者らによれば、この茶の仕上げ工程で欠かせないのが焙煎(ロースト)で、焙煎のかけ方によって出来上がった茶の香りの個性が大きく変わるとされています。なかでも鴨屎香(ヤーシーシャン)は、消費者にもっとも人気のある品種だと論文は説明しています。

この研究で著者らが取り組んだのは、焙煎の強さを変えたときに鴨屎香の香りを実際に形づくっている成分がどう入れ替わるのかを、成分レベルで突き止めることでした。

どのように調べたか

研究チームは、焙煎の程度が異なる三種類の試料、すなわち軽焙煎・中焙煎・強焙煎の鴨屎香を対象としました。

分析には、茶から立ちのぼる香り成分を吸着して集める手法(SPME)と、成分を二段階に分けて精密に切り分けながら、機械による検出と人の嗅覚による確認を同時に行う分析装置(GC×GC-O-TOF MS)を組み合わせています。人が実際に「においとして感じ取れる」成分、すなわち香気活性成分を特定できる点が、この組み合わせの特徴です。得られたデータは多変量統計解析にかけ、三つの試料の香り組成の違いを比較しました。

報告された主な結果

論文によれば、合計126種類の香気活性成分が検出され、そのうち相対的な香りへの寄与の大きさを示す指標(相対オダーアクティビティ値)が1以上だったものは38種類でした。統計解析(PLS-DA)では、三つの試料の香り組成に明確な違いが認められたと報告されています。

軽焙煎の試料では、アルコール類・アルデヒド類・ケトン類・エステル類が主な香りの担い手で、具体的には(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、3,5-オクタジエン-2-オン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、オクタン酸エチルが挙げられています。中焙煎ではγ-カプロラクトンや2,3-ブタンジオンといった成分が増え、クリームのような濃厚な甘い香りをもたらしていました。強焙煎では、加熱によって糖とアミノ酸が反応して香ばしさを生むメイラード反応に深く関わる環状の化合物、たとえば2-エチル-5-メチルピラジン、2,5-ジメチル-3-エチルピラジン、N-メチルピロール-2-カルボアルデヒド、インドール、2-ペンチルフランなどが著しく増加したと述べられています。

著者らはこれらの結果から、焙煎は脂肪酸の酸化、メイラード反応、熱分解といった経路を段階的に働かせることで、鴨屎香の香りを「青っぽさ・花・果実」の系統から「甘さ・木質・焙煎香・燻香・薬草様」の系統へと移行させていると結論づけています。

この研究が示すこと

同じ茶葉であっても、焙煎の強さが変わればそこで進む化学反応の種類が変わり、結果として立ちのぼる香りの性格そのものが移り変わる――この研究は、その過程を具体的な成分の名前とともに描き出したものだといえます。茶の香りの違いが感覚的な印象にとどまらず、測定できる成分の変化として捉えられることを示した報告です。

著者:Yanbo Wang(Flavor Science Laboratory, Beijing Life Science Academy (BLSA), Beijing 102209, China)、Ye Liu(Flavor Science Laboratory, School of Food and Health, Beijing Technology and Business University (BTBU), Beijing 100048, China)、Hong Zeng(Flavor Science Laboratory, School of Food and Health, Beijing Technology and Business University (BTBU), Beijing 100048, China)、Shuang Bi(Flavor Science Laboratory, School of Food and Health, Beijing Technology and Business University (BTBU), Beijing 100048, China)、Jingrong Wang(Flavor Science Laboratory, Beijing Life Science Academy (BLSA), Beijing 102209, China)、Lulu Guo(Flavor Science Laboratory, Beijing Life Science Academy (BLSA), Beijing 102209, China)、Jian Mao(Flavor Science Laboratory, Beijing Life Science Academy (BLSA), Beijing 102209, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yanbo Wang, Ye Liu, Hong Zeng, et al. Effect of roasting conditions on the aroma characteristics of Fenghuang Dancong oolong tea (Yashixiang). Model Organisms Research 2026-09-23. DOI: 10.1016/j.mores.2026.100033. 原著ライセンス:CC BY.