この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:LWT

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ウーロン茶は、茶葉を部分的に発酵(酸化)させて作られるお茶で、独特の香りと複雑な味わいで世界的に親しまれています。その味を決める重要な要素が「苦味」と「渋味」であり、これらは茶葉に含まれるポリフェノールと深く関わることが知られています。ポリフェノールは植物に広く含まれる成分の総称で、茶葉では乾燥重量のおよそ30%を占めるとされます。

ただし、研究チームは、ウーロン茶の種類ごとに味が異なる理由について、どのポリフェノールがどの程度寄与しているのかは十分に解明されていないと指摘しています。そこで著者らは、代表的なウーロン茶を対象に、味の違いに関わる主要なポリフェノールを特定し、その働きを確かめることを目的として本研究を行いました。

何を、どのように調べたか

研究チームは、発酵の程度と産地が異なる3種類の代表的なウーロン茶を選びました。軽発酵の鉄観音(福建省南部)、中発酵の大紅袍(福建省北部の武夷岩茶)、強発酵の東方美人(台湾)です。いずれも2025年春に摘まれた茶葉を、それぞれの伝統的な製法にしたがって加工したものです。

味の評価には、訓練を受けた13名のパネリストによる「定量的記述分析」という手法が使われました。これは、苦味・渋味・まろやかさ・重厚感・甘い後味という5つの味の特徴について、その強さを数値で採点する方法です。パネリストは、苦味の基準としてカフェイン、渋味の基準としてエピガロカテキンガレートなどを用いた訓練を受けたうえで評価にあたりました。

化学分析では、質量分析を用いた手法によって茶葉に含まれるポリフェノールを網羅的に調べ、さらに主要な成分については実際の含有量(濃度)を測定しました。加えて、濃度をその成分が味として感じられる最低量(味の閾値)で割った「DOT値」という指標を算出し、実際に味として感じられる可能性のある成分を絞り込みました。そのうえで、候補成分を実際の茶の抽出液に添加して味の変化を確かめる官能試験と、成分が味覚受容体などのタンパク質とどう結合しうるかをコンピューター上で予測する「分子ドッキング」による検討を組み合わせています。

報告された主な結果

官能評価では、3種のお茶がそれぞれ異なる味の特徴を示したと報告されています。東方美人は苦味と渋味がやや強く全体に重厚な味わい、鉄観音はまろやかさが際立ちバランスの取れた味わい、大紅袍は渋味が前面に出た味わいでした。

化学分析では、合計1446種類のポリフェノールが検出され、その内訳はフラボノイド830種、フェノール酸402種、リグナン・クマリン126種、タンニン81種などでした。フラボノイドが全体の57.4%を占め、最も多い分類となっています。3種のお茶は、含まれるポリフェノールの構成という点で明確に区別できたと報告されています。

3種のお茶の間で量に有意な差がある成分として110種類が抽出され、そのうち76種類は大紅袍で最も多く含まれていました。ただし著者らは、この分布だけでは味の違いを説明しきれないとしています。理由として、成分の量が多くても味として感じられる閾値を超えなければ影響しないこと、また実際の味はポリフェノールだけでなくアルカロイドやアミノ酸など複数の成分が組み合わさって生じることを挙げています。

統計解析により、味の特徴と関連する58種類の成分が絞り込まれ、その多くは苦味や渋味と正の相関を示しました。さらに実際の濃度とDOT値を組み合わせた検討から、苦味に関わる可能性のある成分9種類、渋味に関わる可能性のある成分8種類が候補として選ばれました。

官能試験による検証の結果、テアフラビン-3-ガレート、テアフラビン-3,3′-ジガレート、没食子酸、ケルセチン、ケルセチン-3-O-ルチノシド、ケンフェロール-3-O-ルチノシドの6種類が、苦味と渋味に重要な寄与をする成分として支持されました。また分子ドッキングの結果からは、テアフラビン-3-ガレートとテアフラビン-3,3′-ジガレートが、苦味受容体と唾液中のプロリンリッチタンパク質の双方と良好に結合しうることが示され、苦味と渋味の両方に関わる成分である可能性が示唆されたと述べられています。

この研究が示すこと

この研究は、成分の化学的な組成、実際に人が感じる味、そして分子レベルでの相互作用という三つの段階をつなぐ形で、ウーロン茶の苦味と渋味に関わるポリフェノールを整理したものです。著者らは、これによりウーロン茶の苦渋味を調整するうえでの手がかりとなる候補成分を示したとまとめています。

お茶の味の違いは、産地や品種、そして製法の違いとして語られることが多いものですが、本研究はその背後にある具体的な化学成分に、味覚の側から光を当てた報告といえます。

著者:Mengcong Zhang(Key Laboratory for Evaluation and Utilization of Gene Resources of Horticultural Crops , Ministry of Agriculture and Rural Affairs of China, Hunan Agricultural University, Changsha, China)、Shengyu Lei(Key Laboratory for Evaluation and Utilization of Gene Resources of Horticultural Crops , Ministry of Agriculture and Rural Affairs of China, Hunan Agricultural University, Changsha, China)、Qihan Wang(Key Laboratory for Evaluation and Utilization of Gene Resources of Horticultural Crops , Ministry of Agriculture and Rural Affairs of China, Hunan Agricultural University, Changsha, China)、Yan zhao(Key Laboratory for Evaluation and Utilization of Gene Resources of Horticultural Crops , Ministry of Agriculture and Rural Affairs of China, Hunan Agricultural University, Changsha, China)、Jian’an Huang(Key Laboratory for Evaluation and Utilization of Gene Resources of Horticultural Crops , Ministry of Agriculture and Rural Affairs of China, Hunan Agricultural University, Changsha, China)、Zhonghua Liu、Sheng Zhang(Key Laboratory for Evaluation and Utilization of Gene Resources of Horticultural Crops , Ministry of Agriculture and Rural Affairs of China, Hunan Agricultural University, Changsha, China)、Zhihao Qu(Key Laboratory for Evaluation and Utilization of Gene Resources of Horticultural Crops , Ministry of Agriculture and Rural Affairs of China, Hunan Agricultural University, Changsha, China)、Ailing Liu

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mengcong Zhang, Shengyu Lei, Qihan Wang, et al. Metabolism profiles of polyphenols and their contribution to taste attributes in oolong teas. LWT 2026-08-26. DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119871. 原著ライセンス:CC BY.